温室効果と京都議定書

「お願いします、アメリカ、中国」

中西教授東京農業大学短期大学部 醸造学科 教授 (醸造学科食品微生物学研究室)

前副学長

中西 載慶

主な共著:

『インターネットが教える日本人の食卓』東京農大出版会、『食品製造』・『微生物基礎』実教出版など

 炭酸ガスは温室効果ガスの一つで、地球環境にとって深刻な問題である「地球温暖化」の要因となっています。そこで、温室効果のメカニズムについて少し説明します。地球に降り注ぐ太陽の光エネルギーは大気を素通りして地表面を加熱しますが、この地表面の熱は、今度は赤外線として大気層に向かって放射されます。この時、大気中にある炭酸ガス、メタン、亜酸化窒素などの物質、いわゆる温室効果ガスがこの熱を吸収し、その一部を再び地上に向かって放射します。その結果、大気や地表面の温度が上昇し、地球の気温が保たれているのです。つまり、温室効果ガスが、本来ならすべて宇宙空間に放出される地表面の熱の一部を地球に留めておく重要な働きをしているわけです。しかし、温室効果ガスが増えると、それに吸収される熱量も増え、当然、そのガスから地上に向かって放射される熱量も増えるので地球の気温が上昇することになるのです。この現象は、ビニールハウス(温室)では、太陽光により暖められた地表面の熱が、ビニールの覆いにより外部に拡散し難く蓄積されるため、ハウス内の気温が上昇し暖かくなるのとよく似ています。原理は異なりますが、現象が似ていることから、温室効果とか温室効果ガスと呼んでいるのです。

 様々な生物の生命活動や産業活動により排出される炭酸ガスは、海洋水に溶け込んだり、森林(植物)に吸収されたりして、本来は一定濃度が維持されています。しかし、その吸収量にも限りがあるので、過剰の炭酸ガスを排出すれば、その濃度が上昇してしまうのです。その結果、地球の温暖化が進めば、海水の膨張や氷河の融解、異常気象の頻発などで、地球の自然生態系、生活環境、農林水産業などへの悪影響は避けられない事実です。具体的には@気候変動による水不足や水害の多発A絶滅する動植物種の増加B海面の上昇による人間の居住地や動植物の生息場所の減少C伝染病危険地域の拡大D光化学スモックや水質汚濁の増加、等々、多くのことが予測されています。そのため炭酸ガスの排出削減を定めた京都議定書が先進国を中心に批准され、2008年〜2012年の5年間に、先進国および市場経済移行国全体で、少なくとも5%の削減を目標としています。ちなみに、環境白書によれば、世界中で約232億トンの炭酸ガスが排出され、国別内訳は、アメリカ(24%)、中国(15%)、ヨーロッパ(独、英、伊、仏など、13%)、ロシア(6%)、日本(5%)、インド(4%)となっています。批准国がその削減目標を達成することは勿論ですが、批准国の排出量は世界全体の30%にすぎません。今、最優先ですべきことは、アメリカと中国、さらには削減義務を負わない途上国など未批准国を引き込んで、地球規模での長期的な削減のあり方を探らなければなりません。議定書の意義と批准国の熱意は高く評価しても、実効があがらなければなんの意味もないわけですから…

 5月、端午の節句には、子供の成長を願う鯉のぼり、軒先には災難よけの菖蒲と蓬、日本には、季節ごとに先人から受け継いできた多くの行事があります。地球環境のみならず、伝統や文化、日本人の心も守り続けなければならないと、この頃とみに感じているところです。

 次号……「泡の話」につづく

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