注1) 単為生殖
有性生殖では、一般に卵と精子が受精して新個体が生じるが、雌が雄と関係なく新個体が生じる場合を単為生殖と呼び、昆虫、魚類、爬虫類等では自然状態においても観察されている。発生する卵に注目する場合は単為発生という語を用いる。卵になんらかの人工的な刺激、操作を与えて発生を進行させる場合、これを人為単為発生と呼ぶ。今回の二母性マウスの作成は、この人為単為発生の技術を用いたものである。
注2) 二母性マウス
卵子由来のゲノムのみを持つ胚で、マウスでは受精後約10日ですべて死亡する。最近の核移植技術の進歩により、様々な雌雄核の組み合わせが可能となった。雄核発生胚は、受精卵からの雌前核を除去あるいは除核未受精卵の体外受精により作出される。ゲノムインプリンティングを研究するための格好の材料となる。
注3) ゲノミックインプリンティング
対立遺伝子が母親と父親のどちらから由来したかにより、遺伝子の発現量に著しい差異を認める現象で、配偶子の形成課程で遺伝子発現を制御する情報が刷り込まれる。DNAメチル化などのエピジェネティック(後成的)な遺伝子修飾が制御するものと考えられている。哺乳類において、単為発生胚が個体にまで発生しない理由は、この母親と父親由来のアレル間に決定的な遺伝子発現の違いがあるためと考えられている。
注4) 核移植技術
哺乳類では1984年にマウスで開発された技術で、顕微操作により割球の核あるいは生殖細胞を未受精卵あるいは受精卵へ導入することができる。胚のクローニングの他、様々な生殖細胞を構築することができ、核-細胞間の相互作用を検討することが可能。
注5) Igf2(インスリン様成長因子II型)遺伝子
(インスリン様成長因子II型)遺伝子は、胎仔の成長を制御する主たる成長因子で、精子由来ゲノムの雄アレルから発現し、卵子由来ゲノムの雌アレルからの発現は認められないインプリント遺伝子である。胎仔では脳を除くほぼすべての組織で発現している。
注6) インプリント遺伝子H19
主に雌ゲノムでのみ発現し、雄ゲノムではほとんど発現しないインプリント遺伝子。この遺伝子の発現により、Igf2遺伝子の発現が抑制される。雄ゲノムでは、H19遺伝子がほとんど発現しないため、Igf2遺伝子の発現が抑制されないものと推察される。
注7) 非成長期卵母細胞
胎仔あるいは新生仔由来の生殖細胞では、ゲノムインプリンティングが完了していない。核移植技術を用い、この時期の生殖細胞を卵核胞記卵へ核移植することにより、ゲノムインプリンティングが完了していないが、成熟した卵子を構築することが可能で、添付された図ではng (non-growing oocyte) と記されている。ゲノムインプリンティング改変卵子はng/fg(単為発生胚)と記載。
 
 
 
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