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学校法人 東京農業大学

新・実学ジャーナル 2026年9月号(No.184)

国際女性農業従事者年に展望する家族経営の継承

国際女性農業従事者年にあたる2026年は、農業における男女平等と次世代の担い手育成を考える重要な機会です。家族農業経営の継承では依然として男性中心の慣行が残る一方、女性が経営主として活躍する事例も増えています。最新の研究成果をもとに、女性による経営継承の実態と意義、そして農業の未来への可能性を展望します。

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国際女性農業従事者年に考える男女平等

1990年代以降、農業における男女共同参画は農水省等が掲げる目標の一つとなり、さまざまな事業や試みが行われてきました。当時、研究生活をスタートさせていた私自身、農業や農村における女性の役割や評価の変化に強く関心をもち、自身の研究の大きな柱と位置付けてきました。この間の農業における女性の躍進には、大きなものがあると感じています。しかし、それでもなお、対等とは言いかねるのが農業における男女ではないでしょうか。
2026年の今年、国連は「国際女性農業従事者年」を宣言しています。アグリフードシステムにおける女性の役割の評価と、土地所有権、財政的・技術的制約、情報・教育へのアクセスの制限など、女性が直面する課題についての認識を高めることが目的とされています。
これに関するFAO(国際連合食糧農業機関:Food and Agriculture Organization of the United Nations)のサイトを見ると、主たる対象はいわゆる開発途上国の女性であるような印象を持つと思います。けれども、経済先進国といえる欧米諸国でも農地などの資源や情報へのアクセスの男女平等は実現されていません。とりわけ、経営継承における女子の排除や無関心といった現状が各国の研究成果に示されています。この点については、日本も、もちろん例外ではありません。
戦後の民法改正により、相続に関するきょうだいの権利は平等になったものの、家族農業経営を「長男」に相続させる慣習がいまだに残っています。この慣習はもちろん、それなりの合理性を持っていたとみられますが、子ども数の減少や職業選択に関する意識の変化から、後継者の確保がますます難しくなっている経営が少なくありません。

また、男女平等の観点から見ても、男性が「主」で女性は「補佐」という位置付けをはじめから与え、男性のみに資産と責任を手渡すことには、問題があります。
近年、女子への経営継承は増加しているとみられ、私達は、親元で経営を継ぐ予定か、すでに継承して経営主となっている女性の聞き取り調査を中心とした研究を実施し、書籍にまとめました(原編著『農を継ぐ女性−家族農業経営と「いえ」の継承−』(2026)筑波書房)。その中で農林業センサスの分析を行った澤田(澤田守 第2章「統計からみる女性経営主の特徴」)によると、女性経営主は近年大きく減少しているが、若年・中年層(60歳未満)では微増し、農業従事を強めていることが明らかになっています。

『農を継ぐ女性−家族農業経営と「いえ」の継承−』
原 珠里 編著(2026)筑波書房

女性の経営継承経緯と意義

女性が家族経営を継承するにはどのような経緯があるのかについてインタビュー結果からみると、長女で跡取りといわれて育った例もあるものの、女性本人が農業を継ぐことを主体的に選択し実現している場合が多いことがわかります。農業や農村における生活の魅力を認識しての就農です。そして、次女や三女、また男性のきょうだいがいる例もあり、昔ながらの跡取りとしての継承ではありません。また「婿養子」を迎えて経営主を譲る例もみられましたが、農業経営主を女性本人が担い、配偶者は別の職業に従事している場合も多いです。そして、結婚している場合、夫の姓を名乗っている例が若い世代では多いことも特徴的でした。全体として、経営の継承と「いえ」の継承が分離傾向にあることがわかりました。
女性の親元就農の良さとして、子供の頃から農業に従事する親の姿を見ていて知識が豊富であること、地域のネットワークを持っていること、そして相続による農地や施設等の所有がしやすいことなど、いわゆる「嫁」の立場の女性よりも有利な条件をもつことが示されました。

将来に向けての女性への期待

農業という職業に男性のイメージが強い理由の一つは、大型機械の操作、重い生産物や資材の運搬、といった筋力を必要とする仕事にあると思われます。しかし、現在それらを軽減する機械等も生まれ、一方で農業経営には、企画、財務分析、IT関係、マーケティング、労務管理、コミュニケーションスキルなど、女性が能力を発揮しやすい領域が広がってきています。農業経営における女性の能力はさらに活かせる可能性が高くなってきています。
私達がWEB調査会社に委託して実施した意識調査によれば、女子が家族農業経営を継承することについて「まったく問題ない」と答えた回答者は、農林業従事者でもそれ以外の職業の回答者でも6割を超えています。家族農業経営の跡取りは男性であるという思い込みをなくし、本人の意思や適性により跡取りを選ぶことが重要ではないでしょうか。女性にも男性と同等の権利、また義務があることを確認したいと思います。
国際女性農業従事者年の今年、女性の資産や継承の権利にも光が当たることを期待したいと思います。そして、法人であれ、家族農業経営であれ、法的にも経済的にも男性と同等な地位を女性が占められるような将来を望みます。東京農業大学の入学者の男女比は、男性52.7%に対し女性47.3%と拮抗しつつあります(2026年度。大学案内「東京農業大学2027」参照)。「国際女性農業従事者年」の対象とされるようなアグリフードシステムに従事する卒業生も多く、農大を卒業する女性たちの活躍が、そのような将来のためにもますます期待されます。

注*「国際女性農業従事者年」は英語では、International Year of the Woman Farmer である。しかし、その対象は農業だけでなく林業、水産業の従事者、さらに、フードシステム関係産業への従事者まで、非常に広い。ここでは農業に注目する。

原 珠里 教授
東京農業大学 国際食料情報学部 国際食農科学科
食農教育研究室
研究テーマ:農村女性のパーソナルネットワーク
      農村地域のソーシャル・キャピタル

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