東京農業大学
バイオサイエンス学科
細胞ゲノム生物学研究室
※微生物分子遺伝学研究室から名称変更
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細胞まるごと解析で生物機能を120%引き出す

ゲノムレベル・細胞レベルでの解析が進展している枯草菌、ラン藻、酵母などの微生物や動物培養細胞を用い、細胞分化・細胞周期・ストレス応答・タンパク質輸送・物質代謝など、全生物に普遍的で、応用上重要な生命現象を解析し、その分子機構を解明する。また、さまざまな角度からタンパク質間相互作用を解析し、遺伝子機能を細胞全体のネットワークとして把握していく。さらに、さまざまなストレスから細胞を守る健康管理役タンパク質と最先端のゲノム情報を利用し、新規有用物質生産システムの確立をめざす。


研究紹介

微生物の多様な生命現象をゲノムレベルで解明

ゲノム情報から未知の遺伝子の謎を解く
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細胞ゲノム生物学研究室では、納豆菌の仲間である枯草菌や、植物の葉緑体の起源といわれるシアノバクテリア(らん藻)などの遺伝子機能や生体メカニズムを解明しています。これらは大腸菌と並んで世界中で研究が行われている微生物です。

生命現象の緻密さ、巧妙さは設計図である遺伝子にすべてその秘密が隠されています。秘密の扉を開く鍵を一番たくさん持っているのが微生物です。遺伝子の機能を調べる時は、遺伝子を一つずつ破壊し、微生物に起こる変化を見ていくのが基本。それによってその遺伝子が細胞内でどんな働きをしていたかわかりますよね。枯草菌の遺伝子は約4000あり、すでに半分はこの方法で機能が特定されています。しかし、残りの遺伝子は破壊しても変化が起きず、機能は未知のままでした。

ところが、近年「次世代シーケンサー」という革新的なゲノム(DNA配列)解読装置が登場し、未知の部分が明らかになりつつあります。すべての生物はDNAという遺伝暗号をもっています。DNAはA、C、G、Tという4つの塩基で構成され、あらゆる生命活動の情報源がここにあるのですが、この装置を使うと微生物なら数日で全ゲノムを読み取れるのです。配列の変化を一目で見られる、全く新しい微生物の研究法が誕生したのです。

枯草菌のゲノムをよく見ると、塩基配列の似た遺伝子が複数あることがわかります。それらは似たような働きをしていて、一つが壊れても他の遺伝子が代わりに働いていたのです。だから、遺伝子を一つ壊しても変化が起きなかったのです。先端技術では、いくつもの遺伝子を無限に破壊していけるんですよ。こうしたゲノム情報と最新技術を使うことで、微生物の研究は新たな段階に入ったといえるでしょう。

吉川博文 教授
吉川 博文 教授

 

微生物の多様な生体メカニズムとは
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微生物に高温や乾燥といったストレスを与え、それに対する反応から機能を調べるという手法も多用しています。

微生物はストレスを感じると、自分を守ろうとしてさまざまな「ワザ」を繰り出してくるんですよ。たとえば枯草菌は、生育環境が悪化すると「胞子」という耐久型の細胞を作ります。菌本体は55℃ほどで死んでしまいますが、胞子はたとえ100℃だろうと何十年もそのままの状態で生き続けられるのです。そして、環境がよくなったら眠りからさめて活動を再開するのです。彼らはなぜこんな不思議な機能をもっているのでしょうか。その答えは、やはりDNAのA、C、G、Tという4文字の配列にあるのです。微生物のユニークな生体メカニズムを目にすると、あらためて4文字のもつ意味を考える重要性を感じます。

   
バイオ燃料製造に微生物の力を応用
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微生物の特長は、その生物が本来もっていない遺伝子を入れる「組換え」が簡単にできること。人間はこうした力をさまざまな分野に活用してきました。代表例が、大腸菌に人間の遺伝子を組み込んで糖尿病の薬であるインシュリンを作らせたことでしょう。研究室でも、微生物の力を環境分野に応用することを考えています。

先ごろ、バイオエタノールの原料にトウモロコシが使われ、家畜飼料や食品が高騰しましたね。食料から燃料を作るのは本末転倒。人間が利用しないものを原料にすべきです。候補の一つが「稲わら」なのですが、稲わらはセルロースという分解しにくい物質でできており、そのままでは利用できません。

そこで枯草菌の出番です。自然界では、分解はカビをはじめさまざまな菌が共同で行っていますが、そうした多様な菌の遺伝子を枯草菌に組み込み、強力な分解酵素を作らせるのです。実は、枯草菌は組換え能力が特に高く、無限といえるほど多くの種類の遺伝子を入れられるんですよ。このような微生物を利用した新たな有用物質の生産も研究テーマの一つです。

生物学を学ぶうえで必要なのは、実験を成功させるための「運(うん)」、頭で考えすぎない、よい意味での「鈍(どん)」、失敗しても落ち込まず実験を続ける「根(こん)」です。自分のやっていることは世界でたった一つの新事実になる。そんな“うどんこ”の生物学に挑戦してみませんか。

 

 

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