アミノ酸500・20・9

アミノ酸ことはじめ

中西教授東京農業大学短期大学部 醸造学科 教授 (醸造学科食品微生物学研究室)

前副学長

中西 載慶

主な共著:

『インターネットが教える日本人の食卓』東京農大出版会、『食品製造』・『微生物基礎』実教出版など

1806年にアスパラガスから最初のアミノ酸(アスパラギン酸)が発見されて200年ほどが経ちます。現在では多くのアミノ酸が工業生産され、関連商品の多さも驚くばかり。そこで、身近な物質の4つ目は今ブームのアミノ酸を取り上げてみました。動物、植物、微生物、すべての生き物に生命の基本物質であるタンパク質が含まれています。このタンパク質はアミノ酸から構成されていますから、アミノ酸は生命の最重要物質です。人間の場合では、体重の約20%はタンパク質で、臓器や筋肉、皮膚や髪の毛、赤血球、ホルモン、酵素など体の重要な組織もタンパク質からつくられています。このタンパク質は体内で必要に応じて常に合成と分解が繰り返し行なわれています。したがって、生命を維持するためには、常にタンパク質の原料であるアミノ酸を供給し続ける必要があるのです。

アミノ酸は自然界には約500種類あることが知られています。しかし、人間の体のタンパク質を構成しているアミノ酸は、そのうちのたった20種類です(下表)。また、このうち11種は必要に応じて体内で別の物質から作ることもできますが、9種は作ることができません(下表太字)。

体の中のアミノ酸20種(太字が必須アミノ酸)

アスパラギン酸、アスパラギン、アラニン、アルギニン、グリシン、グルタミン酸、グルタミン、システイン、セリン、チロシン、プロリン、イソロイシンスレオニントリプトファンバリンヒスチジンフェニルアラニンメチオニンリジンロイシン

したがってこの9種は必ず食物から摂らなければならず、これを必須アミノ酸と呼んでいます。人間はこの20種類のアミノ酸をDNAの遺伝情報に従って、正確無比に組み合わせ鎖のようにつなぎ合わせて10万種以上もの様々なタンパク質を作り上げているのです。もっとも、想像を絶するほど多くの遺伝情報をもつDNAもたった4種の物質(塩基)の組み合わせで構成されているわけですから、生命の仕組みとは本当に偉大で、不思議と神秘に満ちたものなのです。

アミノ酸の働きを簡単にまとめてみます。その1「栄養補給、栄養強化の働きあり」タンパク質、炭水化物、脂質を3大栄養素といいます、アミノ酸はタンパク質の原料ですから当然のことです。その2「食物の美味しさはアミノ酸にあり」ご存知のようにアミノ酸には、旨味や甘味や苦味などがありますから、食物の味、おいしさの秘密とは切っても切れない関係です。この話は次号ということで。その3「薬理効果様々あり」糖尿病、胃炎・胃潰瘍、肝疾患、抗ウイルス剤、各種疾病の治療薬。低刺激性や保湿性を利用した化粧品、その他多々あります。アミノ酸の力はすごい。企業の戦略も商魂も、これまたすごい。アミノ酸は発酵によりつくられています。微生物は本当にすごい。日本の発酵技術は世界一、研究者も技術者もすごいのです。とはいえブームの時は誇大広告や粗悪品も多くなりますからご注意ください。

中秋の名月、重陽の節句、コスモス、青空、赤とんぼ、星空、読書の秋、食欲の秋、去り行く夏、そしてお彼岸、ここらで自分の来た道、行く道などについてちょっと考えてみるには良い季節ではないでしょうか……

次号「アミノ酸はおいしい」につづく。

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