・農学研究科の理念・目的・教育目標とそれに伴う人材養成等の目的の適切性
〔農学研究科〕
【現状】
大学院農学研究科は、昭和28年に農学専攻(修士課程)、農業経済学専攻(修士課程)、昭和32年に農芸化学専攻(修士課程)を開設した。本学は第二次世界大戦以前、東京帝国大学、京都帝国大学、北海道帝国大学、九州帝国大学の4帝大と共に旧学位令による農学博士の学位を授与できる唯一の私立大学であった。その流れを踏襲し戦後時代の要請から本学の持つ知力を結集し、日本農業の復興のために農業生産の増産と関連領域に寄与することを目的として、大学院農学研究科に上記3専攻(修士課程)が開設された。設立時の根本理念が現在も受け継がれている。すなわち「広く農業関連領域における専門研究と知見を発展深化させ、学術の理論および応用を研究・教育し、その深奥を究めて人類文化への貢献と科学の進展に寄与することによって、国際的な学術研究の中心的役割を果たす」ことである。
この理念を進化させ本研究科は博士前・後期課程を4学部12学科の上に設置し平成16年増設を完了した。農学専攻、畜産学専攻、バイオサイエンス専攻、農芸化学専攻、醸造学専攻、食品栄養学専攻、林学専攻、農業工学専攻、造園学専攻、国際農業開発学専攻、農業経済学専攻、国際バイオビジネス学専攻の12専攻と、唯一の課程制博士課程である生物環境調節学専攻を加え13専攻で構成されている。
平成17年4月からは、生物環境調節学専攻を時代に即応した環境共生学専攻として名称変更を行い、社会人にも広く門戸を開いた新専攻として再出発する。全専攻に博士後期課程が完成したことを受け、本学が掲げた健康・食糧・環境・エネルギーをキーワードとする生物生産から育種、加工、流通、さらには開発途上国援助までをも視野に入れた幅広い生物・農学分野を網羅する本研究科は理念・目的と教育目標の再構築が行われた。本研究科の理念・目的を以下に列記する。
(1)資源生物の探索と利用、生態系の保全、安全な食料の省力安定生産技術の確立を目指す人材、人と植物の豊かな関係を構築する。
(2)従来の家畜動物生産科学領域の研究に加えて、動物生命科学領域並びに動物環境科学領域(人間動物関係科学領域)までをも視野に入れる。
(3)高次で複雑な生命現象の根本的原理を総合的に理解し、種々の学術分野において、種の制約を越えた生物資源の新たな開発及び、その関連複合領域の学術研究の進展と技術革新に貢献し、学問ならびに産業界の発展に寄与する。
(4)地域から地球的規模にいたる環境問題に関する総合的な研究能力と管理能力を養う。
(5)わが国および外国の農業・農村問題、食料・環境問題、国際経済問題の解明と学問の発展に資する専門的能力をもった人材の育成を目標として、先進国・途上国双方の農業・農村問題の現状を多面的視点から解明するとともに、人類社会の課題である食料問題、環境問題の社会科学的解明を行う。
(6)急速な社会変化のなかで新たな経営手法、情報化への対応、環境問題への配慮などを求められていることに鑑み、それらに対応すべく生命の尊厳、環境保全、人類の持続的発展などの社会的責任ないし使命を認識し、かつ高度な経営手法、情報処理技術、環境評価技術を備えた人材を育成する。
さらにまた教育目標としては、得られた研究成果に基づいた創造性豊かな教育を通して大学院の教育を行い、博士前期課程にあっては学部教育との一貫性を重視し、広く農学の素養を持ち社会に貢献できる人材の育成をはかり世界に開かれた大学院を目指す。博士後期課程にあってはさらに高度な専門的研究活動に参加することにより、新世紀における農学の諸分野にわたるフロンティアとして健全で調和の取れた文明社会を切り開く見識と実力を有する研究者、ならびに技術者を養成することを目標としている。本研究科の理念と目標に沿って人材の養成に総力を挙げて取り組んでいる。
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【点検・評価 長所と問題点】
