ミシガン州立大学 留学報告書 第1回
栄養科学科 管理栄養士専攻 3年 青木 愛
猛暑の東京を後にしてはや1ヶ月。ミシガン州立大学(MSU)の広大なキャンパスでは、あちこちでリスがせっせと木の実を食べて冬支度をしています。アメリカでの生活の心配や不安を覚える余裕がないほど毎日忙しく、大変ながらも充実した日々を送っています。
到着の翌日、8月17日からInternational Student(国籍がアメリカ以外の学生)のためのオリエンテーションが始まり、徐々にMSU学生全体のためのWelcome (back)イベントが増えていって大学も活気を帯び、8月27日から授業が始まりました。
MSUの雰囲気や買い物、食べ物の事情などは以前に交換留学された方がたくさん書いているので、私は主に授業(MSUの正規授業)について書きたいと思います。
私は規定以上のTOEFLスコアをもっていたのですぐに正規授業を受講できました。ここでは、まず自分の専攻〔Major〕を決め、専攻ごとにいるアドバイザーの先生と相談し、履修科目を決めます。日本の大学と違い、最終的に学位取得のための必要単位(科目)のみが決められているので、1学期〔Semester〕当たりの受講単位・科目数を自由に決められます(授業料は単位数に応じて払い、また4年間で卒業する必要もありません)。ただし、上級科目をとるためには事前の受講が必要な科目があったり、特定の学期にしか開講されていない科目があったりするので、学生は自分の計画をきちんと練っておかなくてはいけません。私たち農大からの交換留学生は、MSUではLifelong Studentという扱いで、履修に関しては色々制限があるのですが、アドバイザーの先生が農大での取得単位や成績を加味した上で、授業担当の先生と連絡を取ってくれ、その先生の許可が下りるとOverrideという、システム的な制限を無視して行う強制的な履修登録をしてくれます。授業開始から1週間は授業のお試し期間なので、興味のある授業に出席して履修の有無を決めます(この点は農大とも似ています)。9月初旬に授業料や寮費を納めますが、最終的には9月中旬の決められた日までに登録科目の削除〔Drop〕すれば、該当科目単位分が全額返金され、翌学期の授業料として使うことができます。
MSUの栄養学部〔Department of Food Science and Human Nutrition〕には、学部生〔Undergraduate〕用の専攻が3つ(食品科学〔Food Science〕、栄養科学〔Nutritional Science〕、栄養療法学〔Dietetics〕)があります。私は以前からDieteticsにとても興味があり、MSUではその勉強をしたいと思っていたので、専攻をDieteticsに決めました(というよりも、どこからか話が入っていてすでに決まっていました)。
8月末から12月中旬までの秋学期〔Fall Semester〕は、ここでの環境にも慣れていないし、英語のハンデも大きいので難しい教科をとるつもりはなかったのですが、4年生及び大学院生向けの科目で、とても面白そうなNutritional Pathophysiolosy〔栄養病態生理学〕という授業を見つけてしまい、相当の負荷を覚悟でやってみることにしました。当初は、「履修登録はするが単位を取らない(成績がつかない)」という履修方法を考えていたのですが、授業料は変わらないので、単位の取得にも挑戦しています。私の秋学期の履修は、以下の3科目です(本来は正規の学生として認めてもらうためには1学期当たり最低12単位必要ですが、私のように英語のハンデがある場合は、申請すれば12単位未満でも正規学生として扱ってくれます)。
科目 コード |
科目名 |
単位数 |
開講 日時 |
科目内容など |
ESL221 |
English
Composition |
3 |
月・水 12:40 〜14:10 |
ESL(English
as a Second Language)とは、英語を母国語としない人のために開講されている正規授業で、エッセイ、レポート、論文などを書くためのライティング技術を勉強する。授業中に書く短いエッセイ以外に、週2回決められたテーマのエッセイをブログ形式で提出。他には5ページ程度のエッセイが3本、テストが2回ある。生徒は16人で韓国と中国からの学生がほとんど。日本人は私ともう一人(大学院生)。少人数なので発言や積極性も評価の対象として大きい。 |
