博士前期過程1年 嶋本習介
7月の屋久島調査ではいくつかの興味深い発見を得ることができた。
しかし一方で、期待した成果には及ばず、不完全燃焼の感が否めない調査でもあった。
今回私は、そのリベンジのため、小島先生に同行してもう一度屋久島を訪れることに決めた。
加えて、今回は口永良部島でも調査を行う。
メンバーは小島先生、M2の瑤寺さん(専門:タマムシ)、
M1の樽くん(同アリヅカムシ)と私(同カメムシ)の4人体制である。
さて、今回は6日間の日程だ。
最初の1日は移動のみなので実質5日。
そのうち2日を口永良部島に費やすとすると、相当運がついていないと成果が危うくなってしまう
…と、分かっていた。…分かっていたはずなのだが……。
4日前に突如発生した台風20号はいまだ奄美大島の南西を北上中という。
一抹の不安とともに鹿児島行きのスカイマークに搭乗した。
鹿児島で日本エアコミューターに乗り換える。
薩摩富士とも呼ばれる開聞岳。
眼下の景色を眺めることわずか40分、今年2度めの屋久島には秋の香りが漂っていた。
タラップを降りると、こちらにカメラを向ける人の姿が。先生だ。小島先生は一日早く島についているのだ。
安房川の夕暮れ。
民宿で食事をとりつつ打ち合わせ。そののち、明日の準備を行う。
学生3名はいきなり口永良部島に行くので慌ただしい。先生は屋久島に残り、登山をされるとのこと。
この日の口永良部島行きフェリーが台風で欠航し、不安である。
口永良部の民宿の方の「たぶん出ますよぉ~」とのお言葉を信じ、就寝。
小島先生は早朝に出発した。
宮之浦港までバスで移動。フェリーの乗船時刻を待つ。
バスから見た朝日が素晴らしかったのだが、港につく頃にはかなり太陽が上がってしまっていた。
フェリー太陽。
船は定刻通りに出港した。
天候は良く、海もうねりがあるものの心配したほどではない。
ちなみに、揺れるときはとんでもなく揺れるようである。
船内に標準装備されている洗面器がそれを物語っている。
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出港後まもなく、口永良部島が見える。
カツオドリが2羽飛んできた。
甲板を右往左往しながら撮影したが、なかなか近くには来てくれず、残念だった。
徐々に近づく島。
噴火の爪跡が生々しく、山腹に枯死木の白い木肌が目立つ。
口永良部島は屋久島の北西に浮かぶ火山島だ。
火山活動は活発に続いていて、近年では、2015年の大規模な噴火に伴い住民が一時全島避難している。
ネット上の島の情報は多いとは言えないが、島民の方が運営されているサイトがとても詳しく、参考になる。
以下に、島のことを軽く書いておこうと思う。
島への交通手段は、屋久島の宮之浦港から出港するフェリー太陽のみである。
そのため、島を訪れるためには必ず屋久島を経由する必要があり、ある意味トカラよりも行きにくい島だと思う。
フェリー太陽は奇数日と偶数日で運航の時間が異なっていることに注意が必要だ。
島での滞在時間を伸ばすためには、行きを偶数日の朝便、帰りを奇数日の夕方便にするのが良い(2019年10月時点)。乗船時間は1時間40分。
民宿はそこそこの数がある。
一方、レンタカーを扱っているのはガソリンスタンド1店舗だけ、それも軽自動車1台のみのようだ。
我々の日程には先約があり、借りることができなかった。
車の貸し出しサービスを行っている民宿もあるので、そうした民宿に泊まるのもよいだろう。
我々は宿で貸していただいた。
屋久島からフェリーで車を持ってくるのも手だ。
島は広く、起伏も激しいので徒歩で歩いてまわるのは困難である。
商店はあるそうだが、我々は利用していない。昼食は宿でお弁当を用意していただいた。
昆虫採集の面では、島全域が屋久島国立公園に指定されていることに留意する必要がある。特別保護地区は火口周辺のみでありそもそも立ち入りができないが、島の大部分は特別地域にあたる。また、昆虫採集を注意する掲示物が島のいたるところに見られ、保護に関する意識が高いことを感じた。これは私の推察だが、林内で材採の痕跡も見られたことから、固有亜種とされるクワガタなどを目当てとした採集者が多くはいっているのだろう。禁止が明記されているトラップ採集をはじめ、派手な採集行為は厳に慎まなくてはいけない。
同島の昆虫相に関する近年のまとまった報告としては、鹿児島県立博物館による調査(金井,2017,2018)が挙げられる。しかし金井(2018)が口永良部島の昆虫相についてはまだ調査不足が否めない、としているように、学術的な昆虫調査はあまり行われていないといえる。
無事に上陸。
民宿の方とのご挨拶ののち、採集を開始する。
ところどころに明らかに木が枯れているエリアがあり、噴火の影響が垣間見えるものの、林はとても豊かである。
緑の火山島というキャッチフレーズにも頷ける。
鹿が非常に多い。写真真ん中でこちらを見ている。
コブスジツノゴミムシダマシ
コメツキムシのなかま
黄色いナメクジ
非常に状態の良い照葉樹林だが、なぜか本命のヒラタカメムシが採れない。
その後も島内を転々としながら調査を行った。
ヒサゴクチカクシゾウムシ
立派な雄鹿。
島の北西部にはヤギも多い。
ハラビロカマキリと遊ぶ。
ハラビロは集落の生け垣に多く見られた。
ツチイナゴ
固有亜種とされているこの島のノコギリクワガタ…
夕食ののち、エラブオオコウモリの観察にでかけた。
こちらはキクガシラコウモリ。
サソリモドキ。私、奇虫は苦手である。
ワモ~ン!
