東アジアの持続的発展に資する

東京情報大学学術フロンティア第二期
陸圏・水圏を統合した環境情報システムの研究

東京情報大学 総合情報学部環境情報学科 教授(地理情報システム研究室)
同大学院総合情報学研究科委員長
原 慶太郎(はら けいたろう)
主な研究テーマ:「GIS(地理情報システム)とリモートセンシングを用いた環境保全の研究」
著書:「景相生態学−ランドスケープエコロジー入門」共著朝倉書店、「田園景観の保全」共訳農文協

文科省の学術フロンティア推進事業に採択された東京情報大学の「アジアの環境と情報に関する総合研究」は、新たに「東アジアにおける陸圏・水圏を統合した環境情報システムの研究」というテーマのもとで、第二期プロジェクトが開始された。東アジアの環境を陸圏と水圏を統合して把握し、この地域の持続的発展に資する環境情報システムの在り方を研究する。第一期の研究成果を踏まえて第二期の研究構想を報告する。

東アジアの研究機関が協力

この総合研究は2004年度で第一期5か年の研究が終了し、2005年9月に継続申請が認可された。第一期のプロジェクトでは、米国NASAの衛星Terra(EOS―AM1)に搭載されたMODISデータを2000年11月にアジアで最初に定常受信し、これまでの衛星データでは捉えることが困難であった中国大陸からの黄砂の飛散状況やオホーツク海の流氷漂流の状況などを明らかにするとともに、衛星データをもとにした自然環境の解析や環境情報システムに関する成果をあげることができた。

第2期では、TerraとともにAquaに搭載されているMODISデータの受信とその応用に照準を絞る。また、東京農業大学をはじめとする国内外の研究機関(モンゴル農業大学、中国華東師範大学、中国科学院、中国気象局、青島海洋大学、韓国海洋研究所)との国際共同として進められる。とくに、平成18年度から新設される東京農業大学のアクアバイオ学科のメンバーにも参画いただき、陸圏と水圏と統合した研究に発展することにした。

オホーツク海の流氷も鮮明に

東京情報大学で定常受信が続けられているMODISデータは、これまで約5年間にわたるデータが蓄積されている。これによって、東アジアの陸圏と水圏に関する様々な環境の経時的な解析が可能になる。オホーツク海の流氷の動態は、MODISデータによって非常に鮮明に示され、その挙動と年変動が明らかになった。

この流氷はアムール川河口域で発生することが知られており、大陸から流出される大量のミネラルを含んだ氷塊が成長し、オホーツク海を南下し北海道沿岸まで漂着する。流氷が解けた後の置きみやげとなる大量のミネラルは植物プランクトンの発生を促し、動物プランクトン、そして魚類の生産につながる。また、東シナ海では長江流域の農業生産によって大量に消費される化学肥料が、上流域からの大量の土砂と一緒に海域に流出する、といった現象が指摘されている。

3つの研究課題

このような問題の解明には、陸圏と水圏を統合した解析が不可欠となるが、今期の研究プロジェクトでは、3つの研究課題を設定して研究にあたることにした。

@東アジアの環境変動長期モニタリング手法の開発

MODIS衛星観測データによる東アジアの環境変動の長期的モニタリングのための手法開発、災害や水域の富栄化や赤潮などの変動現象を自動的に検出、モニターする手法を確立し、その成果をWebGISで高次情報として発信する。

A 現地検証

代表的なフィールドとしてオホーツク海域、半乾燥植生地域(モンゴル)、東シナ海及び沿岸域(長江流域)を取りあげ、異なるセンサの衛星データを用いて、時空間のマルチスケールでの現象把握・モニタリング手法を開発する。

B モデリング

衛星データ及び地上調査によって得られた各種データに基づき、土地利用変化や各種経済活動等をGISにより空間情報データベース化するとともに、マルチエージェント等の手法によりモデル化を図り、今後の予測や変動現象の統計的抽出、及び持続的な環境利用の理論的な枠組みを構築する。また、小型コンピュータの並列処理モデルを導入し、MODISデータの高速処理化を図る。

異常現象を短時間で抽出

MODISデータを定常的に受信、解析しアーカイブしていくシステム運用は、研究を支える大きな部門である。NASAではTerraとAquaの観測衛星に続いて、NPOESSという観測システムを構想しており、継続して受信できるように対応するとともに、これまで整備されてきたデータをもとに、森林火災などの災害を自動的に検出するシステム構築が重要な課題のひとつである。これには膨大な経時的な環境データから、計算機統計学等の手法で異常現象を可能な限り短時間で的確に抽出するアルゴリズムの開発研究が重要になる。

現地検証では、MODISデータをはじめとする異なったセンサの衛星データと現地調査をとおして各地域の環境問題の解明にあたるとともに、研究チーム間相互の連携を図り、モンゴル−<アムール川>−オホーツク海、そして中国南部−<長江>−東シナ海、という陸圏と水圏を統合した理解をめざす。

これまでも受信したMODISデータはWebを介して全世界に公開し、リモートセンシング研究者に利用されてきた。今後、さらに広範な利用を図ってもらうために、研究成果をGISによって統合的に整理し、WebGISのかたちで公開していくのも大きなミッションである。すでに東アジア地区の地表面温度、海表面温度、植生指数(NDVI)に関しては、WebGISから利用できるように公開しているが、これを継続するとともに、研究に必要な新たなデータの整備、公開が課題である。環境問題は、研究者や行政関係者だけが情報をもっているだけでは本質的な解決にはつながらない。住民を含むステークフォルダー(利害関係者)が情報を共有できるようにするために積極的な公開を図っていく。

専門「知」を総合「知」に

第二期プロジェクトは3年間という限られた期間の研究となるが、これまでの成果を積極的に活用することで、目にみえる研究成果をあげるようにしなければならない。環境の問題は、それぞれの研究分野における専門の立場からの知見(専門「知」)を、議論を重ねることで総合していく(総合「知」とする)ことではじめて問題解明につながる。学術フロンティアプロジェクトは、東京情報大学の大学院総合情報学研究科として取り組む事業である。

東アジアの環境問題を対象として、情報大学内の研究者同士、東京情報大学と東京農業大学、そして海外の研究機関との連携をとおして、それぞれの専門「知」を総合「知」に高めることができるかどうかが、今期プロジェクトの目的達成のための大きな鍵になるように考える。とくに東京農業大学との研究連携はプロジェクトの大きな柱となる。関係各位のより一層のご理解とご協力、ご支援をお願いしたい。そしてこの研究が、東アジアの持続的発展につながることを期待したい。

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