博士前期課程1年 嶋本習介
照葉樹林が好きだ。琉球、対馬、紀伊、三宅…照葉樹林がある場所に遠征に行きがちだ。
そして、今回ようやく、憧れの地だった鹿児島県、大隅半島の照葉樹林を訪れることができた。
カミキリムシやヒゲナガゾウムシ、ゴミムシダマシにアトバゴミムシ。
大隅にはたくさんの「いい虫」がいる。きっといいカメムシもいるに違いない。
着々と準備は進み、この7月、遂に彼の地を踏んだ。
今回のメンバーは学部4年の松本(研究対象:ハチ)と私、修士1年の嶋本(研究対象:カメムシ)、
昆研OB2名の計4名である。
学生二人組は早朝便で鹿児島に飛んだ。
とはいえ、私は5日前まで屋久島にいたので、変な感じだ。
OBのお二方とは夜に天文館で落ち合う予定だ。
鹿児島空港。
この1日のアドバンテージで良い虫を「先採り」しておこう。
梅雨晴れの空のもと、我々のレンタカーは宮崎へと向かう。
目的地は松本が下調べしてくれた良い照葉樹林だ。
採集の準備をしたものの、採集用品は事前にあらかた天文館に送ってしまっていたため、
最低限の装備である…手痛いミスだ。
登山道を登りはじめるとすぐに美しいタマゴタケが現れた。少し歩くと白い別のきのこも。
全体的に細い木の多い森ではあるものの、きのこが多い。
そして何より、枯死木がとても多い。ワクワクが止まらない。
良い!森。
期待どおり当たりの材が多く、たくさんのヒラタカメムシ類を観察することができた。
特に多くの個体が見られたミナミヒメヒラタカメムシ。
九州以南に分布する南方系の種で、
私は琉球でしか採集したことがなかったため、
九州本土での出会いは新鮮だった。
シモフリヒラタカメムシ。
なかでも嬉しかった種だ。
和名のとおり、体表のワックス状物質が灰色のまだら模様を呈し、
独特の形状の前胸も相まって、とても魅力的な種だ。
この種を含むシモフリヒラタカメムシ属は日本に2種が分布するものの、
両種ともに珍品で得難い属であり今まで全く縁がなかった。
今回、全然おいしくなさそう(?)なボロボロの材から落ちてきてとても驚いた。
贅沢は言えないが、残念ながら1頭のみの観察に留まった。
ひときわ大きな立ち枯れにはセミスジコブヒゲカミキリの姿が。メスだ。
写真を撮ってから気づいたが、死んでいた。産卵を終え力尽きたのだろうか。
また、別の立ち枯れにはおびただしい数のタイワンオオテントウダマシの幼虫がついていた。
黒い楕円型の周囲に黒と白の突起が並ぶ特徴的な姿で、見間違えることはない。
おまけに、成虫と同じく独特な匂いがする。
本来対馬にしかいないはずの虫だが、九州本土にもいるとは聞いていた。
本当に自分の目で見ることとなるとは…。
網を振る松本。
照葉樹林と植林が混在する。
マムシ。
さほど長くない道のりだったが2本見てしまった。
いずれも松本が気づいたので、一人だったら危ないところだったかもしれない。
ともかく、良い成果があり幸先の良い1日だった。
宮崎の森の奥深さに感動した。ぜひまた来たい。
松本はシリボソクロバチが採集できなかったようで、申し訳ない気持ちではある。
夜、天文館でお二人と合流。
レンタカーに乗り込み、大隅に向かう。
今回のレンタカーはPROBOXだ。
積載量が多く、今回の大荷物を無事に収容できた。
昨晩からの不安が的中し、道中、強い雨が降ってきた。
そのため、ひとまず宿にチェックイン。
今回は肝付町のコテージを利用した。
広く快適で調理道具も一通り揃っており、当たりの宿だった。
大隅半島では数少ないコンビニやスーパー、コインランドリーも近くにある。
雨が落ち着いたため、佐多岬を目指し一気に南下。
途中、海岸や公園に立ち寄り調査を行う。
砂浜での一コマ。
給水中のアオスジアゲハ。
九州本土最南端の佐多岬は植生にも南国ムードが漂い、宿からの道中とは環境を異にしている。
夕方、ライトポイントに到着。
今回用意したライト機材はHIDライトに発電機一式という豪華仕様だ。
設営!
設置式のライトトラップも併せて仕掛け、こちらは数日後に回収することにした。
トラップ設置や林内のルッキングに忙しく、ライトはほとんど見れなかった。
残念ながら成果はぱっとしなかったらしい。
めぼしいものとしては、ムモンチャイロホソバネカミキリが来ていたようだ。
大隅らしい虫だ。来て欲しいものが来てくれた感がある。これは羨ましい。
豪華な夕食。
ライトの途中から変な倦怠感に襲われていたため、この日は早々に寝かせていただいた。
起きた瞬間に悟った。昨日の体調不良を引きずってしまっている…。絶不調だ。
今日は朝から本命のポイントで調査を行う日である。
なんとか気合いを入れ、スーパーでビタミンドリンクだのなんだのを大量に買い、飲む。
車に揺られること1時間強、ポイントに到着した。
二手に分かれ、林道を上下から攻めることになった。
昨晩は分からなかったが、ずいぶんマテバシイが多い森である。
台風によるものだろうか、枯死材が多い。
かなり期待して採集を開始した。しかし、意外なことに虫が少ない。
チャイロナガヒラタカメムシだけは大径の枯死木から多数得られた。
厳しい成果だと焦っていると、最後の最後でカドムネヒラタカメムシがネットに落ちた!
