北海道で「フードマイスター」育成

地域資源利用の教育プログラム

 

東京農業大学生物産業学部食品科学科(食品製造科学研究室)教授
永島 俊夫(ながしま としお)

1948年神奈川県生まれ。東京農業大学大学院農学研究科修士課程修了。

専門分野:食品製造学、発酵食品学。

主な研究テーマ:ナガイモの粘性と加工について、地域生物資源の有効利用。

主な著書:日本の伝統食品事典(共著)朝倉書店、食品保蔵・流通技術ハンドブック(共著)建帛社

北海道網走の東京農業大学生物産業学部(オホーツクキャンパス)では、新たな教育プログラム「地域資源利用によるフードマイスター育成」を本年度から実施する。文科省支援の「大学教育・学生支援推進事業」に採択されたもので、期間は23年度までの3年間。オホーツク地域に豊富に存在する農林水産資源を最大限に利用し、食品加工および起業化の手法を学ぶこと、技術力と創造力を養い高品質な地域の食品ブランドづくりを目指すこと、地域産業の振興に貢献できる人材を育成することなどを目的としている。

目的と背景

生物産業学部では、農・林・畜産物の原料素材について学ぶ生物生産学科、水産資源について学ぶアクアバイオ学科、食品の加工、品質管理などについて学ぶ食品科学科(平成22年度より食品香粧学科へ名称変更)、それに販売・マーケティング戦略や起業化などについて学ぶ産業経営学科の4学科が設置されている。これらの各学科における教育研究分野の特色を生かし、「フードシステム」としての体系を理解した上で、これまで本学部が取り組んできた「オホーツク・モノづくり学」を総合的・学際的に学び、「オホーツク・フードマイスター」を育成して、食品加工の技術力と創造的思考力を向上し、学士力を高めることを目指す。

プログラムを実施する背景として、本学部ではこれまでに次のような実績がある。

(1)食品加工技術センターでは学生の食品加工実習や卒論研究など、教育研究の場として活用されているほか、地域との産官学連携による様々な製品開発や市民講座などにも貢献するなど、高い技術的蓄積を有していること。

(2)2004年4月に設立した学生起業「株式会社 東京農大バイオインダストリー」では地域の企業と連携し、エミューの利用を中心とした生産・加工・販売・経営を実践し、「ソーセージ」や「どら焼き」などの製品開発に成功した実績を有していること。

(3)過去に2件の「現代GP」の採択を受け、これらの実践的な教育プログラムを運営する機関として、大学内に「オホーツク実学センター」を設置し、これまでも「特別講義」という授業枠を活用して、これらの教育プログラムに取り組んできた。本取組はこれらの実績を生かし、学科横断的に生産〜加工〜流通〜ビジネスというつながりをもって専門性を超えた実践的・融合的な教育プログラムとして実施する。

プログラムの内容

本取組は生物産業学部におけるこのような食品加工・モノづくり、起業化、実践的な教育プログラムの実績を基盤として、発展的に展開しようとするものであり、「オホーツク・フードマイスター」を育成するために、基礎的な内容から実践性、さらには応用性を帯びたプログラムへと、段階的に発展する体系的な教育課程を整備している。

まず基礎編では、食品加工や食品開発に関するプロセスとして、オホーツク地域の原材料を適正に評価し、その調達から、加工や保蔵に関する知識や技法、食品衛生や安全性、売れるブランド商品づくりやマーケティング、事業化や起業化に関するビジネスとしての基礎的な知識を学ぶ。実践編では、既に実績のある各種加工製品におけるトピックを基盤とした実習プログラムを実施する。このように、総合的な学習経験を積み重ね、深い専門知識を得るだけではなく、技術力や創造力を磨くことにより、学生の創造的思考力の向上を期待することができる。

各年度の実施計画については、本格的な教育プログラムの実施は平成22年度からとなるため、後半期から開始される21年度は準備期間と位置付け、教育プログラムの推進体制の整備や、取組のPR、フォーラムなどを実施する。平成22年度と23年度は受講学生を募集し、教育プログラム「オホーツク・モノづくり学」を実施する。そして成果報告会と同時に加工品開発コンペなどを実施する。

実施体制と評価

本取組の実施体制として、これまで実学教育プログラムを推進している既設のオホーツク実学センターに、「オホーツク・モノづくり学」プロジェクト委員会を新たに設置し、学科横断的に組織された学内の担当教員と、学外に委嘱する外部コンソーシアム委員によって、教育プログラムの運営・改善を行う体制を整える。特に学内の食品加工技術センターと東京農大バイオインダストリーとの、相互に連携した推進体制を整えることは、技術的蓄積と、販売ノウハウを教育プログラムに反映させやすくなり、高い教育的効果が期待できる。

本取組の評価体制としては、本学の教学委員会によって、自己点検を含めた評価を行うが、この他に外部評価委員からの評価を行うことで、より高い透明性を確保する。「オホーツク・フードマイスター」を授与する評価方法は、受講の態度、出席回数、レポート内容、成果報告会における加工品開発とビジネスモデルの提案によって、それぞれ点数化した評価を行い、総計100ポイント中70ポイント以上獲得した者に対してこれを授与する。また、教育プログラムの評価体制としては、「オホーツク・モノづくり学」プロジェクト委員会において、企画・運営に対し自己点検評価、外部評価、学生による評価によりチェック体制を整え、これらを検証しながらプログラムの改善へとつなげていく。

達成目標と期待される効果

本取組の成果としての「オホーツク・フードマイスター」は、オホーツクの豊富な生物資源の生産、加工、流通販売などの部門を相互に理解し、本学における教育研究の実績基盤を融合させることによって生み出される。そして、本取組の実施により、オホーツクの地域資源をくまなく把握した「モノづくり」を学ぶことで、食品製造における加工工程やその技術について理解するほか、販売・マーケティングなどビジネス感覚も習得することが可能となる。

本取組で、生物資源の持続的な利用を基盤とした、オホーツク地域ブランドの創造に取り組む人材を育成することは、社会的ニーズを踏まえた新たな商品開発や起業活動、新たな雇用創出や企業間連携による共同開発へと発展する可能性があり、これは経済産業省や農林水産省で進めている農商工連携の促進につながり、社会的にも高い効果があるものと考えられる。まさにこのプログラムは本学部で提唱してきた「オホーツク学」の具体的実践であり、応用の一環ということになる。

 

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