東京農業大学学長就任にあたって

農学の世界的拠点を目指して

東京農業大学 応用生物科学部バイオサイエンス学科 教授、農学博士(機能性分子解析学研究室)

東京農業大学 東京農業大学短期大学部 学長

大澤 貫寿(おおさわ かんじゅ)

日本農薬学会評議員、日本植物防疫協会・日本植物調節剤協会残留試験委員、東南アジア国際農学会副会長、
日本−イスラエル作物保護会議委員

21世紀にあって、人間社会が迫られている課題は明確になっている。急速に発達してきた科学技術は、人類の豊かさという「光」とともに、温暖化に伴う地球環境変動などその生存を脅かす「影」をもたらしてきた。

今世紀の科学、技術は、この光の面を進展させるとともに、「影」の面を制御し、全地球規模での持続可能な発展をはかることが責務となっている。東京農業大学は、こうした人類史的課題を担う「農学系総合大学の拠点」として、その活動を展開する役割を担っている。

さて東京農業大学は、開学以来114年の伝統ある歴史の中で、多くの優れた研究成果を生み出すとともに、農業及び関連産業に貢献する多彩な専門性の高い知識人を育てて、国内はもとより海外でも活躍している。これは、本学の誇るべき「人物を畑に還す」との建学精神の中から生まれてきたものである。そのような輝かしい成果を挙げてきたのは、自然と生物から学び人類に還元する実学に培われた教育・研究者の存在と研究・教育への自由な発想と展開が出来てきたことにあると考えている。

農学の総合大学としての最大の強みは、生物を遺伝子レベルから個体レベルまでを丸ごと理解できる教育研究システムによって、現在の課題解決が出来ることにある。本学が優れた成果を挙げてきたことは、単為発生マウス研究のようなNatureなど世界の一流紙への掲載による研究力の向上や文科省学術フロンティアの国際共同研究による生物農薬など新素材開発による新農法の確立、リサイクル研究センターおよび教育GPによる国際的次世代農業者教育のネッワーク構築による食料、環境に関する世界学生サミットや沙漠緑化の展開などを推進している。今後は、国内はもとよりアジアとの連携の中で総合農学の特色を如何に発揮していくかにある。

日本の農業が非効率的な衰退産業であるかのように位置付けされている。しかし農業を衰退させてしまっては、人類の生存条件の基盤である食の自給権を失ってしまう。我々は、農業を21世紀の成長産業としなければならない。また、アジアの農民の貧困、そして環境汚染が深刻になっている現実を直視し、その解決に努力することが求められている。特に食料、環境、エネルギー、健康問題は、日本のみならずアジア諸国においても共通の大きな課題である。今までに培われた農業・環境技術は、作物種や土地利用のあり方が近いアジアにおいて十分活用でき、アジアでの教育や研究を展開することができる大きな要素でもある。

アジア諸国の農学関連分野の研究者は、国の基は農業であることと認識しながら、農民の貧困や環境汚染などの多くの困難な諸問題に直面しておりこれら解決の共同研究を積極的に展開したいとの要望を持っており、これらに応えるべきと考えている。

すなわち、農業および関連産業を支える農学を基盤とした大学として世界水準の学術研究を推進させるとともに、「人物を世界の畑に還す」のもとでの専門性の高い知識人の育成を図ることが我々の使命であることを認識しつつ、食料、環境、健康、エネルギー問題に積極的に挑戦し、農で培われた知恵と技術を中核として食料や地球環境問題解決に努力する。また、農学生命科学の 新しい研究の芽を育て、その推進を図らなければならない。

国際的な学術連携と教育の促進は、東京農業大学の国際的教育・研究の使命であり、ひいては平和な世界を作る国際貢献になる。食料や環境問題などの学問分野の先端や基盤的学術研究交流については、農学の国際的な中核的研究拠点の構築に向け積極的な展開を行わなければならない。これが21世紀に課せられた課題である。これこそが本学の使命であり、農学研究にフィールドの国境はない。

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