本種は台湾から記載された種で、日本では珍しい種だ。
地味な種の多いヒラタカメムシのなかで、本種は茶色とベージュのコントラストが美しく、
前胸や腹部の側縁の形状もかっこよい、実に格調高い種である。
5月に行った台湾で3頭、屋久島で1頭と今年はカドムネづいている年だったが、ここでも出逢えるとは。
オガサワラチャイロカミキリ。
特徴的なポーズで静止する。
その後、林道上部組を車で回収した。
二人とも、成果は今一歩とのことで、残念だ。
吹き上げに花があり、ハチは採集できたとのこと。
種名も教えていただいたが忘れてしまった。
昼食をとり、午後は海沿いの道を車で走りながら所々で採集した。
といっても、私は完全にダウンしていたのだが。
一カ所、近くに水場があったのでふらふらと眺めに行ったが、
同期の研究しているミズギワカメムシやトビケラは見つからなかった。
つまらないので車で寝させてもらう。
道中に通りすぎた打詰の集落の景観が印象的だった。
集落名を「うちづめ」と読むと思っていたが、後に「うっづめ」だと教えていただいた。
ライトの設営を行える程度には回復したので、設営ののち夜を待つ。
昼間の調査があまりに貧果だったので、
今日もナイトルッキングやビーティングをすることにした。
シロハカワラタケが多数生えた材があり、そこにイボヒラタカメムシが群がっていた。
この日もライトにはムモンチャイロ、それも特大個体が来たそうだ。
自慢された。羨ましい。
それに、狙っていたオオスミヒゲナガやオニユミアシゴミムシダマシは
結局採れずじまいだった。
本来であれば梅雨明けのはずだが、今年の長梅雨ではまだ発生していないのだろう。
今日まではなんとかもっていた天気も明日からは崩れるようだ。
実は、本日から、南九州在住のSさんと合流している。
同行したOBの先輩のお知り合いで、明日以降もご一緒できるとのことだ。
ただ、天気がどうなることやら。
前日の不安は的中し、朝からしっかり雨が降っている。
雨雲レーダーとにらめっこののち、大隅から北上することになった。
草原や湿地、海岸での調査が目的だ。
移動しながら湿地での調査を行ったが、雨がひどくなってしまい、
この日の調査は打ちきりとなった。
書くことが…ない!
最終日前日なのでトラップ類を一斉に回収する。
二日目に宿近くに渡辺さんらが掛けたイエローパンは大当たりで、大漁だったらしい。
私がかけた設置式ライトトラップは微妙な戦果だった。
トラップ回収後、大隅半島の西側を車で流しながら調査を行った。
ヒラタカメムシの成果は特になかったがOBの先輩のほうはそれなりに良かったようだ。
天気もおぼつかないため、キス釣りをしてこの日の調査を終えた。
それなりに釣れた。本当に久しぶりの釣り、楽しかった。
宿を撤収後、一気に県中央部まで北上。
まとまった林が残るポイントで最後の採集をした。
なんらかのカレキゾウムシ。
でかくて太くてカッコいい。
ちょっとピンボケ。太い倒木にたくさん群がっていた。
トビイロオオヒラタカメムシ。
普通種だが、こうして写真を撮ると重厚感があり良い虫に見えてくる。
なぜか「川の字」に並んでいたクロヒラタカメムシ。かわいい!
別のコロニー?では、成虫の下に小さな幼虫が!!かわいいいい!!!
若齢幼虫はベビーピンクなのだ。
サシガメの幼虫。アカシマサシガメ属の1種だろうか。
ヤスデを盛んに捕食している。実に美しい。
ガラス細工のように見える。
原生林の中にいる本属なんて、珍なる虫の香りしかしない。
が、こちらも若齢なので飼いきる自信はなく、リリース。
びっしりとキノコの生えた一本の立ち枯れ。
タイショウオオキノコ天国となっていた。
数頭摘まんだ。
対馬でしか採集したことがなく、ここでの出会いは嬉しかった。
迫力ある虫だ。
また、タイワンオオテンダマの成虫をここでようやく採集できた。
昼ごろまで採集し、調査終了。
旅の最後を飾る、鹿児島空港のおかわり無制限鶏飯。
今回の調査はとにかく天気に祟られた。採集記がしりすぼみなのもそのためだ。
しかし、悪条件としては極めて効率的に採集でき、成果もよいものとなった。
OBのお二人のおかげと言うほかない。
お二人には調査の全面にわたり大変お世話になり、本稿の確認もいただいた。
また、調査に同行していただいたSさんには、
採集地の案内をしていただき、現地の情報も多くご教授いただいた。
そして最後に、文句のひとつも言わずにいつもニコニコして付き合ってくれた松本くん。
皆様に、この場を借りてあつくお礼を申し上げる。
完
※本採集記は昆研OB会ニュースで配信した記事をWebサイト用に再編集したものです