システムを賢くするためには

ロボットへの知能化技術の適用

東京情報大学総合情報学部 教授

永井 保夫(ながい やすお)

1961年千葉県生まれ。

早稲田大学大学院理工学研究科博士前期課程修了、博士(情報科学)。
東京情報大学総合情報学部情報システム学科(知能情報システム研究室)教授。

専門分野:人工知能、ソフトウエア工学

主な研究テーマ:人工知能(探索、制約充足・最適化、制約プログラミング、Webインテリジェンス、知的設計システム)、ソフトウエア工学(システム分析・設計、形式検証、エージェント指向)、情報教育など。

主な著書:IT Text 人工知能(共著)オーム社

人工知能分野では、人間の知的ふるまいと同じ働きを機械によって実現するための技術、およびそのような技術によって実現されるシステム構築に関する研究が精力的におこなわれている。われわれの研究室では、図1のように、明示的な知識表現からなる知識ベースを操作して答えを導く推論機構を持つシステムの構築に必要となる技術を検討している。ここでは、システムを賢くするための知能化技術といくつかの取り組みについて紹介する。

自分で考えるコンピュータ

自分で考えるコンピュータを作るためには、人間の脳のメカニズムを真似るアプローチと、それを意識しないアプローチがある。われわれの研究では、後者の人間の脳のメカニズムを意識しないアプローチをとる。たとえば、Aという事実とAならばBであるというルールがある場合にはBという事実が新たに追加されるという論理学を利用する。われわれは、このような論理に基づいて自分で考える(推論する)仕組みの研究をおこなっている。

ソフトウエアロボットへの適用

論理に基づいて自分で考える仕組みの研究とともに、この仕組みを利用して、サイバースペース(ネットワーク空間)上で自分で考えることで人間の仕事を支援する気のきいたソフトウエアロボット(エージェントと呼ぶ)の研究をおこなっている。この研究では、ネットワーク言語であるJava言語を利用し、携帯端末(スマートフォンや携帯電話)上でも動作する賢いソフトウエアの作り方についても検討している。

<協調フィルタリングロボット>

近年、インターネット上でWebページに代表される膨大なデータが蓄積されるようになってきている。そのため、ネッワークのユーザ自身が、嗜好や要求に合うものを、膨大なデータの中から見つけだすのが困難になってきている。そこで、ユーザの嗜好を過去の行動という形で記録し、そのユーザと似たような行動を取っているユーザの嗜好情報をもとに、ユーザの嗜好を推測する協調フィルタリングに関する研究をおこなっている。ここでは、図2のように協調フィルタリングをおこなうシステムを分散した環境下でソフトウエアロボットによりモデリングし、Java言語により試作・評価をおこなった。
この協調フィルタリング技術は、雑誌やニュースの記事、書籍などに適用されたり、電子商取引サイトなどでの商品の提示にも利用されている。

<サイバースペース上の情報収集ロボット>

サイバースペース上で情報を収集するソフトウェアロボット(エージェント)が実現されている。しかしながら、これらのロボットは、残念ながら、最初から決められた手順通りに実行するにすぎない場合が多い。さらに、環境が変化し、実行すべき処理が複雑・高度になるに従い、ロボット自身が自分で考えて目標に応じて適切な行動計画を自動的に生成して実行する機能が必要となる。図3に示すように、サイバースペース上に分散しているデータベースで管理されている情報を収集するソフトウエアロボットの試作・評価をJava言語によりおこなった。

ハードウエアロボットへの適用

<レゴマインドストームを用いた車型ロボット>

レゴマインドストームを用いた自律型ロボットは、ロボットの心臓部である「RCX」「NXT」と呼ばれるマイクロプロセッサーが組み込まれたインテリジェントブロックとレゴブロックを用いて組み立てられ、その制御はプログラムにより実現される。各種センサー(光センサー、超音波センサー、ジャイロセンサー)からの情報を入力として自律的に考えて動作していくために要求されるアルゴリズムの検討ならびに評価をおこなっている。われわれの研究室は、図4のようなレゴマインドストームを用いた2輪倒立振り子ライントレースロボットのコンテストであるETロボコン2010に参加する予定である。

<二足歩行ロボット>

図5では、二足歩行ロボットに取り付けられた各種センサー(ジャイロセンサー、加速度センサー)を用いて、本体の姿勢を判断し、臨機応変な動作を考えて歩行する自律的制御を実現する方式の検討と評価をおこなっている。

今後の方向性

今後、システムをより賢くしているためには、知能化技術だけでなく、システムの分析・設計やプログラミングなどのソフトウエア工学を包含した知能ソフトウエアに関する研究をおこなっていくことが不可欠であると考える。

 

図1 知能化技術研究のアプローチ

図2 協調フィルタリングロボット

図3 サイバースペース上の情報収集ロボット

図4 レゴによるライントレースロボット

図5 二足歩行ロボット


×CLOSE