食品廃棄物の資源循環促進を

 

食品リサイクル法改正の効用

東京農業大学国際食料情報学部 
教授 牛久保明邦(うしくぼ あきくに)

1945長野県年生まれ 東京農業大学大学院農学研究科農芸化学専攻修士課程修了。東京農業大学国際食料情報学部国際農業開発学科(農業環境科学研究室)教授

専門分野:環境科学、土壌学、水質化学
主な研究テーマ:食品廃棄物リサイクルほか
食料・農業・農村政策審議会食品リサイクル小委員会座長、農林水産省食品ロスの削減に向けた検討会座長(現在)

食品製造業、食品卸売業、食品小売業及び外食等の食品関連事業者を対象に「食品循環資源の再生利用等の促進に関する法律」(以下「食品リサイクル法」)が施行されたのは平成13年5月だった。さらに、再生利用等をより一層促進する趣旨で、同法の一部を改正する法律(以下「改正食品リサイクル法」)が平成19年12月に施行された。食品廃棄物の現状と、新しい法制度に基づく取り組みについて、概観する。

3段階で発生する食品廃棄物

食品廃棄物は、食品製造、食品流通、消費の3段階で発生する。食品製造業などからは「加工残渣(ざんさ)」など、食品卸売業や小売業などからは「売れ残り」「食品廃棄」などが出る。さらに、外食産業やレストランなどとともに、家庭の消費段階からは「食品廃棄」「調理くず」及び「食べ残し」などとして廃棄される。  わが国の食料消費仕向け量は、国内生産と外国貿易の合計で年間1億1,723万トン(平成17年度食料需給表:農林水産省大臣官房)に上る。このうち飼料用等に向けられている分を差し引いて、粗食料や加工用等として一般家庭と食品関連事業者への仕向け量は、9,068万トンとなる。

一般家庭から発生している食品廃棄物は約1,100万トンで、このうち、過剰除去・直接廃棄及び食べ残し、つまり食用に供することができる廃棄物(可食可能な食品廃棄物)は、200万〜400万トンと推計される。食品関連事業から発生する食品廃棄物もまた約1,100万トンで、そのうち約300万トンが製造副産物で飼料等の原料として有価取引されている。残りの約800トンのうち、規格品外、売れ残り、食べ残しとして可食可能な食品廃棄物は300万〜500万トンの範囲で発生している。

肥料、飼料などに再生利用

 つまり、一般家庭及び食品関連事業から発生している食品廃棄物総量は約1,900万トンで、うち可食可能な食品廃棄物は、500万〜900万トンと推計され、これがいわゆる「食品ロス」ということになる。  これらの食品ロスを含む食品廃棄物のうち、肥料、飼料やエネルギー等の原料として再生利用(リサイクル)できる部分を「食品循環資源」と言う。その量は約500万トンで、有価で資源化されている量(300万トン)を合わせた総再生利用量は約800万トンとなり、総食品廃棄物発生総量(約2,200万トン)比で、約36.3%が再生利用により資源化されていることになる。さらに、焼却または埋立処分量は約1,400万トン(総食品廃棄物発生総量比で63.6%)で、この大部分は一般家庭から発生している食品廃棄物が占めている。

食品リサイクル法制定後の状況

 食品リサイクル法は、食品に係る資源の有効な利用の確保及び食品に係る廃棄物の排出の抑制を図るとともに、食品製造等の事業の健全な発展を促進し、生活環境の保全及び国民経済の健全な発展に寄与することを目的として、制定された。  同法が施行された平成13年度から平成18年度までの食品関連事業から発生する食品廃棄物の年間総発生量の推移は、やや微増の傾向で推移し、平成18年度の発生量は1,135万トンであった。業種別では、外食産業で減少傾向にあるが、食品製造業、食品小売業及び食品卸売業ではやや微増あるいは横ばいの状況となっている。平成18年度における食品産業全体の総発生量に占める各業種の比率は、食品製造業が全体の44%を占めており、以下外食産業27%、食品小売業23%及び食品卸売業の6%となっている。

