【国際社会とともに】キャンパスライフの国際化

国際バイオビジネス学科の現状と展望  留学生は学年定員の3分の1

東京農業大学 国際食料情報学部国際バイオビジネス学科 教授(バイオビジネス経営学研究室)

門間 敏幸(もんま としゆき)

東京農業大学前副学長・「実践総合農学会」事務局長

主な研究テーマ:「バイオビジネスの経営者能力の解明」

主な著書:「TN法−住民参加の地域づくり−」家の光協会

留学生と日本人が切磋琢磨して自らの夢の実現のために学ぶ。そうした教育・研究システムを持つ国際バイオビジネス学科は東京農業大学における真の国際学科である。前身は平成10年4月に新設された生物企業情報学科で、平成17年4月、現在の名称に変更された。

学科設立の背景

国際バイオビジネス学科の前身である生物企業情報学科設置の背景は、大きくは次のように整理することができる。

第1の要因は、高度情報化社会の中で農業生産、農産物や食品の流通・加工、さらに農業関連企業はその活躍の舞台を世界各国に広げており、バイオビジネス(私たちは、農業生産、食品の流通・加工、農業関連企業、そして医薬業界などバイオテクノロジーを活用した産業全体をバイオビジネスと呼んでいる)は国際的な経営環境の中で展開されるようになったことである。

第2の要因は、こうした国際的なバイオビジネスの展開にあたって情報が重要な経営資源となっており、高度な情報処理技術を習得した人材が待望されていることである。

第3の要因は、バイオビジネスを取り巻く資源、社会環境の重要性が急激に高まっていることである。しかも、21世紀のバイオビジネスの発展にあたっては、経営能力、国際性、情報処理技術、そして環境保全に対する強い使命感と倫理観をもった総合能力の高い人材の育成が急務となっている。

そのため、東京農業大学では情報処理教育・研究を担当してきた教員、農業経営学や会計学の専門家、そして環境問題を自然科学や社会科学の視点で研究してきた教員を結集して、高い総合能力をもったバイオビジネスの起業家、専門家の育成を目指して、生物企業情報学科を新設することとした。

経営、情報、環境の3専門分野

生物企業情報学科では以上の様な教育・研究理念を実現するため、1学年120名(現在は170名)の学科定員の3分の1の40名を留学生とし、日本人と留学生が日常的に国際的な環境の中で勉学・研究できるような教育環境を構築した。具体的には東京農大と姉妹校の関係にある14の大学(現在は18大学)から選抜された留学生を受け入れるとともに、日本語学校などで学ぶ一般の留学生についても勉学意欲ならびに能力が高い学生を選抜して受け入れることとした。

こうして受け入れた学生を教育していくための教育科目は、「バイオビジネス経営分野」「バイオビジネス情報分野」「バイオビジネス環境分野」という3つの専門分野を形成して体系的に実施する仕組みを採用した。しかし、3分野に分けてはいるものの、教育・研究の基本は、国際バイオビジネスの分野で活躍できる総合能力の高い学生の育成にあり、国際バイオビジネス学に関わる経営学、情報処理学、経営環境学の総合的な習得が目指された。なお、生物企業情報学科から国際バイオビジネス学科への名称変更に際してもこの基本は堅持されている。

テキストも日本語と英語で

学年定員120名のうち40名を留学生とするという学科の体制は、日常的なキャンパスライフの国際化に大きく貢献した。特に日本語の習得が十分でない姉妹校からの留学生に対しては、大学における対応だけでなく、教員と日本人学生による日常的なサポートが重要である。そのため、1年生から英語が堪能な教員のゼミに留学生を配置して、これからの学科での学生生活が充実したものになるように、勉学、生活指導の両面で濃密なケアを行っている。また、日本語能力の向上については、日本語担当の教員による濃密な指導が実施され、ほとんどの留学生が卒業までには日本語1級の検定試験に合格している。

一般の授業においても、テクニカルタームなどについては、日本語と英語の両方でテキストや板書で併記したり、英語と日本語の対訳テキストを配布したりして、留学生が授業についてこられるようにしている。なお、試験問題などについては、日本語と英語で問題を作成するとともに、英語で回答することも可としている。