本研究科の目標は本学の理念と目標を農学・生物学の立場から考究しこれを具体的かつ先進的に実現することである。しかしながら、毎年度刊行している「東京農業大学大学院案内」や「大学院学生募集要項」には、急速に進展している生命科学を含めた科学技術の現状と社会のニーズに即応した教育方針と研究の方向が具体的に記述され、最新の知織を修得して研究活動に参加していくための必要な情報は与えられているものの、東京農業大学における教育の理念と目標に基づく本研究科の理念と方針が博士前期課程と博士後期課程に分かり易い形にまとめられて明示されていない。
本研究科における教育と研究の成果は、在籍・修了した学生の資質と研究活動に依存するところが大きい。近年、より高度化を目指しつつも自然環境に十分に配慮し、人類社会にとって健全な科学技術を発展させることが必須の課題といえよう。
このような状況にあって、平成14年から平成15年の2年間をかけて本研究科の専攻主任教授で構成される研究科小委員会に入学試験制度検討部会、学位論文審査検討部会等を設置し、入学から課程修了まで受益者である学生に対して与えうる方策を検討した。また、個性豊かな独創性のある人材を確保することに努め、在籍する学生に対する研究・学習への支援制度を充実させて積極的な教育研究体制の整備を進めていることは評価される。
また、本研究科では従来設置していた生物環境調節学専攻を、12専攻を横断する専攻として新たに環境共生学専攻として位置づけたことは評価に値する。
本研究科では、修士の学位と博士の学位の取得方法に弾力性を持たせ、大学院学生、留学生、研究生、研究者を受け入れており、博士前期課程・後期課程における研究・学習活動を支援するための奨学生制度、授業料減免などの助成制度、TA制度などを行い、多角的かつ効率的に大学院課程拡充に成果をあげていることは、私学の農学・生物系である本研究科を運用する上での一つの大きな長所であるといえる。また、博士前期課程・後期課程における研究活動に対する費用については、納付される実験実習・演習費をあてているが、今後は均等配分型の研究費に加えて多様な形での競争的研究助成の制度を設け、その効率的かつ弾力的な運用を行い、多くの研究成果を生み出す原動力を与えるものとして考慮されなければならない。
現在の本研究科にあって、目標とする教育と研究の成果をあげ、大学院学生の充足を図りつつ、さらに社会のニーズに応える新しい構想を積極的に検討して具体化していくことは、現体制のもとでは必ずしも容易なことではない。教員と職員の負担を過剰に増加させてしまう可能性のある企画を立てる際には、その実現可能性について十分な検討を加える必要がある。制度の多様化は多大な利点があるものの、利用する上での混乱と運用する側にとって不測の負担を課す恐れがあることには注意する必要がある。
大学院の教育改革が進むにつれて教育指導体制が多様化し、ともすれば教員の研究時間が減少していく傾向が見られるのは大学院における研究体制と研究指導の体制が弱体化することになる恐れがあり問題である。
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【将来の改善・改革に向けた方策】
毎年改訂して刊行される「東京農業大学大学院ガイド」、「大学院学生募集要項」及び「大学院履修要項」には、本学の教育研究の理念と目標を踏まえ、21世紀の新しい科学技術の在り方を見据えた形で本研究科の理念を博士前期課程と博士後期課程別に分かり易く述べ、各専攻の目標について毎年度検討を加えて明記し、研究分野と勉学の内容と方針について解説する。これによって学生が効果的な勉学・研究計画を立てられるように大学院課程のプログラムを明示することが必要である。
学士課程との連携を強め、博士前期課程との一貫教育のシステムを改めて検討するとともに、専攻を横断して学生が多様な進路を運べるようにカリキュラム編成に工夫を加えることが望まれる。
また本研究科12専攻が各学科と連動した前・後期課程になったことを受け、次世代の大学院のあり方、再編の是非を検討する委員会を設置する予定である。
連携した独立行政法人農業・生物系特定産業技術研究機構、独立行政法人農業環境技術研究所、独立行政法人食品総合研究所、独立行政法人国際農林水産業研究センター、財団法人進化生物学研究所とより密接な研究・教育の充実を推進していく必要がある。
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