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農大厚木キャンパスで見つかった外来ナガカメムシ

博士前期課程二年 相馬 純

種の概要

最近,日本で数多くの外来カメムシが発見されている.

2019年春,関東地方から新たな外来カメムシが報告された.

農大OBの野澤雅美さんが2018年夏に埼玉で見慣れぬナガカメムシを採集したことからすべては始まった.

突如として出現したこのナガカメムシは,少なくとも関東全域に分布しているという.

その名はツマベニヒメナガカメムシNeortholomus scolopax (Say, 1831).

ヒメナガカメムシ亜科Orsillinaeに含まれ,前翅革質部の先端が赤いことが和名の由来である.

写真の個体は若干テネラル気味なので,前翅に上記の特徴は表れていない.

乾燥標本では,前翅が結合版を覆わない点で外観の似るヒメナガカメムシ属Nysiusの日本産種と識別できる.

加えて,本種は日本産ヒメナガカメムシ属の全既知種と比べて明らかに大型である.

本種の詳細な情報は中谷ら(2019)を参照してほしい.

今回の採集記を執筆した動機は2つある.

動機の1つ目は,ツマベニヒメナガカメムシの認知度が思ったより低いことである.

筆者は,本種の和名と学名でGoogle検索をしてみた(いわゆるググるというやつだ).

和名の検索では在来のヒメナガカメムシ属の記事ばかりが出てくる.

学名の検索ではそもそも日本語の記事が出てこない.

なんだこれは,悲しすぎる.

本種はアカバナ科を広範に加害するだけでなく,アメリカではシソ科なども利用する広食者である.

害虫化する危険性はそれなりにあると思う.

同じく北米原産のアワダチソウグンバイが日本へ移入してナスを加害した事実は忘れてはならない.

キク科を広く利用する種が東洋原産のナス科野菜を利用できたのだ.

このように,外来種は挙動が意味不明である.

とりあえず,ツマベニヒメナガカメムシの認知度を高めていきたい.

書き忘れかけたが,動機の2つ目は,採集記の原稿が集まらないからである.

非常に個人的な事情である.

生息環境

神奈川県でのツマベニヒメナガカメムシの生息環境について書く.

最初に本種を発見したのは,相模川の河川敷である.

本種の寄主植物の中心となるマツヨイグサ属(ベニバナ科)は人間の手が入った環境に多い.

そのため,本種の話題を半翅類学会の小集会で農環研の中谷至伸さんから伺った筆者は,迷わず当地へ向かった.

とりあえず,目に付いたマツヨイグサ属の花をスイープする.

程なくして,最初の1頭目が入る.

小さくガッツポーズ(外来種なのだが).

個人的な話だが,この場所は昆虫採集を始める前から立ち寄り続けていた.

初めて昆虫採集をしたのもこの場所である.

そういう訳で,かなり嬉しい発見なわけだ.

その後,メマツヨイグサの枯れた果実から大量の個体を採集する.

余りの数に,少しだけ感動が薄れた.

翌日,通学中に歩道沿いのメマツヨイグサから追加個体を得る.

余談だが,筆者は通学用のバッグに遠沈管と酢酸エチルを常備している.

このように,役に立つときは役に立つのである.

さすがにジュラルミンロッドは常備していないが.

さらに別の日,農大厚木キャンパスで追加個体を発見する.

大学構内は思いのほかマツヨイグサ属が少なく,採集に手間取ってしまった.

その後,神奈川県の産地は正式に発表された.

とても光栄な出来事であった.

参考文献

中谷至伸・友国雅章・野澤雅美・奥田恭介・相馬 純,2019.関東地方で2018年に発見された北米原産のナガカメムシNeortholomus scolopax.Rostria,(63): 87-90.

農林水産省,2005.我が国で新たに発生し分布を拡大しているグンバイムシ.植物防疫病害虫情報,(77): 4-5.