生物関連など新技術創造へ

東京農大の知的財産保護活動
7年半で特許出願105件に

知的財産管理委員会委員・客員研究員 御船 昭

東京農業大学の知的財産保護を図るTLO(Technology Liaison Office)活動は1999年10月、同大学総合研究所を中核として開始された。2001年3月に新体制で最初の特許出願が出されてから7年半、東京農大としての出願は外部機関との共願を含めて、現在までに105件に上っている。そのほとんどは、まだ成果として具体的な大きな収入に繋がっていないが、一部の出願は、企業に持分譲渡あるいは実施許諾されて、実用化の検討が始まっている。  実学をモットーとする東京農大としては、こうした実用化される技術を特許権で保護して、企業を通じて社会還元して行くことが大切と考えられる。実用化を担当する企業は、競争者の出現を押さえるため、特許権で新しい技術を保護していなければ、使用する意欲が湧いてこない。21世紀に入って東京農大の得意分野である生物関連技術は、新しい時代を迎え、環境に優しい食と農に関連する新しい技術の創造が大きく期待されている。

総合研究所の役割

総合研究所は知的財産管理委員会の担当事務局であり、所長の河野友宏教授が同委員会の委員長を務めている。企業で長年、発明の特許化やその実用化、そして実施許諾、ライセンスなどの経験を豊富に持ったスタッフが知的財産管理規程に基づき、教職員が生み出した研究成果などを特許にする手伝いをしている。  大学の職務の中で行われた研究成果を基に発明が生まれた場合は、総研事務局を通じて大学へ提出された報告を基に、知的財産管理委員会で、大学として特許を出すか否かを決定する。大学で特許化すべきと決定した発明は、発明者から大学に権利を譲渡してもらって学校法人東京農業大学が特許出願することになる。なお、先願主義をとるわが国の場合、出願を遅らせないように、総合研究所長の判断で急いで出願の可否を決めることもかなりあることを知っておいて欲しい。

大学が譲り受けた発明については、特許出願の文書作成や特許庁への手続にかかる費用はすべて大学が負担し、特許化した後の維持費用も大学が負担する。特許出願が特許として権利化された時は、知的財産管理規程に基づき大学に帰属することになる。その場合、発明を行った教職員は発明者として特許出願に明記し、将来、収入が得られた場合には、知的財産管理規程に基づき、対価の配分を受けられるようになっている。出願しないと決めた発明は、発明者本人に返却され、本人の意志で自由に処理できる。  特に重要な発明は、外国にも特許出願をするが、かなり経費がかかるので、知的財産管理委員会の判断により、外国特許を出願する前に、希望する企業に譲渡することを推進している。もちろん、譲渡先が固まらない場合は、将来譲渡すべき資産として大学が特許を取得していく。通常は、発明者が交流している企業への譲渡や実施許諾を優先させる。

社会還元にチャレンジ

もし、特許出願前に学会発表をしてしまうと、その段階で公知となり、特許性が失われる。研究成果に特許性がありそうだと考えたならば、まず特許出願を優先することを考えるべきだろう。また、外部企業や他の大学、国公立の研究所などと提携して研究をする場合、共同研究契約又は受託研究契約を締結し、費用分担や成果の帰属を決めておく必要がある。  さらに、微生物や未公開の物質の所有権はしばしば問題の種となる。米国では原則大学の所有となっていて、日本の研究者が訴訟される例もある。今後は日本でも、微生物や未公開の物質は分譲や供与をする時に契約を結んでしっかり管理しておくことが大切だ。

以上の点にも留意して、研究者が自ら生み出した成果で特許権を確保し、東京農大発の「知的財産」として社会に還元することにチャレンジをしてほしいと、総合研究所では学内に呼びかけている。

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