細胞周期の制御機構解析

 真核生物において細胞周期は細胞の増殖と分化に関わる最も基本的な生命現象である。またがんは細胞周期の病気であり、人類最大の敵といえるこの疾患を理解する上で、細胞周期制御機構の解明は極めて重要である。細胞周期進行の制御ネットワークの中心因子は、サイクリンとサイクリン依存性キナーゼ(CDK)であり、細胞の新たな分裂を決定する主要なチェックポイントはDNA複製の開始直前(G1/S遷移期)にあるが、そのポイント通過に必須な因子の一つがサイクリンAである。しかしながら、G1/S遷移期におけるサイクリンA-CDKの作用標的、サイクリンAタンパク質の安定性制御など、未だ不明な点が多い。
 そこでヒトサイクリンAについて、我々が新たに分離した作用標的候補因子との相互作用解析、およびタンパク質安定性制御機構の解析を行っている。さらに、我々はがん化の主要因の一つである染色体不安定性とサイクリンA-CDK活性の亢進との相関性を見出しており、今後サイクリンA-CDKによる染色体不安定化の分子機構を解明していく。
 また、G1チェックポイントは、多様な増殖制御シグナルが集約する制限点(R点)として知られるが、ここでの主要なブレーキ因子の一つはp27 (CDK阻害因子/がん抑制因子)である。そこで分子遺伝学的アプローチによりp27の増殖抑制機能をうち消す因子または変異を網羅的に解析し、R点制御ネットワークとがん化機構の解明を目指す。
 一方、高温などの環境ストレスは細胞周期の進行を妨げることが知られているが、高温ストレスによる細胞周期制御機構はあまり解析されていない。そこでその制御機構をCDKとその上流に位置するチェックポイント制御因子に焦点を当てて解析する。がん化細胞の高温ストレスへの応答性の違いを分子レベルで解明し、温熱療法など臨床応用への貢献を目指す。


(テーマ例)

1.ヒトサイクリンAの機能と制御


  ・G1チェックポイントにおけるサイクリンAの作用標
  ・サイクリンAの安定性制御
( E1Aとの相互作用 )

2.動物細胞周期制限点(R点)における p27制御経路の分子遺伝学的解析

3.環境ストレスによる細胞周期制御

  ・酵母を用いた分子遺伝学的解析(多コピー効果、サプレッサー解析 )
  ・細胞におけるストレスの影響とがん化との関連


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細胞周期とは?