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カニ殻は宝の山

エビ殻も宝の山

中西 載慶 教授東京農業大学短期大学部 醸造学科 教授 

東京農業大学前副学長。醸造学科食品微生物学研究室。応用酵素学、バイオプロセス学。

東京農業大学第一高等学校・中等部校長。

中西 載慶(なかにし ことよし)

主な共著:

『インターネットが教える日本人の食卓』東京農大出版会、『食品製造』・『微生物基礎』実教出版など

エビやカニは、民族を問わず世界中で最も好まれる食材の一つですが、その殻は、これまで廃棄されていました。ところが、その殻にキチンという利用価値の高い物質が含まれていることがわかり、廃棄物が宝の山と代わったのです。そこで、新年度のスタートは、キチンとキトサンの話です。キチンは、1811年に、植物学者のが、初めてキノコから分離し、1823年には、も昆虫の外皮から同様の物質を分離して、ギリシャ語の鎧や包むものを意味するキトンという言葉にちなんでキチンと命名しました。キチンは、エビやカニなどの甲殻類、イカやタコなどの頭足類、貝類、昆虫類さらには微生物など多くの生物に含まれています。キチンは、生物が自らの身を守るために組織や細胞の構造を強く硬く維持するために必要なもので、植物体におけるセルロースや高等動物におけるコラーゲンなどと同様な役目をしています。キチンは、地球上ではセルロースに次いで2番目に多い多糖類で、生物による年間生産量は数百億トンとも数千億トンとも推定されています。それゆえ、生物資源として極めて有望な物質です。ちなみに、キチンとセルロースの化学構造や性質が類似していることは進化論的にも興味のあるところです。

キチンは、N-アセチルグルコサミンとよぶ物質が数千個〜数万個つながった構造をしています。このキチンをアルカリ溶液で化学処理するとキトサンが得られます。キトサンは、キチンのN-アセチルグルコサミンの構造の一部が変化してグルコサミンという物質に変わったものです。サプリメントや健康食品などで、最近よく目にするN-アセチルグルコサミンやグルコサミンは、このキチンやキトサンを分解したものです。現在、キチンは、エビ殻やカニ殻から工業的に生産されていますが、需要の増加に伴い、微生物による生産法の研究も進められています。キチン・キトサンの用途は、医薬品、化粧品、繊維、食品、医用材料、農業、環境など、多岐にわたっています。それらの説明は、次号以降順次ということに。

ところで、エビやカニは、茹でると生きているときの色とは異なり、鮮やかな赤色に変わります。この不思議な現象は、アスタキサンチンとよぶ赤色色素に由来しています。この色素は、生きているエビやカニの殻中ではタンパク質と結合していて、褐色や黒っぽい色をしています。しかし、熱湯で茹でると、このタンパク質が熱変性してアスタキサンチンが遊離します。その結果、アスタキサンチンが本来の赤色を示すことになり、エビやカニが鮮やかな赤色になるというわけです。なお、茹で上がり後、時間が経つと赤色が少しくすんできます。それは、アスタキサンチンが空気中の酸素により酸化されアスタシンに変わるからです。

エビやカニは脱皮を繰り返し成長します。人間はそうはいきませんが、一皮剥けて○○になったなどともいいますから、ある意味いろいろ脱皮しながら成長しているのかも…。寅年の新年です。今年も騎虎の勢いで、このシリーズを続けます。次号につづく。

 

謹賀新年 今年もよろしく。

 

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