【国際社会とともに】 海外18の姉妹校と学生交流

東京農大の多彩な国際教育・研究

東京農業大学 国際食料情報学部国際バイオビジネス学科 教授 (バイオビジネス環境学研究室)

東京農業大学国際交流センター長

藤本彰三(ふじもと あきみ)

国際社会とともに

国際社会との共生をめざす東京農業大学の基本姿勢は、その淵源を創始者・榎本武揚の「殖民思想」にたどると言えるかもしれない。戦前の「拓殖教育」は、国家主導の暗い影を背負ったが、戦後の再出発で、多くの校友がブラジルなどに渡り、今も学生の海外実習などが盛んに行われている。そうした国際教育・研究の多彩な取り組みを共通テーマ「国際社会とともに」の基で、随時報告する。

本学の国際教育は主として、現在18大学を数える海外姉妹校との連携の下で実施されている。本学が、姉妹校ミシガン州立大学へ最初の長期留学生(1年間)を派遣したのは1966年のことであった。3年次まで終了した学生から成績優秀者を選抜し、奨学金を与えてアメリカへ派遣した。彼らは帰国後4年次を履修したので、卒業まで合計5年を費やしていたが、留学効果は絶大であった。毎年3名ずつ派遣してきたので、アメリカへの留学生総数は120名以上に達している。

本学の姉妹校は長い間、ミシガン州立大学1校に限定され、留学制度も同大学を対象としていた。しかし、平成元年(1989年)に国際交流センターを設置した前後から、本学は新たな国際戦略を展開し国際教育研究の充実を図ってきている。1988年にタイ・カセサート大学と中国・北京農業大学(現 中国農業大学)と姉妹校協定に調印して以降、東アジア、南北アメリカ、ヨーロッパを中心に国際教育研究の地理的範囲を拡大してきた。いうまでもなく、今日では長期留学制度は全姉妹校へ拡大されている。

連携は1国1大学主義で

現在、本学の姉妹校は次の18大学である。

本学の姉妹校戦略は1国1大学主義を原則としている。限られた資源を有効に活用するためには、名目だけの協力関係や安易な交流には入らないようにしている。当該国を代表する農学系大学と協力して、双方の学生に有益と考えられる、次に述べるような国際教育プログラムを実施している。

学生交換プログラム

姉妹校とは2タイプの学生交換プログラムを実施している。第1は、長期留学制度である。本学からの派遣は後学期から翌年前学期までの1年未満としているので、3年次に渡航すれば帰国後4年次に復学し、合計4年間で卒業できる仕組みになっている。本学は授業料を免除し奨学金として往復航空券を支給するなど経済的支援を行っている。毎年5〜6大学へ10〜15名が派遣されている。

受入れに関しては、これまでも、姉妹校から1年間の留学生受入れ要請が繰返しなされていたが、実は日本語とコストが懸案事項で長らく実現しなかった。しかし、本学は、2002年度に「英語による専門教育プログラム(15科目30単位)」を設置しただけでなく、2003年度に「留学生受入規定」を定めて、英語で専門科目を履修できる制度を立ち上げ、さらに学生寮への入寮、科目履修費の減免など経済的支援を可能にした。この成果があって、これまで派遣に偏っていた長期学生交換プログラムに受入れという重要な側面が加えられたのである。2005年度にはカナダ、メキシコ、モンゴル、韓国の姉妹校から合計7名の長期留学生を受入れ、新たにフランスなどからの受入れ準備も進めている。

第2は、短期実習・研修に関するプログラムである。これは約1カ月間にわたって15〜20名の学生グループを派遣・受入れる制度であり、教職員が引率するためか、とくに女子学生の参加が多い。現在、派遣先はカナダ・ブリテッシュコロンビア大学、メキシコ・チャピンゴ自治大学、中国・中国農業大学、台湾・国立中興大学、タイ・カセサート大学、フランス・ボーベ高等農業グランデコールの6大学で、8〜9月の夏休み中に集中的に実施している。また、カナダ・ブリテッシュコロンビア大学へは春休み中に2か月に及ぶ英語研修・ホームステイプログラムもある。本学が派遣する短期実習・研修プログラムは各国の姉妹校を受入れ機関とし、学生寮などに宿泊しつつ、講義、実習、視察を組合せ、それぞれの地域における農業・食料・環境の現状を学習する内容となっている。学生交流も重要な要素で、各大学では学生同士の相互理解と友情の深化を可能にするプログラムも用意している。

姉妹校から800人受け入れ

一方、本学も15〜20名からなる実習団を3〜4つの姉妹校から受入れている。現在、中国・中国農業大学、台湾・国立中興大学、タイ・カセサート大学、アメリカ・ミシガン州立大学、オランダ・ワヘニンゲン大学から毎年あるいは隔年で3週間〜1カ月来日し、本学の農場、食品加工技術センター、研究室などの施設を利用して勉学している。

このような短期実習・研修プログラムは、前述の国際交流センターが設置された時に中国とタイを対象に開始されたものであるが、その後徐々に対象大学を拡大してきた。すでに17年目に入っており、この間、1,000名以上の学生を本学から派遣し、約700名の姉妹校学生を受入れてきた。引率教員数を入れると、受入れ人数は800人を越える。短期実習で経験した国・大学へ本学卒業後に留学したケースや、逆に本学大学院へ留学してくるケースなどもあり、短期交換とはいうものの、その教育効果は永年にわたっている。留学につながらなくても、実習中に培った友情を温め、卒業後も付合いを深めるケースも多く、明らかに国際親善に貢献するだけでなく、学生たちの国際感覚の養成や国際活動への布石となっている。

海外農業実習の伝統

なお、姉妹校との学生交換ではないが、本学は長期の海外農業実習を重視していることを明記しておく。もともと1956年に設置された農業拓殖学科(現、国際農業開発学科)では、海外移住を目指した学生達が1〜2年の農業実習をアメリカやブラジルで実施していた。その後、移住希望者が減少する一方、長期実習を希望する学生が他の学科にも存在することに対応して、海外農業実習は全学プログラムと変質し、国際交流センターの管轄となった。現在、アメリカの国際農民支援会(IFFA)との協定に基づいて、5〜10名の学生を1年間にわたって農業実習に派遣している。他に、南米諸国やオーストラリアなど13カ国において、本学卒業生や関係者23名を「海外実習指導者」に委嘱し、本学学生が長期実習を希望する場合の受入れ体制を整えてある。毎年、10名前後の学生がこの制度を活用して世界各地で滞在型の実習・研修を行っている。

本学校友会は10カ国に海外支部を擁すなど、本学の多くの卒業生が海外で活躍している。幸いなことに、卒業生の多くは後輩である現役学生の指導に協力的である。このような校友の好意に依存した実習教育を継続実施する一方、近年では姉妹校との連携プログラムを充実させ、引率教職員の研修、国際親善、学術的指導などの側面も加味した新たな国際展開を進めているのである。

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