FSC211 |
Principles of
Food Science |
3 |
火・木 13:00 〜14:20 |
食品科学の基礎を学ぶ。農大の授業でいえば食品学(総論・各論)と食品加工学を中心に、食品衛生学、食品機能学などに相当。栄養学部の学生以外にも化学や文学を勉強している学生もいる。1学期間に記述式のテストが5回(ただし、英語にハンデのある学生は辞書の持ち込みが可能)。突発的にレポートの宿題も出る。 |
HNF465 |
Nutritional
Pathophysiology |
4 |
月・水 ・木・金 11:30 〜12:20 |
栄養病態生理学。Dietetics専攻や医学部、看護学部の4年生および大学院生のための授業。栄養学(総論・各論)、栄養生理学、解剖生理学、病理学、臨床栄養学(総論・各論)、公衆栄養学などに相当。栄養生理・臨床栄養を幅広くかつ綿密にやる。漢方などの代替医療(CAMという)にも重きをおいていて、グループで行うプレゼンとレポートが必須。授業に関連する講演会のビデオを見て要約をするレポートが4回、栄養アセスメントのケーススタティが3回、Webやレポート形式で行うテストが10回と、最後に期末テストがある。 |
合計単位数 |
10 |
注:科目コードの数字のうち百の位がクラスのレベルを示していて、100番台(1年生レベル)からスタートし、数字が上がるにつれてレベルの高い授業になる(500番台以上は大学院生用)。 |
日本の大学と違い、週に複数回同じ授業があり、科目数としては多くありません。特に私の場合は10単位しか登録していないので、授業時間自体は農大のころに比べると1/3位です。しかし、授業中は本当に集中していないと何を言っているのか分からなくなってしまうし、必死に先生の言うことを書き続けているので、毎日授業が終わるとくたくたです。さらに、予習(特にHNF465は英語で知らない病名の羅列なので毎日予習するだけで数時間かかります!)、復習、テスト勉強、エッセイのブログ、レポート、グループワークなど、授業の前も後も机とパソコンにかじりついている日々が続いています(もちろん、休みの日は買い物に行ったり外食をしたりして、息抜きもしています!)。私の場合、ESL以外は教科書は授業では使わず、宿題として読んだりテスト勉強に使ったりします(2キロ以上ある教科書もあるので、持ち運ぶのは大変)。シラバスや授業で使う資料、連絡事項などはMSUのWeb Siteにある ANGELというページで確認します(必要なものは各自でダウンロード、プリントします)。HNF465は100枚単位の資料も珍しくなく、学期が終了するまでにどれだけの厚さのファイルができあがっているのかが楽しみです?!
MSUの正規の授業(ESLを除く)を受けるということは、基本的には一般のアメリカ人の集団の中に混じるということです。先生は普通のペースで授業をし、冗談を言い、質問をします。HNF465の科学的根拠に基づいた栄養(医療)〔Evidence Based Nutrition/Medicine: EBN/EBM〕のプレゼンでは、4〜5人のグループを作り、与えられた各テーマに沿って本や論文を調査して15分間で発表します。単位を取得するためには、当然私もこのプレゼンに参加しなくてはなりません。私はアメリカ人のクラスメイトの女の子3人と一緒に、漢方医療〔Traditional Chinese Medicine〕について調査をしました。各自がきちんと担当分野を持って調査、プレゼンを行い、Fact Sheets(レポート)を仕上げることが必要で、「全員が平等に仕事を分担しました」という誓約書にもサインをし、もし分担割合が低いメンバーがいたらその人の成績は低くつけられます(成績に関してはとてもシビアです)。よって、私が英語があまりできないというのは全く言い訳にならず、相応の仕事を普通に求められたわけです。正直、最初はできるか不安でした。けれども同じグループの子は、私の英語力など全く気にせず、いたって普通に役割を分担したのです(なんてフェア)!発表まではグループが決まってから10日ほどしかなかったのですが、特にメンバーのうちのひとりDanaとは一緒に毎日のように準備をしました。一緒に図書館で資料を探したり、論文の有効性を議論したり…。”What do you think?”〔どう思う?〕と何度も聞かれ、その度にうまく答えられないのがもどかしくもありましたが、Danaはいつも一生懸命私の意図を汲み取ろうとしてくれました。他の二人ともメールで意見交換をしたり授業の前後に集まって相談したりと、毎日何かしらグループメンバーと関わっていました。
