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学校法人 東京農業大学

新・実学ジャーナル 2026年2月号(No.182)

NODAI TOPICS 東京農業大学稲花小学校 校長インタビュー

未知への一歩を踏み出す力を育む学校

2025年3月に初めての卒業生が誕生した東京農業大学稲花小学校(以下、農大稲花小)
未知への挑戦を恐れず、子どもたちに“冒険心”を育む―農大稲花小は、東京農業大学(以下、東京農大)の豊富な教育資源を活かし、体験型の学びを重視した教育を実践しています。
農大稲花小の魅力やこれからの学校運営について、第2代校長の杉原たまえ先生にお話を伺いました。

―学校として大切にしている教育理念や方針を教えてください。

本校の教育理念は、「冒険心の育成」です。東京農大の創立者である榎本武揚先生が遺された「冒険は最良の師である」という言葉にその由来があります。この「冒険心」とは、未知なる新しい世界に挑む、気骨と主体性を意味しています。また、この教育理念を具現化するため、教育方針として「3つの心と2つの力」(感性・向上心・探究心とコミュニケーション力・体力)の育成を掲げています。

榎本武揚公が友人に贈ったオランダ語の書(複製)「Onderneming is de beste meesteres (冒険は最良の師である)」-農大稲花小図書室前にて掲示

―農大稲花小ならではの魅力を教えてください。

少子化が叫ばれる中、本校の2026年度入試の志願者は千人の大台に乗りました。まだ開校7年目の小学校が、このように社会から強く求められている要素として、以下の4つの特徴が挙げられるかと思います。

まず何よりも、東京農大には、創立以来135年間に渡って蓄積してきた教育資源と実学主義の理念があります。そして、それらを活かした農学に基づく体験型教育は、農大稲花小の唯一無二のものと言えます。本校では生活科と「総合的な学習の時間」を併せた、「稲花タイム」と呼ばれる時間が週に3時間ずつ組まれており、食農教育の時間としています。講師として東京農大の先生をお招きしたり、世田谷や厚木のキャンパス、伊勢原や富士にある農場などにお伺いしたりするなど、貴重な学びを体験させていただいています。東京農大ファミリーの末っ子として育てられている子どもたちのなかには、すでに将来東京農大で学ぶことを夢見ている子もいます。これは「小大連携」の理想的なモデルであると言えるでしょう。

④農大教員による田植指導_R.jpg

1年生 水田学習:東京農大教員による指導

⑤宿泊学習(宮古農場)でのヤムイモ掘り_R.jpg

6年生 宿泊学習:宮古亜熱帯農場でのヤムイモ掘り

2点目は、コミュニケーション力の育成を重視している点です。1年生から毎日1コマずつ、ネイティブ講師による英語の授業を実施しています。また、毎朝の読書時間を設け、学年別『農大稲花の50冊』という読書指針を作るなど、英語力同様に、国語力の育成に日々取り組んでいます。

3点目は、食育に力を入れている点です。本校は自校式の給食を提供していますが、この給食はお腹を満たしたり栄養を摂取したりするだけのものではなく、都道府県の食事や行事食、海外諸国の食事など、地域や歴史が育んできた食文化や食材そのものをとても大事にしています。生産者のみなさんや、調理をしていただく方たちに感謝し、食を大切にする心が育まれている点は、本校の教育の成果であると思います。

そして4点目が、アフタースクールの存在です。このアフタースクールは、保護者が自宅不在中の預かり機能と、プログラミングやサッカーなど専門の指導者による習い事が合わさったサービスです。運営は、アフタースクールを専門とする外部団体に委託していますが、常に情報を共有しながら、本校ならではの内容にて実施いただいています。ご両親ともお仕事をもつご家庭が多く、こうした小学校内でのワンストップ・サービスは子どもたちにとっても安心感があると思います。 社会から寄せられている高い期待は、このような手間をかけ、愛情を注いだ教育を実践している本校の学びの姿勢にあると思います。

―杉原校長が考える「小学校時代に育てたい力」はどのようなものでしょうか。

東京農大の教育理念である「実学主義」は「理論(Theory)と実践(Practice)」と言われています。そして本校にとっては、「認知能力」と「非認知能力」の育成が同じ関係にあります。小学生として身に着けておくべき学力としての「認知能力」と、教育指標である「10の能力」(興味・関心、創造力、問題解決力、習得力、主体性、目標設定力、発信力、傾聴力、自律力)としての「非認知能力」をどちらも同様に大切なものとして捉えています。それらは飛行機の両翼のようなもので、どちらかが欠けても大空に飛び立って行くことはできません。世界情勢の先行きが不安な現代であればこそ、世界中どこへ行っても幸せに生き、大地に根を張り、社会を照らすような人として大きく羽ばたくためにも、この2つの力をしっかりと小学生時代に育てたいと思っています。農学という学問とその実践はとても地道なものです。農学を研究する者らしく、コツコツと実直に、地道に、堅実に、子どもたちの生きる力を育んでいきたいと思います。

