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東京農業大学短期大学部 環境緑地学科  講師 (緑地計画学研究室)

入江彰昭(いりえ てるあき)

主な研究テーマ:「ヒートアイランドの緩和に効果的な都市緑地計画」

主な著書:「みんなのための公園づくり」(共著)東京農大出版会

都市緑地の計画は、都市の発達に従い拡大した環境問題に順次対処してきた。筆者は、緑地の効果論的立場を背景にヒートアイランドの防止に資する緑地の配置計画についての研究に取り組んでいる。本稿を通して、こうしたヒートアイランドの緩和に向けての都市緑地計画の意義を理解していただけたら幸いである。

100年間で2−3度上昇

本稿のキーワードでもあるヒートアイランドも、すでに19世紀の中頃にはヨーロッパや北米の大都市で報告されており、日本でも1930年代に東京都心部で報告され、東京、名古屋などの都市では平均気温が20世紀の100年間で2〜3℃上昇し、年間の熱帯夜の日数が1970年からの30年で倍以上になっている。

こうした現象指摘の一方で、ヒートアイランドの緩和に樹林地や農地、公園などのオープンスペースが効果的であるという研究報告が次々とあらわれた。緑地の構成要素である植物は水分の蒸散作用等を繰り返し気化熱が奪われ低温化するからである。このような機能から都市地域のヒートアイランドを緩和するクールアイランドの可能性が緑地には期待されている。

待たれる都市計画の対応

ヒートアイランドの防止に資する緑地の配置計画を考えることは、都市計画上極めて重要なことだと言われている。

今日ほどヒートアイランドに対する都市計画的対応が待たれているときはない。ヒートアイランドの防止については、2002年の政府の経済規制改革会議での閣議決定を経て2004年にヒートアイランド対策関係府省連絡会議でヒートアイランド対策大綱が決定された。

また都市緑地法に基づく法定計画である「緑の基本計画」でもしばしば対応が検討されている。ところが都市計画の実際においてヒートアイランド現象の緩和に向けて、どれだけの量の緑地をどのような形態で配置すべきかを相対させた計画論は未確立の状況である。

広域的な環境情報を解析

筆者はこれまで、広域的な都市環境情報の解析に有効なランドサットTMデータや現地気象データを用いて、ヒートアイランドの緩和に有効な緑地形態、すなわち種類、規模、分布形状について明らかにしてきた。

これまでの筆者らの研究により緑地によるヒートアイランドの緩和の観点から都市緑地計画を考えると、地域的特性があるものの以下のようなことがいえる。

・新鮮な空気の風の流れを形成する斜面樹林、水田、河川水面の保全、創出。

・風の通り道となる都市河川周辺の緑地の整備。

・複合的植栽、大径木による道路緑化の推進。

・緑地規模として幅員100<CODE NUM=0116>、面積1<CODE NUM=04D4>程度の確保。

・緑地分布として複数分布形状による緑のネットワーク化の推進。

都市緑地計画の評価手法の開発

これらの知見を生かし、ランドサットTMデータを用いて、ヒートアイランドを緩和する観点から都市の緑地計画を比較検討し、評価する手法の開発を試みてきた。ランドサットを用いることにより、比較的容易に対象とする広範な地域の土地利用の変化に対応したヒートアイランドの緩和効果を、相対的に比較評価することが可能であると想定したからである。

@土地被覆から地表面温度の推定

図1(表紙裏)、図2は、ランドサットTMデータ(1997.8.4)による東京圏の現況土地被覆図、地表面温度分布図である。

土地被覆から地表面温度の推定するために、地表面温度と緑地との関係解析をした結果、水面率、樹林地率、草地率、水田率、畑地率と標高及び傾斜角を説明変数として地表面温度推定式を求めると次式のようになり、高い相関を得ることが出来た。図3はこの推定式により作成した地表面温度推定図である。
 Stemp=−0.1467×W−0.0876×Fo−0.0570×
     −0.1234×P−0.0458×Fi−0.0032×AL
     −0.0965×SL+142.086
 R2=0.8572 有意水準1%以下
Stemp:地表面温度カウント値、W:水面率、Fo:樹林地率、G:草地率、P:水田率、Fi:畑地率、AL:標高、SL:傾斜角
A日最低気温による緑地計画の評価

次に地表面温度の変化がヒートアイランドの予測変化であることを証明するために、当該都市地域における数箇所の気象観測データを入手し、観測された最低気温とランドサットTMデータの地表面温度、緑地形態、標高、都心からの距離との関係を解析し、その重相関を検討し最低気温推定式を得て、それを用いて最低気温推定図の作成を試みた。この推定式を用いて作成した最低気温の推定図が図4(表紙裏)である。
 T<CODE NUM=04E0>=0.0524×ST−0.0038×AL−0.00004×Dis
          −0.0228×W−0.0023×Fo−0.0235×G−0.0457
          ×P−0.0083×Fi+19.2389
 R2=0.9119 有意水準1%以下
 T<CODE NUM=04E0>:最低気温、ST:地表面温度カウント値、AL:標高、Dis:都心からの距離、W:水面率、Fo:樹林地率 、G:草地率、P:水田率、Fi:畑地率

すなわちこの推定式を用いることによって緑地計画によって土地被覆が変わった場合の最低気温の変化を予測することが可能であることを示している。

アジアモンスーン地域も対象に

以上の結果からランドサットTMデータをベースとしたヒートアイランドの緩和に資する緑地計画の評価手法をフロー図で示すと図5のようになる。

今後の展開としては、最高気温による緑地計画の評価手法を開発し、大規模な都市開発により都市環境問題が著しいアジアモンスーン地域の諸都市の中には、地図データの入手が困難な地域もある。ここに広域的に都市地域環境の把握が可能な衛星データを利用する意義があり、今後これらの地域を対象に研究を進めたいと考えている。

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