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ネバダオオシロアリ採集記

学部3年 田中蒼羅

ネバダオオシロアリ Zootermopsis nevadensis (Hargen, 1874) (ゴキブリ目オオシロアリ科)は、
兵庫県及び大阪府の山林に定着したアメリカ原産の外来シロアリである。
現在までに本種による目立った被害報告はされていないものの、
今後の被害発生が警戒されている。
そして何より働きアリで10mmを超える巨大なシロアリである。
多新翅類の昆虫が大好きな私にはたまらない昆虫だ。
私はひょんなことから兵庫県に用があったため、
ネバダオオシロアリを必ずや採ってやろうと意気込み、
下調べをして挑んだ。そんなシロアリ素人の採集記だ。


初の材食性昆虫採集ー1日目ー


兵庫県某市の森林につき、採集の準備をする。
人の気配は全くなく、
林縁部にはすでに分解が始まっている材片がごろごろと転がっている。
昆虫素人の私はこんな安直な考えをしていた。
大きなクヌギ等の材を見つけ次第調べれば出るだろう。
キャンパス内でのヤマトシロアリは、
材をひっくり返すだけでワーカーが歩いているのを
見つけられるのだから。

「うぉっ!でかっ!!」
早速現れた昆虫は




オオゴキブリ Panesthia angustipennis (Illiger, 1801)

実は野生下でオオゴキブリを見たことがなかったため、とても感動した。
話通り、翅を食べられてぼろぼろになっているではないか!
いくら本や図鑑、標本で見ていても生きている姿は違う。
生きているものが目の前にいる感動がある。
オオゴキブリがいる材を調べると、
中からは数匹のオオゴキブリが出てくるだけでそれ以外は出てこなかった。
上出来だ。ゴキブリ目まで近づいている。
亜目こそ離れているが、そこから少しずつでも近づければ良いのだ。
その後も倒木を調べ続ける。
とその時、シロアリが現れた!


ヤマトシロアリ Reticulitermes speratus (Kolbe, 1885)

「普通にいるんだ」
外来種がいる環境というと、本来そこで見られていた在来種の個体数が
著しく減少するというイメージがあったため、予想外だった。
ムネアカハラビロカマキリやアカボシゴマダラほど話題にならないのは
さほどこうした侵略性がないためなのだろうか。
ひとまずヤマトシロアリも採集する。



かわいい!!!ずんぐりとした体形、天使のような透明感!
とても標本作成の難易度が高い虫だが、惹かれる魅力が詰まっている。
話し出すと止まらないほどの様々な生存戦略が知られており、
外見から中身まで楽しい虫だ。
しかし、本題はネバダオオシロアリ。
ヤマトシロアリの話はまたどこかで。

よし、シロアリというところまでたどり着いたぞ!
この調子で様々な朽ち木をひっくり返す。
そこでさらにあることに気付いた。
シロアリが出てくる材は十分に朽ちているにも関わらず、樹皮の表面には
菌類やコケ植物がなどの付着物が非常に少ないということだ。

よし、この調子で探せば、ネバダオオシロアリもきっと見つけられるぞ!と思い切り、採集を続けたが.......

ネバダオオシロアリとは出会えなかった。

最初の1日目という表記で薄々感じていた人もいただろう。
そういうことだ。
しかし最後はちゃんと採っている。
みんなでかっこいいシロアリは見られる。
その前に少しばかり苦労話でも聞いて欲しかった。



そしてリベンジへー2日目ー


この日はかなり自信があった。
なぜなら、さらに論文などの情報を見返して情報の補強があったためだ。
おそらく本種は樹種を結構選ぶタイプのシロアリで
見つける上で調べる対象のものが違ったのだろう。
そのため、なるべく色々な状態の材を探すことにした。
同じシロアリといえど科から異なるため、
見られる環境はヤマトシロアリとは全く異なるかもしれない。
とごちゃごちゃ考えていると気になるものが目に入った。

マツの倒木だ!



何かが、いる!!!!
急いで容器に入れて確認する



ネバダオオシロアリ Zootermopsis nevadensis (Hargen, 1874)

ついに採集できた!
でかい!!かっこいい!!
つまめる!つまんで採集ができる!!
柔らかく少し美味しそうにすら見えてしまう!
感動した。本当にいたのだ。
外来種であるため本来はいないに越したことはないが、本当にいた。

自分の下調べで予想していたポイントが的中していて、
そこで得られたことが何より嬉しかった。
この頃にはヤマトシロアリの経験から蟻道が見えるようになっていた。
蟻道に沿って巣を調べ、「女王を差し出せ!」と掘り進める。
ゲームのラスボスにでもなった気分だ。
しかし女王は得られず、直接的な防除に繋がらなかったことが
悔やまれるが、今回はその場を後にした。

同じ森林でも、ヤマトシロアリとネバダオオシロアリが同所的に
同じ材に見られることは今回はなかった。
一見似たような虫で似たような生活を行なっているように見えても、
それぞれの種で好む環境は異なるのだ。
当たり前の話だが、種が違えば、それらが見られる環境は変わる。
環境が変われば、見られる種は変わる。
だからこそ、多様な昆虫種によって形成された生態系を観察すれば、
それぞれの環境の共通点、相違点がわかってくるというものだ。


だからみなさんも様々なフィールドでたくさんの昆虫を見比べてほしい。
また、気になる虫がいれば様々な論文を調べて自分で計画を立てて
採集に挑むのもよい経験になり、いつもよりも達成感があるものだ。
色々な採集経験を持つことが大事だと私は思う。

ネバダオオシロアリは、現在では深刻な侵略性が報告されておらず、
問題視されていないとはいえ、立派な外来種である。
見られたことを素直に喜べないことは残念だが、
ネバダオオシロアリそのものはとっても良い昆虫だ。
かっこいい。でっかい。形態や生態も観察しやすい。
シロアリ初心者にもおすすめの昆虫だ。


だから、せっかく農大の昆研あるいは
シロアリに興味を持ってこのページに来てくださった方には
たくさんこの虫を見てほしい!!!


説教臭いことはいいからみんなでネバダオオシロアリを見ようぜ




ネバダオオシロアリのソルジャー(兵アリ)

有翅芽虫 副生殖虫や有翅になってくれたらいいな。


ワーカー(働きアリ)



ソルジャーと並ぶ有翅芽虫


ついに羽化した新有翅成虫
前後の翅の長さが同じで、等翅目(Isoptera)だった頃に思いを馳せる。

いかがだっただろうか。
実はこの虫、収穫祭でも展示をしたのだが、
なんと大盛況!
私が近くにいるときは、展示用ケースを少し振って、
頭を壁に打ち付けて振動を用いてコミュニケーションを
取っている様子も見せることができた。
ガラスシャーレではソルジャーが頭を当てるとカンカンと
わかりやすく音がするのも良かった。

開催前はシロアリなんて害虫でおまけにゴキブリの仲間。
というレッテルで来場者はみんな嫌いだろう、
見たくもないのだろうと思っていたのだが、
興味を持って観察してくれた来場者が多く、とても嬉しかった。

隣に展示していたヤマトシロアリたちとも見比べてくれる方もいて、
さまざまな質問をくださることもあり、嬉しかった。



最後に、この体験を採集記にすることを提案してくださった、
M2の田口さんにこの場を借りて厚く御礼申し上げる。


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