また、同法は、全ての食品関連事業者に「食品循環資源の再生利用等の実施率」を平成13年度から5年間に20%以上に向上させることとしていた。この実施率は、「発生抑制」、「再生利用(肥料化、飼料化、油脂・油脂製品化及びメタン化)」及び「減量」のいずれかあるいは組み合わせによって達成するものとしている。  図1に食品循環資源の再生利用等の実施率の推移を示した。食品産業全体では、平成13年度の37%から平成18年度の53%にまで向上し、一定の成果が認められる。業種別みると、食品製造業においては、極めて高い実績を上げているのに対し、食品小売業及び外食産業における実施率が低迷している。その要因は、発生する食品廃棄物が、多種多様ものが少量ずつ発生するような業種状況に加え、消費者が食品廃棄物に楊枝やナプキン等の夾雑物を混入させる等再生利用をより困難にしている。

改正食品リサイクル法の概要

「多量発生事業者」の報告義務 

改正前の食品リサイクル法(旧法)では、食品廃棄物量や再生利用等の実施状況について、食品関連事業者の報告義務はなかったが、改正法では食品廃棄物の発生量が100トン以上の「多量発生事業者」に対し、食品廃棄物の発生量及び食品循環資源の再生利用等の実施状況等の報告が義務づけられた。  また、フランチャイズチェーン事業を展開する業者について、旧法では個々の店舗ごとに評価され、非効率であった。改正法では、本部と食品廃棄物等の取扱いについて約款等で一定の要件を満している場合、本部が加盟者等の食品廃棄物の発生量を含めて多量発生事業者であるかどうかを判断し、効率化を図ることとした。

「リサイクルループ」認定 

旧法における再生利用は、「肥料化」、「飼料化」、「油脂・油脂製品化」及び「メタン化」の4手法だった。改正法では、「熱回収」が再生利用等の手法に加えられた。  さらに、旧法では、上述した再生利用の4手法に優先順位は決められていなかったが、改正法では、飼料化を最優先に位置づけた。飼料化は食品循環資源の有する成分やカロリーを有効に活用できる手段であり、「エコフィード」(食品残さによる飼料)として、飼料自給率の向上にも寄与するためだ。

また、製造技術の進歩、社会情勢の変化や需要面及び環境面を勘案して新たな再生利用対象製品として、「炭化して製造される燃料及び還元剤」と「エタノール」が追加された。

再生利用に「熱回収」を追加

旧法における再生利用は、「肥料化」、「飼料化」、「油脂・油脂製品化」及び「メタン化」の4手法だった。改正法では、「熱回収」が再生利用等の手法に加えられた。  さらに、旧法では、上述した再生利用の4手法に優先順位は決められていなかったが、改正法では、飼料化を最優先に位置づけた。飼料化は食品循環資源の有する成分やカロリーを有効に活用できる手段であり、「エコフィード」(食品残さによる飼料)として、飼料自給率の向上にも寄与するためだ。

また、製造技術の進歩、社会情勢の変化や需要面及び環境面を勘案して新たな再生利用対象製品として、「炭化して製造される燃料及び還元剤」と「エタノール」が追加された。

再生利用の実施率目標 

食品循環資源の再生利用等の実施率は、旧法では、施行後5年の間に再生利用の実施率を20%までに向上することとされていた。今回、再生利用等の一層の促進を図るために、新たな実施目標が設定された。これは、前年度の実施率実績区分によりポイント増加(年間1〜2%づつをを上乗せ)を目指す目標数値が取り入れられた。  さらに、業種を問わず全ての食品関連事業者に一律の実施率目標が設定されていた旧法の措置を見直した。個々の食品関連事業者が上記のポイント増加実施率をもとに取り組みが行われた場合に、業種別に業種全体で達成されるであろう実施率の目標値についても設定した。個々の食品関連事業者と国全体の食品関連業種が目指す実施率の数値がダブルで設定されたことになる。

温暖化防止への取り組みも

 資源循環型社会の形成を推進するために食品リサイクルの果たす役割は大きい。食品関連事業者のみならず消費者においても食品ロスを削減して発生抑制を図るとともに、食品循環資源については、エコフィードの手法を最優先として、飼料自給率の向上等を通じて食料自給の向上にも貢献することが重要なテーマである。さらに、たい肥の施用による化学肥料の削減と持続型農業の推進が、わが国の食料生産向上のために必要である。  また、バイオエタノールやメタン等のエネルギー生産による化石燃料の代替として、その使用量削減等による地球温暖化防止への取り組みなど食品廃棄物の資源化のより一層の推進が期待される。

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