ミネラルウォーター

硬い水・柔らかい水

中西教授東京農業大学短期大学部 醸造学科 教授 (醸造学科食品微生物学研究室)

前副学長

中西 載慶

主な共著:

『インターネットが教える日本人の食卓』東京農大出版会、『食品製造』・『微生物基礎』実教出版など

山紫水明、水の豊富な日本で、これほどミネラルウォーターが売れるとは、今更ながら企業戦略のすごさに感心するこの頃です。この水市場、統計によれば、1986年の水生産量(輸入を含む)は約8万、金額にして83億円程度でした。それが2004年度には、163万、約1、400億円と20倍近くも増加しています。今やミネラルウォーターは清涼飲料全体に対し10%のシェアーを有し、20年近くも右肩上がりの売れ筋・優良商品です。日本の水が年々まずくなっているのかライフスタイルの変化なのか、興味あるところでもありますが、今回は物質としてのミネラルウォーターについて少し探ってみます。

水は、本来無味無臭です。しかし、前回でも触れたように、地上に降った雨水は、森や林や岩石や土壌にしみ込んで、カルシウム、マグネシウムなどの多くのミネラル成分や、苔や藻、あるいは微生物などに由来する様々な物質が数百種以上溶け込んでいます。実際には、このような水が飲料水となるわけですから、一概に水といっても地域や場所の違いにより舌触りや味の違いが生ずることになります。このような水のうち、製造・販売に必要な水量が確保でき「おいしい水」とアピールできるものが、ミネラルウォーターなのです。ちなみに、日本のミネラルウォーターの一人当たりの消費量は1年に約13、生産量の第1位は全体の40%も占めている山梨県。富士山と南アルプスのネームバリューはさすがです。

ところで「おいしい水」を分析できるかというと、その水に特別「おいしい」成分がはいっているわけではありませんし、個人の嗜好性の違いもありますから、難しい話です。しかし、感覚的には、飲んだとき口が引き締まるような、ちょっとほろ苦いような硬い感じのする水(硬水)と柔らかいまろやかな感じのする水(軟水)のあることは事実です。この感覚の違いは、水中に含まれるミネラルの量、特にカルシウムとマグネシウムの量に関係しています。そこで、この2種のミネラルの合計数値を硬度とし、水の性質を表す指標としています。その値が120r/以下なら軟水、それ以上なら硬水と分類しています(世界保健機関)。従って、この数値の大小がミネラルウォーターの味の違いに反映していますし、色々なミネラルウォーターを使い分けるときの目安ともなります。ちなみに、日本の水のほとんどは軟水です。硬水か軟水かの違いは、お茶やコーヒー、料理、酒造りにも深く関係しています。それらの理由は次号ということで。

水の「おいしいさ」のもう一つの要因は温度です。厚生省の「おいしい水研究会」の調査結果によると「おいしい水」とはミネラルが30〜200r/、水温20度以下と報告されています。冷たさは「おいしさ」の重要な要因です。水に限らず、ワインもビールも皆同様です。おいしさの追求に温度管理は欠かせません。 蛍の季節も間近か。「ほ・ほ・ほ〜たるこい。あっちの水は苦いぞ。こっちの水は甘いぞ。ほ・ほ・ほ〜たるこい。」ほたるも硬水と軟水がわかるのでしょうか……

次回、水最終回「酒造りと水」につづく。

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