抗酸化力ってな〜に

フードファディズム

中西教授東京農業大学短期大学部 醸造学科 教授 (醸造学科食品微生物学研究室)

前副学長

中西 載慶

主な共著:

『インターネットが教える日本人の食卓』東京農大出版会、『食品製造』・『微生物基礎』実教出版など

新たな年がスタートしましたが、このシリーズはまだ続きます。ポリフェノールの2回目は、赤ワインブームの発端ともなったポリフェノールの抗酸化機能と動脈硬化、心臓病予防との関係です。抗酸化機能とは、酸化防止機能のことで、抗酸化力(抗酸化性)が強いということは酸化防止力が強いということです。つまり、ポリフェノールはとても酸化され易い物質なので、他の物質が酸化されるのを防ぐ力が強いということです。

生命活動に必要な栄養や酸素などを含む血液は心臓から動脈とよぶ血管により体の各部分へ運ばれています。この動脈に血栓ができると、当然ポンプの役割をしている心臓にも血液が供給されなくなり、心臓に異常が生じます(場合によっては停止します)。つまり心筋梗塞です。動脈は本来ゴムホースのように弾力がありますが、動脈の内側にコレステロールなどの脂肪が沈着すると、当然、動脈の内径は狭くなり弾力性がなくなったり、血液が流れにくくなったりします。これが動脈硬化です。この狭くなった血管に血が固まる状態が血栓症です。血栓ができる要因は複雑ですが、コレステロールもその要因のひとつです。コレステロールは水に溶けませんから、血液の中では特殊なタンパク質と結合すること(リポタンパク質といいます)により血液に溶けた状態で体の各部分に運ばれています。このリポタンパク質には、低密度タイプのもの(LDL)と高密度タイプのもの(HDL)の2種類あります。血液中のLDL量が必要以上に多いと、LDLが血管に沈着しやすくなります。この沈着には悪玉活性酸素(不必要な場所で不必要に発生する活性酸素です)によるLDLの酸化が引き金になっているようです。ここで、ポリフェノールが登場します。つまりポリフェノールの強い抗酸化力が悪玉活性酸素によるLDLの酸化を妨害しますから、LDLの血管への沈着(血栓)が防止されるというものです。その結果、動脈硬化や心臓病が予防されるとのことになるのです。ちなみに、コレステロールは細胞成分として必要不可欠な重要な物質で、活性酸素も体内に侵入した細菌を殺す役目などもしていますから悪役扱いはできません。

実はここからが重要です。動脈硬化も心臓業もその発生の要因は本当に複雑で、上記の例などはそのたった一例の可能性を示した程度です。したがって、抗酸化成分たっぷりの食品や飲料を必要以上多く摂ったからといって病気予防ができるというものではありません。ポリフェノールは治療薬でも予防薬でもありません。食べ物が健康や病気に与える影響を過大に評価したり信奉することをフードファディズムといいます。メディアの攻勢で現代人は意外とフードファディズムに陥り易いようです。

様々な病気はストレスとも密接に関係しているとのこと。明るく楽しく笑いながらゆったりと暮らすことが、一番の病気予防ということです。適度のお酒はストレス解消の妙薬ですから、赤ワインの効果はポリフェノール効果よりもアルコールのリラックス効果の方が大きかったりして……

ということで、次号は赤ワインの色の秘密につづく。

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