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造園科学科

諸石貴英さん(景観・緑地環境マネジメント研究室卒業)

造園という分野の活用法

 私は、空間の在り方や、広さ、見え方は人によって異なると思っています。
 造園という分野は、庭を造るという視点だけでなく、空間が広がっていくのが感じられるのが面白いと感じる今日この頃です。
 緑が、景観の一部として存在すると思えば、造園っぽいと思えます。しかし、それだけでなく、地域の歴史、都市としての活用のされ方、生業、生産など、沢山のフィルターを通していくと唯一無二な土地のらしさが生まれてくると考えています。そこで、生活している人の息づかいが感じられるのが、面白いとも感じています。

 私なりの造園という分野の活用を紹介させていただきたいと思います。仕事における考え方や、自分の軸となる部分をお伝えできればとおもいます。

菓子屋

 新卒では、まさかの菓子屋に就職。当時は、業界違いの就職に驚く人が多かったです。地元は小田原で、城下町であったことから菓子屋が多い。きっかけは、地元の食材を利用して、景色や季節のうつろいが菓子で表現できる凝縮された空間に興味を持ったことでした。

 仕事内容は、大半は事務の仕事でした。内容は多岐にわたり、季節菓子の広報、お取り寄せ商品の発送業務、地域のイベントでの物販。その他、小豆を生産してくれる農家さんの農作物の畑の訪問。加工する工場の見学。実際のところそうなっているのかを知りたくて、業者に頼んで自分の目で見るようにしていました。その内容を、社内報という媒体で月一回発行し、製造、販売のスタッフにも情報として共有できるよう、趣味と実益を兼ねた形で仕事をしてました。スタッフとも一緒に社内報を制作していたので、面白かったです。

 ここで学んだことは、普段生活している中では、気にも留めない出来事や観点です。それは、季節の微妙な変化、湿度や温度、お菓子を食べたいと思うタイミング、素材感、色、見栄え。感覚的なことなのですが、それを和菓子で表現して、お客様に伝え感じてもらうことが、和菓子屋の使命だったのではないかと思っています。
 お客様へ和菓子をとおして、地元の魅力や地域の気候風土を結びつけることを発信できます。そこに、付加価値が生まれて、その土地ならではのお土産やご進物などに季節の商品菓子を選んでいただくことが、ソフト面といった点で、造園の分野が活用できた仕事でした。

室内装飾

 その後、何年か経ち、季節の演出をする室内装飾の仕事に転職。
 空間を季節感あふれる植物でいっぱいにしていくのも仕事の一つですが、空間の維持管理という仕事もあります。維持管理においては、植物が生きていく環境が室内であるため、自然界とは異なり人間主体の環境です。

 その環境で耐えることが出来なければ、植物は枯れてしまいます。環境に合わせた、植栽の選び方もセンスが問われます。日照にあわせた水やりの量、病害虫、適正な剪定作業などが大きく影響してきます。季節の変化や、日の傾き、日照時間などの変化を感じて、水やりの量を調整したりします。人間主体の空間と、植物の生育の環境の良い塩梅を探る楽しさがあります。

 その他に、画廊の新規物件の工事をやらせてもらったときは、工程管理、進捗確認、ほかの工事とのスムーズな流れをつくる調整をしました。植栽発注も施主さまの建築の方や、デザイナーの意向に合わせての提案が大変勉強になりました。予算と工期の兼ね合いがあるため、受注金額、資材費などのお金の管理もして、プランが変わるごとに見積りを出したりしていきました。施工までの間、至らない箇所もありましたが、沢山の人の協力により、無事工事を終えることが出来ました。

地元での活用

 大学を卒業し、社会人になって『小田原・足柄を主題とした学生の卒業論文に学ぶ会(以下学ぶ会)』という発表会の運営をお手伝いしています。地元の学術的研究に興味がある方があつまって、卒業論文の対象地が小田原、足柄の研究であれば、理系・文系問わず学生に発表してもらう場をつくっています。

 2020年で13年目を迎える学ぶ会は、学生の卒業論文の研究成果を地域住民に対して発表の提供することによって、地域の知的財産になるのではないかという考えから発足した会です。年齢層が幅広く、20代の学生さんから、80代の方が発表会にやってきます。現役の学生のフレッシュな考えが、地元の発見や気づきにつながっています。
 私は、第4回目の学ぶ会で発表をしました。卒業論文は『二宮尊徳の報徳仕法におけるまちづくりについて』というテーマで取り組みました。二宮尊徳は、小学校の銅像で薪をしょっている二宮金次郎と同一人物です。小田原の栢山が出身です。
 卒業論文の内容は、江戸時代天明7(1787)年、自然災害が続き農村は荒廃。尊徳が、物や人に備わる良いところ、取り柄、持ち味を「徳」と名付け、社会に役立てていく方法として「報徳仕法(以下仕法)」を確立しました。現在、尊徳にゆかりのある地の自治体では仕法を活用したまちづくりに取り組み、全国報徳サミットと呼ばれる報告会が開催されています。卒業論文では、仕法をより具体的な実践法としてとらえまちづくりの視点から調査しました。仕法を体系的に、現代感覚でまちづくりに適用できる仕組みとして提示することを目的としたものだったのですが、調査すればするほどいろんなことがわかってきます。
 卒業論文を書き終えた後も、社会人になっても学ぶ会をきっかけに、尊徳を勉強する方たちとバスに乗り現地調査をしたり、資料が沢山あるお知り合いの方に参考文献をお借りしたり。地元のネットワークをフル活用して、知的向学心を満たしております。

まとめ

 人や物、場所のつながりを空間という枠でとらえて、物事の認識や関係性を学んでいく。様々な視点や発想の転換が、ひらめきにつながる部分もあるので、一つ一つの出来事は貴重だなと感じます。まだまだ、勉強の身ですので、実践しながら考えたり、挑戦してみたりとこれからも、自分の可能性を広げていきたいと思っています。

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