メニュー

応用生物科学部醸造科学科 醸友会

新任あいさつ2022 渡邊

新任のご挨拶

渡邉 康太 助教 (醸造微生物学研究室) 

 

 本年4月より醸造科学科醸造微生物学研究室の助教として着任しました渡邉康太と申します。着任して2ヶ月程で、まだ不慣れなことばかりですが、歴史と伝統のある東京農業大学で研究と教育に携われる喜びと責任を日々感じているところです。少し落ち着いてきたこともあり、自己紹介とご挨拶をさせていただきます。

 私は1990年に福岡県の北九州市で生まれました。元々は山であった場所を切り開いた新興住宅地で育ち、少子化にも関わらず小学校は1学年300人弱のマンモス校で過ごしました(当時はよく分かっていませんでしたが児童数が急激に増えたため、プレハブ校舎や第二運動場が在学中に新設されていました)。特別自然豊かな地域ではありませんでしたが、父が栽培漁業の会社に勤めていたこともあり、幼少期からクルマエビやナマコなど様々な生物に触れ合ってきました。港町でもないのに生きたナマコをお裾分けし、近所の皆様を困惑させる家族だったと思いますが、この頃から生き物に対する興味を抱き、食や生物に関わって生きていきたいと考えるようになりました。その影響もあり、高校を卒業後は東京農業大学の醸造科学科に進学しました。この時はまさか将来ここで働くことになるとは夢にも思っていませんでした。大学では勉学に励むとともに、茶道部に入部し収穫祭では普段授業を行う教室に徹夜で茶室と茶庭を作ったのも良い思い出です。

 研究室では発酵食品化学研究室に配属後、石川森夫准教授(現 教授)の下で、食酢製造に用いる酢酸菌Acetobacter pasteurianusのストレス耐性や代謝経路メカニズムの解明を目的とした基礎的な研究を行なっていました。破壊株や強制過剰発現株の構築を行う実験がただ楽しく、日々実験に明け暮れる中で、大学院に進学したいと考えるようになっていました。しかし、福岡から私立大学に通うというのはやはり金銭的に厳しく、もしどうしても進学したいのであれば一度社会に出て働き、十分な貯金ができた時にまだ進学したいという気持ちがあれば進学すると決め、卒業後は株式会社ピエトロに入社しました。入社後は東京営業所にて首都圏の百貨店や量販店への営業活動とともに、自社運営のアンテナショップの接客やイベントの企画を担当していました。店頭で直接お客様に商品を説明したり、イベントでは着ぐるみの中に入ったりと様々な経験をさせていただきました。ただ、やはり大学卒業時に抱いていた研究への思いを捨てることが出来ず、3年半の勤務後、勉学から離れていたブランクを何とか半年間、缶詰め状態で勉強し九州大学大学院の土壌環境微生物学研究室に進学しました。

 修士課程進学後は研究室が掲げる「環境保全」や「持続型物質生産」に関わる研究をするつもりでいて、酒井謙二教授にも希望する研究テーマを伝え了承を得ました。確かにその日は了承を得たはずだったのですが、翌日開口一番、「髪の毛に興味ない?」と聞かれました。何の話をしているのかさっぱり分からなかったので、詳しく聞いてみると大分県の科捜研で働く社会人博士の方がされていた研究で、「ヒト毛髪に付着する細菌叢による異同識別法の確立」、といった内容の研究でした。ヒト毛髪は犯行現場でよく発見される証拠品である一方、個人の異同識別が可能なヒトDNAは毛根部にしか存在しません。さらに、ヒト毛髪は頭皮から脱落後、日が経つにつれヒトDNAが分解され、証拠品として利用できないケースが多く存在します。そこで、すでに研究が行われていた「手掌部に付着する細菌叢が個々人で異なることを利用した異同識別」と同様に、ヒト毛髪でも細菌叢を利用した個人の識別が可能か、研究が行われていました。そして先行研究ではT-RFLP法による細菌叢解析により、個々人に特異的な細菌叢が存在することが示唆されました。しかし、このT-RFLP法という解析手法は簡便かつ短時間で結果が得られる一方、塩基配列情報を取得できないため、具体的にどんな細菌が毛髪に存在し、どの細菌が個々人で異なるかは分かっていませんでした。このお話を聞き、ヒト毛髪細菌叢解析に興味を持った私は「土壌環境微生物」学研究室に所属するにも関わらず、日々黙々と髪の毛を切る研究に携わることになりました。私の主な研究として、ヒト毛髪に付着する細菌数を明らかにするために行なった低真空条件下でのSEM観察による細菌細胞数計測およびqPCR法によるコピー数定量では、毛幹部(毛根部を除いた毛髪全体)には常に一定数の細菌が存在することを明らかにしました。さらに、毛髪に付着する細菌叢を明らかにするために行なった次世代シーケンサーによる細菌叢解析では、Cutibacterium属(旧名 Propionibacterium属)細菌とPseudomonas属細菌が主要に存在し、さらにこれらの属の占有率の違いにより、ヒト毛髪は2つのグループに分かれることを明らかとしました。修士・博士課程の5年間を通じ、念願だった大学院での研究に取り組めたことはもちろん、ご指導いただいた酒井教授、田代幸寛准教授に本当に多くの貴重なお時間をいただき、研究の立案から学生教育や指導に関わることまで大変多くのことを学ばせていただいたことは、この上ない財産となっております。

 酵母の研究については日も浅く、まだまだ多くを勉強しながらの研究生活ですが、日々精進し、自身が得意とする微生物叢解析手法とも組み合わせ、酵母生態系の解明や醸造酵母の分離・育種に繋げていきたいと思います。研究者としてまだまだ未熟ですが、これからたくさんのことを学んでいきたいと思っておりますので、皆様のご指導・ご鞭撻の程、どうぞよろしくお願いいたします。

 

ページの先頭へ