東京農業大学
バイオサイエンス学科
植物遺伝子工学研究室
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植物の未知なる能力を遺伝子レベルで科学

植物は、四季の移ろいや日々刻々と変化する環境に適応するため、さまざまな環境情報を多様なセンサーで認識し、得られた情報を統合的に処理、応答しながらしたたかに生きている。また分化全能性などの優れた設計思想を生かして、発芽、成長し、美しい花を咲かせながら生きている。このような植物独自の環境適応能力や、成長・分化過程を制御する高次機能を遺伝子レベルで明らかにし、塩害・乾燥といった環境ストレスや病虫害に強く、高品質で付加価値の高い作物の創出を図る。即ち、最小限の人の世話で最大限の能力を発揮する「農業をする作物」の分子育種をめざす。


研究紹介

植物のユニークな力を解析し、農業や環境浄化に役立てる

植物の「動かなくても生きていける戦略」とは
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みなさんは植物のことを「動けない生物」だと思っていませんか。でも、彼らは動けないのではなく、「動かなくても生きていける戦略」をもっているのです。

たとえば、のどが渇くと人間や動物は水場に動いていきます。では植物はどうするでしょうか。植物にとって最大の敵は乾燥です。植物は乾燥を感じると、まず、気孔という葉の表面の穴を閉じ、水分を体内から逃がさないようにします。そして水場を目指して根を大きく発達させるのです。なかにはエアプランツのように、土に根を下ろさず空気中の水分だけで生きるツワモノもいます。こうしたたくましい力をもっているからこそ、植物は地球上のほとんどの陸地を覆い、緑のオアシスにできるのです。

坂田 洋一 准教授
坂田 洋一 教授

 

太古の植物の遺伝子に強さの秘密を探る
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ところが、そうした力がない植物もいます。その代表が農作物。人間が多くの改良を加えた結果、本来もっていた野生の力を失い、人間が水やりや雑草取り等の手間暇を怠るとちゃんと育つことが出来ません。しかも近年は温暖化や砂漠化が進み、植物にとっての生育環境も悪化しています。このままだと「温室育ち」の農作物は生きられなくなり、将来食糧危機が起こる可能性もあります。

そこで必要なのが、過酷な環境でも育つタフな農作物を作ること。特に大切なのが、乾燥や塩に強いことです。なぜなら、砂漠化の大きな原因は「塩害」だからです。雨の少ない土地では灌漑用水として地下水を使いますが、そこにはナトリウムなどが含まれていて、乾くと塩になって土にたまります。植物は周囲の水の塩分濃度が高すぎると、体内から水分が奪われて生きていけません。だからこそ、砂漠化した土地で育つためには乾燥に強いことに加えて耐塩性が不可欠なのです。

過酷な環境でも育つ農作物を作るにはどうすればよいのか。そのヒントを探そうと、植物遺伝子工学研究室が着目したのがコケ植物です。理由を説明しましょう。

植物は4、5億年前に海の中から陸に上がったとされています。陸上はそれまで暮らしてきた海の中とは正反対の厳しい環境でした。水分は土から吸い上げるしかなく、有害な紫外線が照りつけ、寒暖の差も激しい。それでも強靱な生命力で環境に適応し、酸素を作り、多くの生物が暮らせる場所に変えました。

実はコケ植物はこうした陸上植物の祖先に近いのです。ということは、コケ植物の遺伝子を調べれば、祖先がもっていた生命力の強さの秘密がわかるはず。実際、コケ植物は炎天下のアスファルトの上でも生息できるほどタフなのです。コケ植物からは今の植物にはない遺伝子も見つかっています。それらの機能を解明し農作物に入れてやれば、過酷な環境に負けないたくましさを取り戻すのではないか。そう考えて研究を進めています。

 
植物を利用して土壌汚染を浄化
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研究室では、植物の優れた能力を環境浄化にも役立てようとしています。目標は、カドミウムなどの重金属による土壌汚染を浄化すること。重金属は多くの工業製品に使われており、それらが微量ながら環境に排出され、土壌汚染を引き起こしつつあります。重金属は自然には分解されないので、土壌に滞留します。そこで、植物に栄養分と一緒に根から吸収してもらうおうというわけです。吸収した重金属は葉や茎に蓄えられるので、その分は確実に土壌から除去できます。しかも、葉や茎から重金属を回収すれば再利用も可能。まさに一石二鳥です。

植物を研究したいと思ったら、まず身のまわりにある植物を観察してみてください。遺伝子を研究しているとつい特定の植物の細胞だけを見てしまいがちですが、地球上には名前が付いているだけでも26万種もの多様な植物が生きています。新たな発見は身近な植物にも潜んでいるはずです。

 

 

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