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家畜生理学研究室 通信

家畜生理学研究室の主な研究テーマ

私たちの研究室では,トリの病気や暑さに対する抵抗力について,ウズラを使って研究しています。ウズラはニワトリと同じキジ科のトリであり,ニワトリとの雑種やキメラを作製でき,ニワトリの1/10程度の大きさであり,ニワトリの1/2〜1/3の期間で卵を産めるようになり,さらに遺伝的にバラエティーに富んでいます。ウズラのもつこれらの性質を活かして,様々な細胞やタンパク質,さらにそれを支配する遺伝子について調べています。

 またウシにおけるビタミンAの役割や,ウマの運動と赤血球との関係,さらには野生動物のDNAなども研究対象にしています。

病気に強いトリ

 免疫とは疫(えき:伝染病)を免がれると云う意味です。免疫の仕組みは大きく2つに分けられます。その1つは,おそらくすべての多細胞生物がもつ,単細胞生物である細菌やさらにもっと単純なウイルスなどから身を守る自然免疫と呼ばれる仕組みです。自然免疫で働く細胞やタンパク質は,それぞれどんな細菌やウイルスをターゲットとするかがおおよそ決まっており,何度攻撃を受けてもほぼ同じ強さで反撃します。もう1つは,セキツイ動物に独自に進化した獲得免疫と呼ばれる仕組みです。獲得免疫で働く細胞やタンパク質は,かなり厳密にターゲットとする微生物が決まっており,さらに学習能力があって2度目に同じ侵入者に出合うと1度目より速く強く攻撃します。「はしか」などには2回はかかりにくかったり,インフルエンザに予防注射が効いたりするのは,この獲得免疫のおかげです。つまり獲得免疫は1度侵入してきた細菌やウイルスを記憶しているのです。

 具体的には,自然免疫において細菌やウイルスを溶解する抗菌タンパク質(ディフェンシン),自然免疫によって撃退した侵入者の存在を獲得免疫に伝えるタンパク質(Toll様受容体:TLR),獲得免疫の時に侵入者に関する情報をリンパ球に伝える主要組織適合性複合体(MHC:臓器や骨髄の移植の際に問題となる型をつくるタンパク質でもあります),MHCからの情報を受け取るアンテナ(受容体)や抗体など,さらにはこれらさまざまな分子を持ち自然免疫,獲得免疫で活躍するじつに多様な白血球たち:好中球,好酸球,好塩基球,単球(マクロファージ),NK細胞,NKT細胞,Th細胞,Tc細胞,B細胞などなど,を対象に研究を進めています。また,腸内細菌群と免疫との関係,なぜ腸内細菌が増えすぎて悪さをしないのか?もっとも理想的な腸内細菌の構成はどんなものか?ということにも興味をもっています。

 私たちは病気にかかりにくいトリはどんな免疫力をもっているのか?をおもにウズラを使って研究しています。この研究はニワトリインフルエンザのようなヒトもトリもかかってしまう伝染病に対する対策や,伝染病予防に使われる薬剤の使用量を減らすのに役立ち,ヒトとトリ,そして環境に優しい家畜の生産に活かされるものです。

暑さに強いトリ

熱ショックタンパク質(HSP)

 タンパク質は,アミノ酸をつないで作った鎖ですが,それが複雑な3D構造を持つようになってはじめてそれぞれの機能を果たすようになります。熱などのストレスを受けるとタンパク質の3D構造は変化してしまい,タンパク質は機能が果たせなくなってしまいます。タンパク質の中には,他のタンパク質がこの3D構造をつくるのを助けたり,一度でき上がった3D構造がおかしくならないよう守ったりする,ボディーガードのような役割をするものがいます。はじめにこのタンパク質が見つかった時,細胞に熱を加えるとできてくることから,熱ショックタンパク質(Heat Shock Protein:HSP)と呼ばれるようになりました。HSPは暑さに対する抵抗力の他,BSE(狂牛病)におけるタンパク質の異常化,細胞の生死などなど,さまざまな生命現象において重要な役割を果たしています。私たちは,暑さに強く,繁殖能力の高いトリの改良に役立てるために,ウズラのHSPについて研究しています。

ウシとビタミンA

 ダイエットや美白効果など,ビタミンAについて話題になることがあります。ビタミンAは代謝を活発にして脂肪を燃えやすくしてくれます。その他に,筋肉になる細胞,骨をつくる細胞,脂肪を貯める細胞の“おおもとの細胞”に作用して筋肉や骨をつくる働きがあります。つまり脂の乗った霜降り肉をつくるにはある程度ビタミンAが少ないほうがよい訳です。さらにビタミンAはリンパ球の増加や免疫系の活性化にも働くなど,実にさまざまな,体にとって重要な働きをしています。

 私たちはこれらたくさんのビタミンAの働きの中で,ウシの成長や肥育とビタミンAとの関係について研究しています。ビタミンA(レチノール)は水に溶けにくいので,血液中など体内を移動する時はレチノール結合蛋白質とくっついて移動します。この結合タンパク質は肝臓でつくられますが,生まれたばかりの子牛はこのタンパク質をつくる力が弱いため,母乳からもらったビタミンAを上手に利用することができません。このことが,子牛の成長に悪い影響を与えたり,子牛が病気にかかりやすい原因になっています。そこで,子牛が充分なビタミンAを吸収し,また上手に利用できるようにするための研究をしています。

ウマの運動と赤血球

 激しい運動をすると息が苦しくなったり,体が動かなくなったりすることを経験されたことのある方は多いと思います。一番の原因は,筋肉が酸素不足になるためです。筋肉に酸素を運んでくれるのは赤血球ですから,赤血球がたくさんあれば,筋肉が酸素不足にならず,そのぶんだけたくさんの運動ができることになります。ウマは何もしていない時の血液中の赤血球の割合は1/3程度ですが,運動するとその割合が倍ぐらいまで増えます。ウマは脾臓という臓器に赤血球を貯蔵しておいて,運動するときになるとこれを使う,いわば血液ドーピングの仕組みを生まれながらにそなえているのです。

 一方,赤血球の寿命はおおよそ100日あまりです。つまり毎日1%弱の赤血球が古いものから順におもに脾臓でマクロファージによって貪食(どんしょく)され,反対に毎日1%弱の赤血球が骨髄でつくられています。なんらかの原因でまとまった量の赤血球が失われるとその分だけ余分に赤血球をつくります。赤血球が失われる原因は様々ですが,実は運動もそのひとつで,特に激しい運動をすると普段より多くの赤血球が壊されます。

 私たちはウマの赤血球の“壊れにくさ”がどのように変化するか?またこの“壊れにくさ”に関わる赤血球膜のタンパク質について研究しています。

野生動物における遺伝子の利用

 野生動物の保全にはその個体や集団の生態を理解することが大切であり,時には動物園のような保護下での繁殖も重要です。そのためには個体の性別や集団の家族関係を正確に把握することが必要です。ところが,外見では性別が分かりにくい野鳥や,追跡調査だけでは家族関係が判別し難い野生動物はたくさんおります。そこで,毛や羽の根元にあるわずかな細胞やフンに含まれる粘膜細胞からDNAを取り出し,性別や個体の識別に利用する方法があり,私たちが持っている遺伝子解析技術を野生動物の研究にも活用しています

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