アカテガニ
肝心のオオコウモリは…無事観察できた!
高所にいたので撮影はできていないと思ったが、明度をいじると撮影できていた。
真ん中上方のヤシの葉柄に1頭と左側の葉に1頭。
バサバサ飛ぶので迫力がある。
マツムシ。
本村集落のいたるところで鳴いていて、
このように、だいぶ近づいて撮影できるチャンスまであった
…にもかかわらず、採れなかった…。
6回も失敗し、惨敗である。
過去の報文を見る限り、この島では記録がないようである…
今日も採集を…と思ったが、早い段階で雨が降り出し、ほとんど採集にならなかった。
雨で大変なのに加え、湿度が高まりヒルが昨日の10倍くらいに増えた気がする。
豪雨であえなく調査終了。
今回の渡島の成果がこれで確定してしまった…。
杉が枯死している。
島内4箇所に温泉が湧いている。
港の近くの本村温泉は昨日訪れたので、この日は湯泊温泉へ。
鉄分が強い泉質の本村温泉に対し、湯泊の泉質は乳白色で湯の花がたくさん浮いている。
本村温泉の方のお話によると、島の成り立ちと泉質が関連しているらしい。
「寝待の立神」と呼ばれている岩。伝わりづらいが、とても大きい。驚くほど。
島内のいたるところに、噴火用の退避壕が設置してある。この日はヤギが雨から退避していた。
竹から吸汁するヒゲナガヘリカメムシ。外来種である。
何気ない「通行止」だが、この先は噴火警戒エリアで、「本当に」立ち入ってはいけない。
そうこうしている間にあっという間に離島の時間が来てしまった。
採集の成果はあまりふるわなかったが、とても良い島だった。
機会があればぜひ再トライしたいと考えている。
ちなみに、帰りのフェリーはかなり揺れた…。
朝、トラップを設置し、調査を開始。
屋久島らしく、植林が多い。
アリヅカムシを探す。
林道のいたるところにクワズイモが生えている。
その葉裏には……いた。
クワズイモカスミカメだ。
白と黒のカラーリングがおしゃれだ。
クチキゴキブリ。
ヒキガエルがいた。
この日調査を行った地点はかなりポテンシャルが高いように感じた。
ヒルがたくさんいたのは嫌だったが。
研究中の、目的の種も無事サンプリングできた。
もう少し早く登山を開始できていれば…と少し悔しい。
帰りの道中、スーパーに寄らせてもらう。
午前に、ツキヒガイを売っているのを見てしまったのである。
ぜひ買わねば。
無事2パックを入手し、酒蒸しにした。
目的は殻だが、身もとてもおいしかった。
弾力が強く、余裕があればぜひ刺し身でいただきたいところだった。
虫談義、屋久島談義をしながらの夕食。
OBのYさんがちょうど屋久島を訪れており、合流した。
目的地の異なる小島先生と別れ、OB+学生の4人は周遊道路を南下。
瑤寺さん、Yさんのタマムシ屋コンビの目的の種の記録がある林道へ向かった。
到着し、私はひたすら材を求めて歩く…歩く…歩く…
採れねぇ!屋久島むずっ!
トゲアリ。
…以上。
タマムシもホストが見つからず惨敗とのこと。
樽くんがひとりホクホクしている。
13時ごろ、あえなく撤退。
樽くん「俺、車に昼ごはん忘れちゃったからみんなが採れなくて早めに戻れてよかったわ~」
…頭ハンマービーティングしたろうか。
午後は場所を決めかねていたものの、結局、外周道路をさらに先へ進んだ林道をめざすことになった。
ここでは、車から200メートルくらいのところであっけなくヒラタカメムシが採れた。
研究上重要な種も一応サンプリングできたので、少しほっとする。
ミナミヒメヒラタカメムシ。
チャイロナガヒラタカメムシのコロニー。
白いのは幼虫。
ダルマキノコカスミカメ。
ここで、Yさんの声が…。「と、採れたっ!!」
目的の種が採れたようだ。活気づくタマムシ屋二人。
なお、追加は…。
アギトアリ。
さっきは失礼なことを申し上げてすみませんでした!と土下座をしている
…わけではなく、ヒルを撮っている樽くん。
あっという間に最終日。
樽くんと二人でトラップの回収へ。ところが、トラップ周辺にサルの群れが!
わざわざこちらに近づいてきて威嚇しやがる。
超~怖い!
彼らと我々の間に横たわる倒木。それを超えるとサルが怒る。
しかし、トラップは倒木の向こうだ。
時間的にも、ぱっぱと回収しなくてはならない。
樽くんがよし行こうというので、十分距離を取り、勇気を持って倒木を超える。
そろそろと5mくらい進んで振り返ると…奴は倒木の上に立っているだけでこっちに来ていない!
だって怖いんだもん、って俺も怖いわ。
…無事回収し、その後は採集。
最終日マジックか、思ってもみない成果が得られた。
以下、その際に観察した昆虫たち。
ヤクシマメカクシゾウムシ。
大きめのクチカクシだ~と喜んでいたが、普通種らしい。
ミツギリゾウムシ。大型の個体だった。美しい。
オニナガエンマムシ?
キクイムシの穿孔痕だろうか、枯死木の幹の小さな穴に頭を突っ込んでいた。
これにて調査は終了し、飛行機に搭乗。
いや~、屋久島、奥が深すぎて難しい。
楽には採らせてくれない島だ。
そして、冒頭の感想につながるのである。
成果はあったのでよしとするか。
優しくもてなしていただいた両島の民宿の方、
調査にお誘いいただいた先生と同行いただいた皆さんに厚くお礼申し上げる。
完