東京農業大学

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スーパー農学の知恵

ジブチの砂漠化防止に尽力

「緑を育てる会」15年の活動

国際食料情報学部国際農業開発学科 教授 高橋 久光

東京農業大学は1991年から東アフリカのジブチ共和国で、「乾燥地の農業と砂漠緑化技術」の改善に取り組んでいる。学内に「沙漠に緑を育てる会」を組織、ジブチに派遣した研究者、学生は100名を越えた。今年で15年目となるプロジェクトの成果を報告する。

 

地球環境の危機

今日、地球上には色々な環境問題が生じている。たとえば地球の温暖化、オゾン層の破壊、酸性雨、熱帯林の減少および砂漠化の拡大などである。

これらのことは人類生存のための深刻な課題として捉えることができる。1992年リオ・デ・ジャネイロで「環境と開発に関する国連会議(地球環境サミット)」が開催され、21世紀に向けての環境保全と開発を両立させるための各国が取組むべき行動計画「アジェンダ21」が採択された。

現在世界の人口は65億人余り、2050年には約90億人に達するという予測がある。国連人口活動基金による世界の人口増加と将来の推移をみると、近年アジアの人口増加率は2%以下であるが、中南米はまだ2%以上であり、アフリカ大陸ではそれ以上の増加率であり、アフリカの農業生産力の向上は、重要かつ緊急な課題である。

 

深刻な砂漠化

発展途上国では、食糧生産のための過剰な焼畑移動耕作や燃材確保のための樹木や森林が伐採され、緑が急激に減少し、同時に酸性雨の発生や砂漠化等によって生態系の破壊が進行していることから、人口増加に伴う食糧生産は極めて難しく、深刻な事態に直面しつつある。中でも、砂漠化問題は深刻な問題として位置づけられる。

ジブチ共和国は、エチオピア、エリトリア、ソマリアに囲まれ、紅海とアデン湾の間に位置している。国土がアフリカ大地溝帯内に含まれるため起伏が激しく、北部は火山群山Moussa Ali山(2,015m)およびGods山(1,715m)を含む高原地帯、中部より平原状砂漠となり東アフリカまで続く大地溝帯もここより始まっている。同国の国土面積は約23,000烽ナあり、年間平均降雨量が155oと乾燥地帯に属し、5月〜9月の平均気温は36℃、10月〜4月の平均気温は25℃であり、作物生産や緑化にとっても非常に厳しい自然環境条件である。

 

ストーンマルチ工法

これまでに東京農業大学がジブチにおいて試んできた緑化工法は「ストーンマルチ工法」、「コーティング種子播種工法」、「植生基材吹付け工法」、「ウォーター・ハーべスティング工法」、「ダブルサック工法」などである。

「ストーンマルチ工法」とは天水のみ、または少量灌水のみによって、植物の生育を期待する緑化基礎工のひとつである。岩石砂漠地帯などに無数に転がっている、1〜2sの石を1゚当たり20〜30個地表面に敷き詰め、石と石の間で植物を生育させる方法で自然の生態系との調和を考慮した工法である。

ストーンマルチ工法の効果としては、1.土壌からの水分蒸発の抑制、2.地温上昇の抑制、3.稚苗の保護、4.動物による食害軽減や植生復元力の保持等があげられる。

 

ダブルサック工法

「ダブルサック工法」はあらかじめ掘削した穴(直径15p、掘削深:植物の生育可能な土壌水分が存在する深さ)に、円筒型の外筒と内筒の2つのサック(材料は生分解性ビニールやクラフト紙など)を土壌中に埋没し、内筒側に植物の種子や苗木を植える工法である。

内サックにあらかじめ保水性を改善した土壌を入れておくことにより、植物の生育にとっての水環境の改善が期待できる。外サックは、外部からの熱移動の抑制や地温環境の改善に役立つ。

このダブルサック工法はアメリカ、中華人民共和国、イスラエル、オーストラリアおよびサウジアラビアなどでと特許も取得している。

 

砂漠化の原因

地球上に砂漠ができたのは、約1万年前からといわれている。アラブも北アフリカも、かつては緑あふれる大地であった。砂漠化の一つの原因は気候の変化である。それ以前は今より地球全体が暖かかったため、砂漠地帯は緯度の高いところにあったと考えられている。

一方の理由は、文明との関係で、牧畜の過放牧のため草が根こそぎ食べられ、全滅してしまい砂漠化してしまったとも考えられている。また、メソポタミアのように、灌漑農業による塩類集積による塩害と、レンガを焼くために森林を伐採しつくしたために滅びた文明もある。

人口の増加は過耕作、過放牧を生じさせると同時に、薪は途上国においていまだに重要なエネルギー源として位置づけられる。人口の増加や森林の伐採は砂漠化の原因である。

 

新技術開発への取り組み

東京農業大学の砂漠化の防止に対するプロジェクトはまだまだ続く。本学は砂漠防止のための新技術開発に取り組くんでいる。地球環境の保全と回復に対する努力は、まさに我々に課せられた今日的課題でなかろうか。

「砂漠に緑を育てる会」の運営、共同研究を主に担当してきたのは、地域環境科学部の生産環境工学科、森林総合科学科、造園科学科と国際食料情報学部国際農業開発学科であるが、学部学科を問わず多くの専門家が参加している。

これまでの共同研究の成果をジブチ共和国と協同で2005年に開催された「愛・地球博(愛知万博)」や東京農業大学の「食と農」の博物館において展示を行った。

 

実用プラントで研究進む

生ごみのメタン発酵システムは、家畜糞尿の処理システムほど多くは利用されていないが、エネルギー化技術としては、これからの社会では重要な技術である。しかし、残ーの処理や廃液の処理がネックになっており、成熟した技術として普及していない。そこで、発想を変えたメタン発酵システムとして、前処理に可溶化装置を用い酸生成槽とメタン発酵槽を分離し、メタン菌に粒状菌のグラニュールを用いたEGSB法を開発した。ローテクノロジーがハイテクノロジーに変わってくる。

メタンガスプラントの研究は醸造科学科の鈴木昌治教授のアイデアに基づく研究である。小さなアイデアが機能や効率を大幅にアップさせる。これが農大流の研究方法である。いま、世田谷キャンパスに処理能力180s/日の実用プラントが出来ている。約180所帯の生ごみを処理できる計算である。

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