博士前期課程1年 瀬戸山千佳
10月末に単身、ミズギワカメムシ類を求めて北海道の弟子屈と網走近辺で採集を行ったので報告する。
始発電車に乗り、羽田空港まで向かう。
昨晩は赤ワインとビールを嗜み、エゾヒグマへの恐怖から逃避した。
虫は採りたいが、死にたくはない。
無事飛行機に乗り、2時間ほどで女満別空港に到着。
着陸時、急に左耳の耳抜きができなくなり、15分ほど左耳の痛みに悶えた。
幸先が悪い。
真っ赤な軽自動車を借り、まずは宿泊地のある屈斜路湖に向かう。
赤い車に、なんとなくテンションが上がる。
くねくねとした山道を一気に駆け上り、道の駅で休憩をした。
美しい屈斜路湖と山々が見渡せる。
気温は10度。予想よりも寒くない。
<道の駅 ぐるっとパノラマ美幌峠より>
私の車の目の前に、ハーレーが一台止まった。
男一人旅だろうか。
壮大な山々、どこまでも続くような長い道、澄んだ空気。
こんなに素晴らしい環境を、ハーレーで走るのは気持ち良さそうだ。
そのうち、やろう。
<ポテト団子>
朝からろくに固形物を摂取していないので、ポテト団子を食べる。
甘い醤油のタレともっちりとした食感、ジャガイモの香りがたまらない。
少し胃もたれしたが。
事情により、屈斜路湖での採集は最終日に回すことにした。
屈斜路湖を越え、まずは弟子屈の川沿いで採集を試みる。
いた。が、逃げられた。
ヒグマが出た時のことを考慮し、
すぐ逃げられるよう、車からは離れられない。
北海道では、聞く人聞く人にヒグマが其処彼処にいると言われる。
本州でいうとタヌキレベルの遭遇率だろうか。
事故があった際に連絡が取れなくなるため、
単身での採集は普段以上に警戒を怠れない。
怖いなあ。怖いなあ。
頑張って川べりまで歩いてみたが、
先ほどの1個体以外、見つからない。
場所を変えることにした。
川べりを攻める途中、良い水たまりを見つけた。
草地に水がたまっている。ここは、いるな。
<水たまり>
案の定、沢山のミズギワカメムシの仲間が見られた。
ホシミズギワカメムシ、ウスイロミズギワカメムシ、ミズギワカメムシの3種くらいだろうか。
肉眼では、はっきりとしたことは言えない。
<ホシミズギワカメムシ>
一通り採集し、屈斜路湖の宿で休むことにした。
この日はポテト団子以外食べず、早めに就寝した。
4時半起床で、朝風呂に入る。
宿の大浴場は温泉だった。女湯・男湯ともに電気が消えているため、女湯の電気をつける。
硫黄の良い匂いがする。温泉卵が食べたいなあ。
浴槽に浸かる前に、髪を洗う。
朝の4時40分。流石に人気はない。
シャンプーを洗い流そうとした瞬間、
パチリ
浴槽の電気が消えた。
脱衣所の電気はついている。
電気のスイッチは脱衣所の外にあり、
脱衣所に人はいない。
そして脱衣所の外にも、男湯にも人気は感じられない。
恐る恐る浴槽から脱衣所への扉を開け、様子を伺う。
物音一つしない。
腕時計を確認すると、4時44分ジャスト。
勘弁してほしい。
さっさと髪と体を洗い、温泉のことは忘れて脱衣所を出る。
男湯の電気がついている。
そして、女湯の浴槽の電気がオフになっている。
女湯に入るときにはなかったサンダルも一つ置いてある。
スイッチは並んで配置されているので、きっと間違えて押してしまったのだろう。
そういうことにした。
完全に目が覚めたので、5時半に宿を出る。
北海道はセイコーマートが多い。
ここのおにぎりが美味しいと、バイク系YouTuberの方が仰っていたので、
セイコーマートでおにぎりを買う。
まず普通の百円程のすじこおにぎりを食べる。普通に美味しい。
もう一度弟子屈の水たまりで採集する。
昼はダウンがいらないほど暖かいが、朝と夜はダウンでは足りないほど寒い。
この日は1日目よりも個体数が多く見られた。
お昼に、摩周豚肉まんを頬張る。
餡はそぼろ肉に小さめのブロック肉が混ざっており、皮はふかふか。満たされる。