勉学面でのこうした学科の努力の効果は大きく、姉妹校からの留学生の多くが特待生や優秀卒業論文に関する賞を受賞している。また、こうした留学生の頑張りが他の留学生、さらには日本人学生に与える影響は大きく、学科全体の勉学意欲の向上に貢献している。

さらに、日常的な国際交流の実践は、2年生の必修科目である「バイオビジネス実地研修」に大きな影響を与え、フィリピン、南米、オーストラリアなどで実地研修を希望する日本人学生の増加となって現れている。こうした海外での実地研修は、海外の農業、文化、食生活、価値観に実際に触れるだけでなく、外国人とのコミュニケーションの仕方、日本及び日本人を外から客観的に見ることができるという点でも、国際人への第一歩として重要な機会を学生に提供している。

さらに、ゼミ単位で実施している英語でのレポートや卒論論文の発表、留学生と一緒のゼミ研修旅行など日常的な国際交流が留学生、日本人の相互理解に果たしている役割はきわめて大きい。

学科名変更の理由

平成17年の4月より生物企業情報学科は、国際バイオビジネス学科へと名称変更を行った。この名称変更を実施した理由は、次のように整理することができる。

1)真の国際学科であるにも関わらず旧名称ではそれが受験生に良く伝わらなかった
2)バイオビジネスを学ぶ学科、すなわち総合能力が高いバイオビジネスの専門家を育成する学科であることが旧名称から伝わらなかった
3)時代は、総合性だけでなく高度な専門性を備えた総合能力が高い学生を求めるように変化している
4)夜間主の学生の多くが国際的な雰囲気の中で勉強できる昼間主の授業を履修するとともに、夜間主の受験生が年々減少してきている

こうした問題点を克服して、より時代のニーズに対応できるようにするため、2年の年月をかけて生物企業情報学科から国際バイオビジネス学科への名称変更を実施した。この名称変更に伴い、学科教育の体制も次の3つの点で大きな変更を行った。

第1の変更点は、2年生からは「経営・マーケティングコース」「経営情報コース」「資源環境ビジネスコース」の3つの専門コースの中から希望に従って1つのコースを選択して、より専門性の高い知識や経営技術を習得できるようにした。第2の変更点は、学生のライフスタイルがアルバイト、部活などにより多様化している状況を反映するため、学科共通の必修科目など重要な科目については、昼と夜に2回開講して学生の多様な履修ニーズに対応できるフレックス制度を採用した点である。第3の変更点は、講義だけでなく演習を重視し、国際バイオビジネス学科の学生にふさわしい技術の習得と社会経験を積ませて、卒業後は即戦力として実社会で活躍できる人材の育成を目指している点である。

真の国際学科を目指して

今後の国際バイオビジネス学科の発展方向は、大きく4つに整理することができる。

第1は卒業生を含めて世界のバイオビジネス経営者、専門家のネットワークの形成である。現在、第4期生まで約680人の卒業生が実社会に旅立ち、バイオビジネスの各分野で活躍している。留学生では大学院進学者も多いが、日本及び母国で活躍している卒業生も多い。こうした卒業生のネットワークを構築し、世界のバイオビジネス情報の受発信センターとして国際バイオビジネス学科の発展を目指していく。

第2は新設間もない学科であるが、幸いにも学生の就職率は非常に良好である。しかし、留学生の就職については中国、韓国を除いてそのマーケットは狭い。今後は、様々な国々の留学生の就職先確保に力を入れていく予定である。

第3は優秀な留学生を集めるためには奨学金、教育、そして就職の充実が不可欠である。学内奨学金の充実を図るとともに、学外で公募される奨学金への積極的な応募、就職支援の強化などの対策を展開する計画である。

4は、日本人と留学生の交流促進である。学科開設後8年目を迎え、各国の留学生にも大学院や上級生にそれぞれ先輩がいるため、日本人と積極的に交流しなくても日本での生活や勉学に支障をきたさなくなっている。そのため、最近は日本人と留学生との交流が以前より少なくなり、それぞれの国同士でかたまってしまうという弊害が生まれてきている。これについては、ゼミ活動の充実を基本に、留学生と日本人、国が異なる留学生同士の交流が深まるように対応していく計画である。

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