顕微鏡での観察-体験し、観察し、思考する流れはカリキュラムの軸に。

―今年の4月、校長に就任して1年が経過します。これまでで印象的な出来事はありますか。

子どもたちに接していると、毎日新たな発見や気づきがあります。着任して間もない頃、学校近くの畑でナスの生育状態を観察する2年生の授業に同行しました。畑に到着し、担任の先生が「それでは、観察を始めましょう」と一言告げるだけで、子どもたちは、草丈を測定したり、葉数を数えたり、葉の匂いを嗅いだり、定規や指を広げて長さを測定したり、思い思いの方法で観察をし始めたのです。もう「観察する」ということが分かっているのかと驚いたことが、印象深いですね。東京農大の先生にゲスト講師をしていただいた際にも、「ノートの取り方が速い。難しい話でも、きちんと内容を理解しているからこそ書きとれる速さだ」という感想をいただいたこともあります。こうした観察し、整理し、まとめる、という姿勢が小さな時から身についていることは素晴らしいと思いました。

本校の子どもたちの学びは、気づきや問いから始まります。授業でも実習でもたくさんの質問が出ます。その中には、専門家をも唸らせるような質問もあります。どの授業でも、この「問い」を立てることをとても大切にしています。実習などの体験を通じてのじっくりとした学びと、基礎学力の定着、生活面の指導を含めて、それらの包括的な指導に当たっている教員のみなさんや、それを後方支援してくれている関係者の方々には、日々、感謝と感動を覚えています。

―杉原校長が考える農大稲花小の児童へ一番伝えたいことは何でしょうか。

スクールロゴである「みのりマーク」(左図)は、豊穣の稲穂を表しています。小さな花を咲かせた稲が、未来に向かってすくすくと伸び、やがて教育方針である「3つの心と2つの力」に満ちた生きる力を結実させてほしい、という願いが込められたマークです。子どもたちが日々纏っている制服の左胸に、このマークは縫い込まれています。

しかし、そうした「結果」をもたらすには、先ずもって「いい根づくり」をしなくてはなりません。根は土中に在って目立つ存在ではありませんが、大きなしっかりとした根を張ることこそが、地上部の豊穣をもたらします。この根っこは、人の生き方に擬えるのなら「動機」であると思います。

また、このいい根を育てるためには、「いい土づくり」をしなければなりません。いい土とは、「保水性」と「排水性」という相矛盾した関係を併せ持つ土(団粒構造)が「豊かな土」とされています。「美味しい果実や美しい花(結果)」をもたらすためには「いい根(動機)」が必要であり、それは「多様性に富んだ豊かな土(社会)」によって育まれる。このような農学からの学びを生きる力として身につけてほしいと思います。

―2024年に完成年度を迎え、2025年3月には第1期生が卒業しました。これからの農大稲花小をどのような学校にしたいですか。

まもなく第2期生も卒業を迎え、新たに第8期生を迎えいれます。とはいえ、小学校運営の全てが軌道に乗ったとはまだ言えません。6年間のカリキュラムもまだ改善の余地があり、限られた教員数のなかで試行錯誤を続けています。子どもの成長過程で生じる様々な課題、子どもたちが豊かに関わればこそ起きる小さな事柄にも、全教職員とともに一つずつ真摯に向き合っていかなければなりません。

保護者様よりお預かりした400人を超える小さな子どもたちの、貴重な6年間は、ひと時も無駄にするわけにはいきません。時に優しく、時に厳しく接しながら、「冒険心」を胸にやがて社会に向けて巣立っていく子どもたちの背中を押すため、私たち教職員一同、常に教育理念と初心に立ち戻りつつ、その任を果たしていきたいと考えています。

引き続き温かいご支援をよろしくお願い申し上げます。

杉原たまえ 第2代東京農業大学稲花小学校 校長
東京農業大学 副学長 博士(学術)
東京農業大学 国際食料情報学部 国際農業開発学科 教授
農村開発協力研究室
専門分野 :農村開発協力分野
研究テーマ:農村開発と慣習

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