アミノ酸はおいしい

旨い・甘い・苦い。 酸っぱい

中西教授東京農業大学短期大学部 醸造学科 教授 (醸造学科食品微生物学研究室)

前副学長

中西 載慶

主な共著:

『インターネットが教える日本人の食卓』東京農大出版会、『食品製造』・『微生物基礎』実教出版など

日本料理では、昆布やかつお節で「ダシ」をとることが基本で、ダシの旨さが料理の決め手です。ダシの旨み成分の研究は、1908年に池田菊苗博士が昆布の旨みがグルタミン酸にあることを発見したことに始まります。以来、食べ物の味とアミノ酸の関係が注目され、アミノ酸には、この旨みの他に、酸味、甘味、苦味などのあることがわかりました(以下表)。また、アミノ酸が数個つながったもの(ペプチドという)にも、アミノ酸と同様種々な味のあることもわかってきました。従って、食べ物の味、美味しさがアミノ酸やペプチドの種類と含量に深く関係していることはいうまでもありません。雲丹、蟹、トマト…アミノ酸の力によるおいしさの代表例です。ちなみに、欧米には旨みに相当する適切な言葉がなかっただけで、味わい分けることはできるとのこと。今では、この旨み(umami)は、日本発の味の表現、世界の言葉ともなっているのです。

ところで、肉、魚、大豆、牛乳などには、アミノ酸の重合体であるタンパク質がたくさん含まれています。本来、タンパク質は味がありませんが、その一部が分解されてアミノ酸やペプチドが生成すると一層美味しさが増すことになります。処理して間もない肉や、取れたての魚の刺身より、少し時間をおいた方が旨みが増すことは、この理由によるものです。なお、アミノ酸やペプチドの生成は、肉や魚の細胞中のタンパク質分解酵素(プロテアーゼ)の働きによるものです。

もっとも人間は、数千年も前から、食材をより美味しく食べるために、保存性をより高める為に、多くの知恵と技術を生みだしてきました。その代表が発酵食品ということになります。味噌、醤油、塩辛、納豆、チーズ、アンチョビ……これらの美味しさの秘密もタンパク質の分解により生ずるアミノ酸やペプチドに大きく関係しています。製造の主役は微生物で、それらが生産するプロテアーゼがタンパク質を分解し、美味しさをつくりだしているのです。アミノ酸やペプチドは美味しいばかりでなく体の代謝調節機能や薬理機能なども持っています。発酵食品はアミノ酸、ペプチドの宝庫、我々研究者にとっても宝の山なのです。食べ物の美味しさの成分は他にもあって、かつお節の旨みにはアミノ酸とは異なる物質も含まれています。その物質は、いずれ取り上げることにします。

今月は神無月、八百万の神様が出雲に集まって会議中とのこと。私の願いも議題に上がっているといいのですが……

悪いニュースがないよう願いつつ、さて次号は「アミノ酸をつくる」と致します。

旨味

酸味

甘味

苦味

グルタミン酸

アスパラギン酸

グリシン

アラニン

スレオニン

プロリン

セリン

グルタミン

フェニルアラニン

チロシン

アルギニン

ロイシン

イソロイシン

バリン

メチオニン

ヒスチジン

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