東京農業大学 食品安全研究センター Food Safety Research Center

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「食の安全・安心」に挑む

4月開設 食品安全研究センターが目指すもの

「食の安全・安心への貢献は、オール農大の社会的使命」

情報大や稲花小・併設中高との連携も
―― 大澤貫寿理事長インタビュー ――

 食は健康、活力の源であり、わたしたちの暮らしに彩りを添え、豊かにしてくれる人生のパートナーです。それだけに食の安全と安心は、現代社会においてとても重要な課題となっています。学校法人東京農業大学は4月、食品安全研究センター(Food Safety Research Center)を開設し、こうした食の安全・安心の諸課題を解決していくため、東京農業大学を中核に、法人傘下の東京情報大学や稲花小学校・併設中学高校とも連携しながら、「オール農大」で取り組んで行く体制をつくりました。このセンターが目指す新たな学知のスタイルとはどのようなものなのか、社会にどう成果を還元していくのか、その構想と意義について大澤貫寿理事長にお話をうかがいました。
                     (聞き手=柴田文隆・東京農大応用生物科学部教授)

 ――食の安全の課題から安心の問題までを視野にいれる食品安全研究センター(FSRC)の開設は、まさに時宜を得たものと思います。開設しようとお考えになった経緯はどのようなものだったのでしょう。

 大澤貫寿理事長 これまでも東京農大の総合研究所研究会「食の安全と安心部会」では、食の安全・安心に関わるさまざまな情報発信をおこなってきていました。今回開設されたセンターではこれに加え、安全性研究、食の安全性に関する教育・啓発、リスクコミュニケーションなど幅広い活動を展開していきます。

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 東京農大は食の生産から加工、流通、消費から栄養、健康にいたる広い領域を総合的に研究する稀有な教育研究機関ですが、2014年(平成26年)に応用生物科学部食品安全健康学科を設置した頃から、人材育成なども含め、しっかりこの領域をカバーしていかなければならないと考え、いろいろ構想を温めてきていたのです。
 FSRCは学校法人東京農業大学の傘下に設置しました。初めは、農大の組織としてつくればいいのではないかという考えもあったのですが、「オール農大」で取り組んでいくかたちにしたわけです。
 食のスタイルは人さまざまでしょうが、「食べる」という行為と無縁な人はいません。ですから、食の安全・安心の問題というのは、すべての人に対する社会的責任なのです。その意味で、やはり法人挙げて取り組むべき課題だと考えたわけです。オール農大にとっての使命と言っていいと思います。

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 ――近年は、新たな遺伝子操作技術から生まれる高機能食品の問題があります。新たな機能を持つということは、これまではあまり注意が払われていなかったリスクが潜んでいるかもしれないという視点で安全評価なども考慮していく必要があるのでは。

 大澤 そうですね。遺伝子操作といっても遺伝子組み換え技術と、最近注目されているゲノム編集とでは問題が少し違うんですね。1970年代に登場した遺伝子組み換え技術では、わたしも農薬の研究をしていて少々関わった経験があるのですが、大豆、トウモロコシなどたくさんの作物が開発されてきました。ゲノム編集※はこうした従来のものとは比べものにならないほど効率の良い操作技術で、血圧の上昇を抑えるトマトや、肉厚のマダイなどがつくられていますが、安全面でまったく心配がないというわけではありません。

〈※〉ゲノム編集 狙った遺伝子を壊して働かなくしたり、別の遺伝子を挿入したりする遺伝子操作技術。植物や動物では、従来の遺伝子組み換え技術より効率良く遺伝子を改変することが可能になった。農作物の品種改良、病気の治療などの成果が期待されている。

 ――天然に存在する遺伝子を働かなくして機能を失わせるだけなので、新たな遺伝子を入れているわけではないということで「だから安全だ。問題はない」とされていますが、リスクコミュニケーションのあり方としてはもっと丁寧な説明がないといけないと思います。

 大澤 ゲノム編集では、DNAを切る「はさみ」役の酵素を狙った所に誘導するガイド役のRNAを使います。細胞内で切るわけですから、そういうものに対する安全性が本当に担保できているのか、この辺はもっと慎重であるべきかもしれません。

 ――万が一にも、食の安全に懸念が生じることがあってはならないということですね。

 大澤 ゲノム編集はかなり正確な技術ではありますが、違う場所を切ってしまったりすること(オフターゲット変異)が起きていないかという、そこの信頼度の問題は残っています。現時点でわかっている情報を示して、きちんと説明責任を果たしていく姿勢を忘れてはならないでしょう。

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 ――FSRCの構想で驚くのは、「食の安心」の課題にも取り組んでいくとしている点です。リスクコミュニケーションの領域は自然科学だけでは解決できない、文系の学知も必要とする問題だからです。ここにセンターが斬り込んでいくというのはとてもチャレンジングなことだと思うのですが。

 大澤 食の安全に加え、食の安心の問題はますます重要になっています。研究者がいくら「安全です」と説明しても一方的なものになっては納得してもらうことは難しい。地道な啓発活動で消費者の理解を得ていくこと、消費者目線で情報を発信し続けることが大事だと思っています。

 ――何か事が起こった時に専門家がいきなり登場して、「科学的に問題ありません。安全です」と言えば言うほど、消費者側はかえって不安や反発を感じてしまうこともあります。平素からの啓発やリスク教育がいかに重要か、東日本大震災の原発事故などでも痛感させられたところです。

 大澤 市民、消費者が逆に引いてしまったりすることもありますね。どのようなリスクコミュニケーションをとれば消費者の理解が深まるのか、どんな教育・啓発活動が食の安心を拡げるのか。これを法人傘下の力を結集して研究し、成果を社会に還元していきたいと考えています。その一つは東京情報大のデータサイエンスの学知です。2020年に総合情報学部に先端データ科学研究センターができました。ここで食の安全・安心に関するデータを蓄積し、活用していきたい。食の安全管理は国ごとにまったく違うところもあるので、そうしたきめ細かい点まで踏み込んでデータを蓄積できたら、と期待しています。

 ――ビッグデータ研究ですね。情報大には食育の専門家もいます。

 大澤 それから看護学部があります。看護はまさに食と密接な関係がある分野ですから、連携には大きな意義があると思います。

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 ――食の安全・安心に関心を寄せ、正しい知識を持つ次世代の消費者をどう育てていくか、その実践と教育・啓発の手法開発も重要な課題だと思います。稲花小学校や併設の中学高校との連携は、まさに農大ならではのユニークな構想だと思いますが、具体的にはどのように協力を進めていくのでしょうか。

 大澤 稲花小の子どもたちにはね、田んぼでの田植え体験や、団子づくりといった農体験を相当やってもらっているんですよ。それからこれは私立では珍しいと思いますが、学校給食もしっかりやっています。「農大の稲花小」ですからね。食育と共に食の安全もセットで教えていくことが大事だと思っているんです。小学校、中学校の頃から少しずつ食を教育の中に入れていって、それで彼ら彼女らが世の中に出ていく時には食の大事さ、安全性の重要性といったものを理解できる人になってもらいたいという願いがある。こうして人をつくっていくことも、やはりオール農大というわたしたちの「食を預かっている責任」ということになるでしょうね。
 

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