Web2.0の発達とビジネス

独自の「持ち味」が決め手に

 

東京情報大学総合情報学部 講師
樋口 大輔(ひぐち だいすけ)

1974年神奈川県生まれ。早稲田大学大学院商学研究科博士後期課程(単位取得)。 東京情報大学総合情報学部情報ビジネス学科(企業情報研究室)講師。

主な研究テーマ:ネット・ビジネスやクレジット・ビジネスにおける経営戦略の実証的研究。

主な著書:わが国における開業率の要因分析に関する調査研究(共著)恍小企業総合研究機構、21世紀の消費者信用市場(共訳)東洋経済新報社。

Web2.0(ウェブ2.0)は、新サービスの形態やそれを実現している要素技術の総称であり、厳密な定義を持つわけではない。

いわゆる「Web1.0」時代においても、企業はホームページを立ち上げるなどしてネットを積極的に利用してきた。しかしそれは、サービスの提供者側から一方的に情報を発信することに主眼が置かれたものであった。それに対し、利用者側からの情報発信が可能になるなどの進化が見られている。これを「2.0」と言い表しているのである。

Web2.0型のビジネス

利用者同士を結びつけるビジネスや、双方向コミュニケーションにより顧客との関係を深める企業ブログなど、さまざまな分野においてWeb2.0型のビジネスやサービスが始まっている。

具体的には、ブログ、RSS、SEM・SEO、WebCMS、アクセス解析、ウェブ広告、モバイルマーケティングといった、ウェブやモバイルを活用したマーケティングツール・サービスを挙げることができる。ブログやSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)の普及により、ユーザーを巻き込んだマーケティング手法が生み出されたほか、SEO(サーチエンジン最適化)やアフィリエイトなども費用対効果が把握しやすいマーケティング手法として多くの企業に取り入れられている。

Web2.0を活用する多くの企業が出現し、一定の成功を収めてきた。その中でも化粧品サイトは、最も成功しているジャンルの一つである。@COSME、ビエナなど、複数のメーカーの化粧品を紹介するサイトのほか、資生堂、コーセーといった国内のメーカーや、ランコムなどの外資系メーカーが自社商品を紹介するサイトを立ち上げている。

化粧品サイトの成功例

化粧品サイトの中では、潟Aイスタイルの運営する「@COSME」(http://www.cosme.net)が、いわゆる「クチコミ掲示板」で最も成功を収めているサイトである。同サイトの主要なサービスは、化粧品やコスメ類のクチコミ情報や商品情報を利用者同士が自由に交換できることにある。1万1500ブランド、10万6000点の商品データベースを保持しているとされ、2007年5月末時点で、480万件以上のクチコミ情報が登録されている。

利用者は、自分の興味のある商品を探し、その商品に対する他の利用者の声を読む。年齢や肌の質など、自分と同じ要素を持っている他の利用者の評価を参考に、その商品の購買を決定する。利用者は主に20代から30代までの若い女性である。

時代のキーワードを抽出

Web2.0的なサービスの別の利用方法もある。鰍ォざしカンパニーは、「兆し」(http://kizasi.jp)を運営している。このサイトではネット上のブログを解析し、出現頻度の高い単語と、同時に使われている単語をリストアップしている。

統計の元となるブログのエントリ件数は9000万件を超え、これらのエントリから同社独自の技術によってキーワードを抽出しているのである。これによって、ブログ上で現在どのような言葉が、どのような言葉と関連しあって使われているのかを瞬時に把握することができる。

膨大な広告費が収益源に

これらの企業がサイト上で提供する基本的なサービスは無料であることが多く、一見、どこから収益をあげているのかわかりづらい。一般的に、この主のビジネスの収益源は、@広告、Aテキスト分析によるコンサルティング・サービス、B内容を充実させた有償サービス、Cサイトを通した販売が柱となっている。

特に広告費は、このような形態のビジネスを支える大きな柱である。電通が本年2月20日発表した2006年における日本の広告費調査によると、広告費の総額は5兆9954億円。マスコミ4媒体(新聞、雑誌、ラジオ、テレビ)が2年連続で前年割れとなった一方、約30%増加したネットが、ラジオの2倍以上の額に達した。内訳をみていくと、新聞9986億円(▲3.8%)、雑誌3887億円(▲1.5%)、ラジオ1744億円(▲1.9%)、テレビ2兆161億円(▲1.2%)、ネット3630億円(29.3%)である。膨大な広告費がネットへと流れ込んできた。

さらに、テキスト分析によるサービスは、今後の成長の可能性が極めて高いビジネスとして注目度が高い。きざしカンパニーは、テキスト分析により、@キャンペーンやプロモーションの効果測定、Aブランド、商品に関する消費者の全体的な声の把握、B商品のポジティブ・ネガティブ調査とイメージ調査、C競合との比較調査、D認知度調査、E新企画・新事業の戦略の発見を手伝う調査を、企業に提供するビジネスからも収益をあげる。つまり、従来は主にアンケート調査を用いて得ていた情報を、無数のブログから抽出しようというのである。

経営資源や能力に4条件

Web2.0時代になり、ウェブは間違いなく今まで以上に重要なビジネスツールとなっている。しかし一方で、Web2.0がビジネスのあり方を変えるということと、企業価値を高めるということはまったく別の問題であるとの指摘も見られ、企業の競争力とWeb2.0との関係はきちんと議論されなければならない。

経営資源や能力が競争力を持つためには、その資源や能力が次の4つの条件を満たす必要がある。

 @需要性:企業が外部環境における機会を活かせるか、脅威を低減できること

 A希少性:現在のもしくは潜在的な競争相手のほとんどが保有していないこと

 B模倣困難性:他社が獲得できないか、できたとしても非常に高いコストがかかること

 C粘着性:その資源や能力が自社に結びついたものであり、外部に流出が困難であること

Web2.0をこの条件に照らし合わせてみると、Web2.0を経営資源の一つとして利用する企業にとって、Web2.0そのものが企業の競争力に貢献する度合いは低いと評価せざるを得ない。どのような企業に対しても公開されている技術という意味で希少性は乏しいし、安価に提供されているゆえにライバル企業が模倣することも容易である。実際、Googleが提供する技術の一部は無償であり誰にでも利用できる。

付加価値が問われる

それでは、@COSMEや「兆し」を運営する企業の競争力とは、どこに求めるべきか。@COSMEは、Web2.0の仕組みを活用して収集した、膨大なクチコミ情報に競争力の源泉があるといえ、その件数と質は他社が容易に追随することができない。また、きざしカンパニーは、コンサルティング・サービスの下支えとなる、ブログから効率的に的確なキーワードを抽出するテキスト分析技術に競争力があると考えることができる。いずれも、Web2.0を、独自の能力によって活用しようとしている部分にこそ競争力があるのだ。Web2.0がなければ実現しなかったビジネスではあるが、独自の「持ち味」を加えるところに企業の競争力の源がある。

ウェブの発達は、消費者の行動をさまざまな側面で変化させてきており、その変化に対応するビジネスモデルが今後も次々と出現する可能性が高い。しかし、企業の競争力の源泉が付加価値にあることは、Web2.0時代においても変わらない。

 

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