塩の力

ソーダ工業って知ってる?

中西教授東京農業大学短期大学部 醸造学科 教授 (醸造学科食品微生物学研究室)

前副学長

中西 載慶

主な共著:

『インターネットが教える日本人の食卓』東京農大出版会、『食品製造』・『微生物基礎』実教出版など

身近な物質2番目の「塩」は、海の水はなぜしょっぱいか? からスタートしました。今回は塩の力です。

ところで、塩は大きく分けると、岩塩、天日塩、せんごう塩の3種類あります。岩塩は、ご存知のように地中から掘り出したもので、日本にはありません。天日塩は、海水を太陽熱で蒸発させて作ったもので、せんごう塩は、海水を釜で煮詰めてつくったものです。日本は雨が多いので、天日塩はむずかしく、ほとんどすべてが、せんごう塩です。勿論、主成分は塩化ナトリウムですが、わずかに含まれるカルシウム、マグネシウム、カリウムなどの量が塩の作り方により異なっています。この僅かな違いをアピールして様々なキャッチフレーズのついた銘柄塩が結構な値段で、店頭に所狭しと並んでいます。その多さには驚くばかりです。どれほど味に違いがあるのかよくわかりませんが選ぶ楽しみが増えたことは事実。これも官(専売)から民の好事例の一つかもしれません。

ちなみに、塩は世界で年間約2億トンが生産されています。日本の年間使用量は約900万トン、生産量は約150万トン、輸入量は約750万トンです。日本で利用される塩の15%程は調味料や食品用、85%程は工業用です。工業的には、まず塩(NaCl)をナトリウムと塩素に分解して、カセイソーダ(NaOH)やソーダ灰(Na2CO3)、塩素(Cl2)などをつくります。カセイソーダは、アルミ、紙、石鹸など、ソーダ灰は、ガラス、レール、ホーロー製品など、塩素は水道の消毒薬、CDなどの製造に使われます。これ以外にも、驚くほど多くの製品が塩から作られていて、それらの工業を総称してソーダ工業と呼んでいます。ソーダ工業なくしては、我々の生活は語れません。塩の力に驚嘆。塩に感謝。

ところで、塩の力なくして造れないものに発酵食品があります。ご存知のように保存性の高い、微妙な味わいを持つ特色ある食品です。いずれも、その土地に生まれ、生活した人々が、自然と共生しながらたゆまぬ努力と長い時間をかけてつくりだしてきたものです。味噌、しょうゆ、塩辛、漬物、……、数え上げたらきりがありません。製造の極意は、気象条件、原料特性、塩の力にあります。つまり、適切な環境下で、適切な量の塩を原料に加えることにより有害微生物の抑制と有用微生物の増殖をコントロールしているのです。

人間の知恵と努力、発酵微生物の力もさることながら塩の力がそのキーポイントです。我が醸造学科も塩の力にささえられています。再度、偉大な塩に感謝。

パンやうどんのコシや粘りも塩の力、リンゴや桃の褐変防止も塩の力、青菜を色鮮やかに茹でるのも塩の力。まだまだあります…… しかし、なんといっても料理における塩の味と力にふれないわけにはいかないでしょう。

その話は次号ということにいたします。

ペルー・アンデス山岳地帯の塩田

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