神経細胞とミネラル

神経毒は怖い

中西 載慶 教授東京農業大学短期大学部 醸造学科 教授 

東京農業大学前副学長。醸造学科食品微生物学研究室。応用酵素学、バイオプロセス学。

東京農業大学第一高等学校・中等部校長。

中西 載慶(なかにし ことよし)

主な共著:

『インターネットが教える日本人の食卓』東京農大出版会、『食品製造』・『微生物基礎』実教出版など

我々の生命活動は、自分の意思とは無関係に働いている自律神経や意思に反映して働く運動神経などによりコントロールされています。自律神経には、交感神経と副交感神経があり、交感神経は、心臓をはじめ種々の内臓や血管、皮膚などの働きをコントロールし、緊張や興奮、ストレスなどに対応しています。一方、副交感神経は、それとは全く逆に、心身の活動をリラックスさせるよう働き、同時に体の機能回復や修復の役目も果たしています。この2つの神経は、丁度シーソーが上がったり下がったりするように規則的に交互にリズムよく活動していることが重要で、そのバランスが大きく崩れると、いわゆる自律神経失調症になるのです。これらの神経は、多くの神経細胞の集まりで、体が正常に働くよう細胞から細胞へと必要な情報の伝達を繰り返しているのです。実は、その細胞の情報伝達にミネラルが密接に関わっています。そこで、今回は、ちょっと難解な話題ですが、神経細胞の情報伝達の仕組みとミネラルの役割を取り上げてみました。

神経細胞は、我々の様々な活動を促す指令をどのような信号を使って細胞から細胞へと伝えているのでしょうか? 通常、細胞内はカリウムイオンが多く、細胞外はナトリウムイオンが多くなっていて、そのイオンバランスによって細胞内は電気的にマイナスの電位となっています。この時、体外からの刺激(光、熱、圧力など)が細胞に伝わると、細胞は細胞内外のナトリウムイオンとカリウムイオンを出し入れして、細胞内はプラスの電位となり僅かな電気が発生します(活動電位という)。この電気信号が細胞と細胞が接続しているシナプスとよばれる部分に達します。すると、その電気信号に基づいて、細胞内にある様々な種類の様々な働きを持つ神経伝達物質とよばれる化学物質が放出され、細胞から細胞へと受け渡されます。つまり、神経細胞は、この電気信号と化学信号(化学物質の受け渡し)の連鎖により、細胞から細胞へと必要な情報を伝達しているのです。なお、このシナプスでの神経伝達物質の受け渡しには、カルシウムイオンが重要な働きをしています。難解な細胞の情報伝達の仕組みはさておき、ミネラルの果たす役割の重要さを理解いただければと思う次第です。

ところで、フグやヘビやサソリなどは、ご存知のように強烈な毒を持っています。実は、これらの毒は、人の体内に入ると特異的に神経細胞にとりつくのです。その結果、神経細胞は、正常な電気信号が送れず、当然、必要な情報も伝達できなくなります。つまり、体や内臓器官が正常に動き、働くよう指令する神経が正常に働かないわけですから、筋肉が急激に麻痺し、体が動かなくなったり、内臓の活動に影響がでたり、心臓が停止し死に至るという事態に陥るのです。ちなみに、フグの毒は、テトロドトキシンという物質ですが、これは、フグがつくっているのではなく、海洋性細菌が生産するものです。それが海洋生物の食物連鎖を経てフグの体内に蓄積されているとのこと。フグ毒は、青酸カリの数百倍も強い猛毒です。しかし、地球上で最強の毒は、ボツリヌス菌の生産する毒素で、フグの1万倍以上も強い、恐ろしい限りです。

気がつけば師走、今年こそは、今年こそはと予定した仕事もやり残しが多く反省ばかり。性懲りも無く来年こそは、と決意して今年は終わりということに…。ご愛読に感謝。来年もよき年となりますよう祈念して、次号につづく。

 

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