「多摩川源流大学」が開校

山梨県・小菅キャンパス
地域再生、「学・産・官・民」で

東京農業大学地域環境科学部教授 宮林茂幸

多摩川の源流、山梨県小菅村に5月20日、「多摩川源流大学」小菅キャンパスが開校した。東京農業大学による地域再生プロジェクトの期待を担って、キャンパスとして活用されるのは、旧・小菅小学校白沢分校。源流大学長に就く大澤貫寿・東京農大学長、同副学長の広瀬文夫・小菅村長をはじめ、村民や関係者など約100名が参加して、晴れの開校を祝った。

小菅村には、全長138q、山梨、東京、神奈川県を流れる多摩川の最初の一滴がおちる「水干」がある。村の総面積5,265haの9割が森林で覆われ、その約半分が東京都の水源林となっており、まさに源流の村である。

東京都の水瓶・大河内ダム建設で、最盛期には人口3,000人を超すにぎわいを見せた村は現在、人口1,000人弱、高齢化比率33%で、全国でも有数の少子高齢化が進む。源流の優れた自然環境や生活文化を目当てに観光客は約10万人、これが主な産業といえる。わさび、そば、こんにゃく、ヤマメ、山菜など特産品も少なくないが、零細規模で、秩父山系の急峻な地形であるが故に、生産高は脆弱である。また、行政改革の一環としての市町村合併でも方向が定まらず、下流域との交流を前提とする「源流の村」宣言をしているものの、極めて多難な時代を迎えている。それだけに、源流大学に寄せる村の期待は大きい。

源流大学とは、源流域の自然資源や文化を学生達が体験する実践教育を進めるとともに、大学と源流域の知恵を融合することによって、過疎化や少子高齢化に悩む源流域を再生するというプロジェクトである。東京農大による「多摩川源流域における地域再生と農環境教育―多摩川源流大学の設置による地域再生プロジェクト―」が、平成18年度文部科学省の「現代的教育ニーズ取組支援プログラム」(現代GP)に採択された。

キャンパスとして、8年前に休校となった旧・小菅小学校白沢分校の校舎が、源流の木材(間伐材)を利用してリニューアルされた。スギやヒノキの香りが心地よいキャンパスでの開校式で、大澤学長は「農大には実学主義による豊かな頭脳と蓄積がある。源流大学の体験学習は、さらに知恵として進化させる有効な機会である。源流域との信頼ある関係を持続させながら、豊かな自然と文化を持続的に発展させてゆくモデルとなる可能性に期待する」と述べた。

また、広瀬村長は、村の窮状を説明するとともに「村と大学、村民と学生が一体となった新たな地域社会が創造される。村の将来にグレーな気分であったところへ、一天の光が差し込んできた思いである」と歓迎した。開校式に訪れた村民たちも「子どもたちや学生たちによって、にぎやかで活気のある村が再現してほしい」「農林業のことで何かわからないことや新たにやってみたいことは、先ず源流大学に相談してみる」などと話していた。

開会式には、国土交通省、山梨県、東京電力の担当者も出席した。このプロジェクトには多くの民間企業が注目しており、環境貢献など企業の社会的貢献(CSR)として参画しようとするところも少なくないようだ。今後、中・下流域の大学や企業あるいは多様な団体にも声をかけて源流大学コンソーシアムを形成し、学・産・官・民が一体となった21世紀型の新たな人材育成の場として、また、地域づくりのモデルとして大きく発展をめざすことになる。

源流大学の今年度の授業計画としては、森林体験コース、農業体験コース、源流景観体験コース、源流文化体験コースの4コースが開講予定。また、東京農大ではエクステンションセンターの公開講座や特別講義のほか、森林総合科学科、造園科学科、生産環境工学科、バイオセラピー学科などの実習を進めることとなっている。

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