結局私はIntroduction(漢方医療の歴史を含めた紹介部分)について5枚のPowerPoint原稿を作り、5分の持ち時間で発表しました。プレゼンが終わった後に、先生が「Aiは日本からの交換留学生でアメリカに来たばかりだが、すばらしいプレゼンをした」とクラスメイトに紹介して下さり、最後に「Good job! これで本当にクラスの一員になれたね」と言って握手をしてくれました。このときは素直に嬉しかったです(アメリカの人たちは褒めるのが本当に上手!でも嬉しいものです)。私はこのグループワークを通して、みんなと同じように授業に参加できることの楽しさを知り、自信を持って何でも挑戦してみることの大切さ、また英語について過剰に気にする必要のないことにも気づきました。
とはいっても、ここでは授業についていくためには英語のハンデの分、他の学生の何倍も時間をかけて勉強しなければなりません。英語が分からないばかりに、講義内容が分からないことはしょっちゅうです。一方、少なくとも栄養学という科学に関しては、アメリカも日本も同じです。一番難しいHNF465の授業に苦しみながらも今のところ何とかついていけているのは、2年半農大で(私なりに)一生懸命勉強してきたからだと思います。私の栄養学のバックグラウンドは農大できちんとできあがっていたということを、実はMSUの授業に参加して初めて気づきました。乗り越えるべきは、もしかしたら単純に英語の壁だけなのかもしれません。留学というと語学力の向上にのみ目が行きがちですが、これから留学を希望される方には、(語学留学でないならば)英語の勉強と同時に学科の勉強をしっかりとすることを強くおすすめします。
MSUに来て、1ヶ月間生活して、自分だけの力で生きているのではないということを実感しています。初日、シカゴで乗り継ぎに遅れ、100マイルも離れた別の空港に迎えに来てもらったことから始まり、ここで生活をするために必要な電気製品・日用品の準備、買い物、様々な手続き、授業に関すること、Labor Dayの休暇を利用したミシガン湖への旅行なども含め、全て一人ではできなかったことです。日本とは生活事情が違う中、何もかも初めてやることの上、私の英語レベルではうまく対処できないことも多く、その度に農大生アドバイザーのJoe先生をはじめ数えきれないほど多くの方に助けてもらいました。ここでは、とにかく無理をしないで素直に、すぐに助けを求めることが大切だと思います。先生方も学生たちも、町の人もみなとても親切です。英語が多少おかしくたって、誰も気にしません!
MSUの栄養学部には農大の栄養科学科の先輩が二人いらして、私の勉強面、生活面、精神面の大きな支えになって下さっています。大学院生と先生で週1回行う栄養学のLab〔勉強会〕にも特別に参加させてもらったり、調査の手伝いをしたり、青空市場や地元のフードグループの集会に連れて行ってもらったり…。授業以外に直接アメリカの栄養学や食生活事情を勉強することや学校外の方々と交流することができるのは、先輩がいてこそ。私はとても恵まれた環境にいると感じています。
今後の予定としては、9月末に4日間、フィラデルフィアで開催されるアメリカ栄養士学会のコンファレンス(FNCE)に行きます。そこでは、アメリカの食産業や栄養事情について色々知ることができればいいと思っています。次回の報告書を書くのは秋学期が終わった後ですが、それまでの3ヶ月間でどれだけのことを吸収できるのか、私自身が一番楽しみにしています。よい報告ができるよう、一日一日を大切に過ごしていきたいと思います。
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Football : MSU名物、Footballの開幕試合で、笑顔の3人。(左から、私、Joe先生、吉田君)
Green! Green! : キャンパスは緑がいっぱいでとにかく広大!奥に見えるのはFootballのスタジアム。
Trout FS & HN : 栄養学部の校舎。農大にも半分分けて欲しいほど巨大です。
Owen Hall : 私の住んでいる寮、Owen Hall。留学生がたくさんいます。