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応用生物科学部醸造科学科 醸友会

着任のご挨拶

徳岡昌文 助教 (酒類生産科学研究室)

 今年4月に醸造科学科酒類生産科学研究室の助教に着任いたしました徳岡です。着任してまだ3ヵ月で、不慣れなことばかりですが、歴史ある東京農業大学において、教育と研究を担う責任を感じながら、日々やり甲斐を持って過ごしております。

 私は昭和52年に隣県神奈川県の自然に囲まれた葉山町で生まれました。幼少時代は、ファミコンが世間を席巻し「子供が外で遊ばない」と言われていた頃でしたが、私は山や海で遊んでばかりの子供でした。高校では、山岳部と写真部、室内楽部を兼部して忙しい毎日を過ごし、その後、東北大学の農学部に進学しました。大学では交響楽部に入部し、大学9年間を通じて20回以上の定期演奏会に参加したことは良い思い出です。

 研究室では、五味勝也教授の下で、麹菌によるダニアレルゲンタンパク質の生産に関する研究を行いました。麹菌を研究する道を選んだ理由は、私の祖父も数十年前に麹菌の研究しており、麹菌の分子生物学を始められた五味教授が同じ学科で研究されていたことに、縁を感じたことが大きかった気が致します。

 修士課程の研究では、ダニアレルゲン遺伝子のコドンを麹菌に合わせることでタンパク質生産量を増加することを見出し、博士課程では、そのメカニズムの解明に取り組んだのですが、思うように進まず非常に苦しい時期を過ごしました。一般的にコドンを最適化すると翻訳が効率化すると考えられていたのですが、私の実験結果は、転写量に影響することを示しており、妥当な説明は容易には得られませんでした。苦労の末、異種遺伝子の発現においては、宿主の転写産物に対する品質管理機構に阻まれて転写量が低下するメカニズムを示唆する結果が得られました。

 博士課程卒業後、千葉県野田市のキッコーマン研究本部内にある財団法人(現在は公益財団法人)野田産業科学研究所(野田産研)でポスドクとして働きました。当時は麹菌のゲノム解析の論文がNature誌に掲載された直後ということもあり、麹菌のポストゲノム研究への期待が高まっていた時期でした。野田産研では、新しい遺伝子機能を「発掘」する手法として、遺伝子破壊株ライブラリーを作製するアプローチが試みられており、私もその作製に加わりながら研究を行いました。また、ゲノム情報と網羅的な代謝物分析法(メタボロミクス)を利用して、麹菌が生産する弱いマイコトキシンであるシクロピアゾン酸に関する研究も行いました。それら研究の結果、シクロピアゾン酸の生合成経路と関連遺伝子の同定、さらにはシクロピアゾン酸よりも毒性が低下した新規誘導体を発見することができました。興味深いことに、この誘導化を担う酵素の遺伝子は、麹菌には存在するのですが、麹菌の近縁種である汚染菌Aspergillus flavusでは脱落していることが分かりました。すなわち、長年醸造に用いられてきた麹菌はヒトに対する安全性が維持される方向に進化しているのに対して、穀物汚染菌は毒性が高まるように進化したことを示唆しており、微生物を見事に選択し家畜化してきた伝統的な醸造の素晴らしさを改めて感じました。

 野田産研で2年半働いたのち、広島県東広島市の独立行政法人酒類総合研究所(酒総研)で3年半、研究員として働きました。酒総研においては主に高分解能質量分析器を活用した研究を行い、製麹中の代謝物の変遷について解析を行ったほか、酒類中の低分子ペプチドの網羅的分析法の開発なども行いました。後者の研究からは、清酒中に存在するジトリペプチドを一度に数十発見することができ、ツールが新しいと新しい発見ができるのだと、改めて認識しました。酒総研では、清酒やビール、焼酎の製造を経験することができたほか、行政的な観点からも酒類について考える機会が多くあり、非常に勉強になりました。何より、酒蔵の技術者を対象とした醸造講習を通じて、多くの酒造現場の知り合いができたことは、この上無い財産となっております。

 大学時代も含めると、いわゆる産・官・学すべての研究機関で研究に従事して参りました。この経験を生かして、今後は東京農業大学での教育と研究に邁進したいと思っております。皆様、ご指導とご鞭撻の程、どうぞよろしくお願いいたします。

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