<摩周豚まん>
2日目は弟子屈の川べりを攻めたが、
1日目の水たまりほど良いポイントは見つからなかった。
今朝の温泉停電事件とヒグマの恐怖を紛らわすため、
セイコーマートに癒し(夕飯)を求めた。
店で調理している おおきなおにぎり(明太子マヨ)と唐揚げ、十勝ブランデーハイボールを購入。
セイコーマートのご飯はとっても美味しい。
唐揚げは、スパイスがふんだんに使われ、他のコンビニとは違った風合いがある。
ハマりそうだ。
そして、大きなおにぎりは店内で調理しているだけあって、米の味、具材ともに、張りと旨みがあって美味しい。
ありがとうございますセイコーマートさん。
<大きなおにぎり>
腹も満たされ、温泉に入る。外の露天風呂では屈斜路湖と星空を見ながら、温泉を満喫した。
温泉内の石に苔が張っており、危うく転倒しそうになった。危なかった。
明日は網走に向かう。
朝6時に宿を出発。
くねくねとした山道を下り、まずは能取湖を目指す。
キタキツネ、エゾジカ、ノネコ、動物の飛び出しが多いので、スピードは出さない。
左に停車し、速い車は先に送る。
お気に入りの音楽を流し、カラオケ状態にすれば、運転も楽しい。
<激ウマペペロンチーノ>
途中セイコーマートがあったので、100円程のペペロンチーノパスタを買った。
この値段で、女性の一食分ほどの量。果たしてうまいのだろうか。
ソースはオイルベースで、茹でキャベツと鶏肉も付いている。
、、、うまい。めちゃくちゃ美味い。なんだこのクオリティ。
ケチのつけようがない。
ニンニクの効いたパスタ、アクセントとなる唐辛子に鶏肉、甘みのあるキャベツ。食べるのが楽しい。
朝から幸せを噛み締め、能取湖に到着した。
これは、何処から水際にアクセスすればいいんだ。
湖は広い林に囲まれている。
航空写真を頼りに、林を抜ける道を探す。
駐車場から20分ほど歩き、なんとか水際に着いた。
目当てのケブカミズギワカメムシがいる。
早速採集。おそらくウスイロミズギワカメムシもいるだろう。
2種は見た目が似ており、肉眼での識別は難しい。
<ケブカミズギワカメムシ>
折角、海沿いにいるので、お昼は海鮮丼にした。
<海鮮丼>
プリプリで適度に歯ごたえのあるホタテ、張りのある食感と旨みの強いいくら、幸せ。
しかし、この日のウニは外れだった。臭みが強く、ピリピリと舌が痺れた。ウニには当たり外れがある。
ウニを一気に口の中に掻きこみ、ホタテといくらを堪能する。
さて、採集するか。
海沿いの湖と網走川を回る。なかなかいいポイントがない。
目的のケブカミズギワカメムシは取れたので、セイコーマートで夕飯を買い、網走の宿に帰ることにした。
朝4時、事情により最終日に回した屈斜路湖に戻る。
屈斜路湖
GoogleMapを見ると舗装されていない道の先に、小さな湿地がある。これは、行くしかない。
<帰れるのだろうか>
帰れるか不安になる道を進むと目当ての湿地があった。
どんつきで道が広がっており、車も切り返せる。よかった。
湿地を捜索すると、大量のミズギワカメムシの仲間が見られた。
近くに温泉もあり、面白い種がいるかもしれない。
<湿地>
あたりは完全に森で、人気はない。いつヒグマが出てもおかしくない。
熊鈴をかき鳴らし、ミズギワカメムシを採集する度に、立ち上がってあたりを見回す。
耳で、足音を探す。
死にたくない。
しかし、虫を採りたい。
屈斜路湖のハクチョウが騒がしい。
イラクサが刺さって、傷がビリビリと痛む。
ヒグマ怖い。人も怖い。
ビビりながらも、なんとか必要な数を採集できた。
女満別に帰ろう。
<弟子屈で見つけた謎の看板>
最後のあがきでギリギリの時間まで、網走川を巡りながら女満別空港に向かったが、成果は得られなかった。
しかし、今回の旅で目的の種は充分に得ることができた。
そして、生きて帰れて本当に良かった。
ただ一つ、セイコーマートが神奈川県にないことが、唯一の悲しみとなった。