「食」は「農」から始まることを、伝えよう。

食農社会分野

日本人の食生活を支えているのは、米や野菜などの農産物。
食に対する安心・安全への意識が高まっていることや、
気象変動や環境汚染などによる
食料不足への危機が問題視されていることから、
消費者の農業への関心度が上がっています。

食農社会分野で学ぶのは、
日本の食文化や農業にさらなる価値を見出し、
国内外に発信することで地域を活性化させるための手法。
食品の「生産」「加工」「調理」「流通」に加え、歴史や文化、教育などに関する知識や、
ファームステイなどの実習で得た経験を活用して、
さまざまな施策を試みます。

スポットライト

SPOT LIGHT

食農教育研究室

上岡 美保教授

食農教育で社会を変えるための研究

食農教育とは、農業の生産から加工、流通、消費までの一連の流れ(フードシステム)を軸にした教育のこと。一人ひとりの健康から、食文化、地域マネジメント、さらには飢餓と飽食など世界規模の課題まで、実に幅広い領域をカバーします。

教育の対象は生産者・消費者を含めて食料・農業に関わるすべての人・団体・企業です。学校でおこなわれる授業のようなものばかりではなく、食農に関する知識や技術を周知する活動も含まれています。

この研究室では、食農を社会科学の視点で捉え、「食農教育をすることによって、どんな社会的な効果があるのか」「食農を地域づくりに活用するには、どんな教育が必要なのか」などを模索し、食農がもつ社会的意義を追究します。

食料や農業だけでなく、環境問題にも貢献

消費者への食農教育のひとつとして挙げられるのが、購入したにも関わらず食べずに捨ててしまうといった「食品ロス」を減らすこと。この活動は、「もったいない」や「食べ物を大切にしましょう」という意識を高めるほか、日本が抱える大きな課題でもある「食料自給率の向上」にも貢献することができます。

現在、日本の食料自給率はおよそ40%です。今後、社会情勢や異常気象などでさらに下がる危険がありますが、食料自給率を上げるためにはどうしたらいいでしょうか。実は、食品ロスを減らすことで、自給率を上げることができます。国産の食材を無駄なく使うことで、輸入を減らすことができるからです。また、消費者が「地産地消」を心がけた消費行動をすれば、日本農業を応援することにもつながります。

さらに、食品ロスを減らせば可燃ごみを削減できるので、二酸化炭素の発生が抑えられるという利点もあります。このように、食農教育を通して、食料や農業の問題だけでなく、環境問題にも取り組むことができるのです。

生産者と消費者をつなぎ、地域をコーディネートする

研究室の活動は、自然豊かな里山での農業体験や、生産者が都市部で農産物を直売する「マルシェ」での販売実習・調査など、実践的なフィールドワークが中心です。生産者と消費者の声を聞き、都市と農村の連携を推進するとともに、食料・農業・環境などに関するさまざまな問題の解決をめざします。

研究テーマは、多岐にわたります。食品ロス削減に向けた教育を取り上げてもいいですし、子どもたちへの食農教育を実践するのもいいでしょう。ほかにも、地域の食文化によって観光を活性化させる「フードツーリズム」のコーディネート、開発途上国の農業生産者を国際貿易の中で支援する「フェアトレード」などが考えられ、いずれも机上の勉強ではなく、体験を通して検証を重ねていきます。

食や農を活用した生産活動や消費活動には、地域に貢献できることがたくさんあります。それらを実現するための食農教育は、地域づくりのためには絶対に欠かせないものですし、未来の社会を変える大きな力をもっていると思っています。みなさん、一緒に食農教育でよりよい社会をつくっていきましょう。

稲泉 博己教授

教授×学生対談
稲泉博己 教授
脇田麻友子 さん(国際バイオビジネス学専攻 博士前期課程2年)

小学校の出前授業などの実践的な「学び体験」を用意

稲泉:この研究室では、食と農に関する実体験から生まれる効能に着目し、「食農と学び」の可能性を探求することをめざしています。研究はまず、自然豊かな里山で農業を体験し、農作業の魅力や農家の人の思いを感じることから始めます。

そして、その体験を活かし、小中学校などで農業の大切さを伝えるための「食農教育(食育・農業教育)」を試みます。

そのために、数々の「学び体験」を用意しています。例えば、NPO法人と連携した食育イベント。世田谷区にある小学校で、「食べ物の大切さ」や「野菜をつくる農業が身近にあること」を伝えるための出前授業をおこなっています。

脇田:出前授業は、研究室のメンバーが「農業戦隊アグレンジャー」というキャラクターに扮し、楽しい授業をめざしました。「世田谷区の畑でつくられている野菜は?」「なぜ身近な場所でつくられた野菜を食べるのがいいの?」といった、野菜に関するクイズを出題するなど、子どもたちに興味をもってもらう工夫をしました。

稲泉:ほかにも、世田谷区が主催している区の農業をPRする「アグリフェスティバル」にブースを出したり、東京農大の「食と農」の博物館で親子参加型のお米のワークショップを開催したりするなど、実践的な学びを重視しています。

自らの体験がきっかけとなり、研究テーマを追究

稲泉:このような学びを通して、各自それぞれが研究テーマを見つけるわけですが、脇田さんが選んだテーマは「農業の教育的効果」。脇田さんが、食農教育を考えるきっかけとなったのも、農業体験でしたね。
脇田:その通りです。2年次の実地研修で初めて農業を体験しましたが、それをきっかけに、自分自身でも驚くほど、食と農に関する意識が変化しました。

実は当時、「人生のうちに1回ぐらいは、農業を経験するのもいいかもしれない」と、特に期待もせずに研修に参加していたのです。

ですが、研修の第一印象は、「農業って、意外に楽しい」。しかも、2週間の研修が終わった後、自分自身が生まれ変わったような新鮮な気持ちになりました。新しいものを得た実感とでもいうのでしょうか。このときから、徐々に「食農教育」について興味をもつようになりました。

「楽しい経験」が興味を広げ、発見につながる

稲泉:研究を進めるには、脇田さんのように、まずは自らが楽しんで日本の食と農への興味を広げることが大切です。同時に、実践的な経験を積む必要もあります。

脇田:本当にその通りです。興味をもって食育イベントに参加していたからこそ、今の研究テーマに出会えたのだと思います。

稲泉:「1回ぐらい農業をやってもいいか」と思っていた脇田さんが、たった2週間の農業体験がきっかけとなり、食農教育を研究したいと考えるようになった。これも、食農の教育的効果のひとつです。研究していくと、ほかにもさまざまな発見があるでしょう。

小学生と一緒に水田でどろ遊びをして、高校生、社会人と食農を学び、農山村で農家の人のお手伝いをする……。農業は、コミュニケーションの大切さ、田舎暮らしの面白さなど、さまざまな気づきを与えてくれます。その体験ができる場は惜しみなく提供していきます。

食農文化・政策研究室

大久保 研治准教授

地域で育まれてきた食と農を歴史学、社会学、経済学などの視点から研究していきます。例えば和牛といえば大多数が黒毛和牛ですが、岩手の短角牛や熊本のあか牛など、地域によって独特の和牛が生産されています。これらには歴史的な背景があり、牛を介した独自の文化が形成されてきました。ここでは、そうした地域固有の食農文化を世界に向けて発信し、その資源としての価値をより高めていくことをめざしています。

分野・研究室

LABORATORY

食農社会分野

食農文化・政策研究室
歴史・社会・経済の観点から地域の食文化を理解する
食農教育研究室
日本の食農文化を理解し、食農教育の可能性を追究する