北海道採集記

福田悠人

 北の大地、北海道。

これまで南の島へゆくことはあったが、北へ行くことは少ない。

特に北海道はその広大さゆえに、どこから手をつければ良いのかわからない気がして、私にとって長年採集してみたいものの少し怖気付いてしまう場所であった。

 そんなとき、神奈川県立生命の星・地球博物館学芸員の渡辺恭平さんから、先輩の加藤さんと共に北海道の調査へ行かないか、というお誘いをいただき、採集する機会を得たので、その顛末をここに記そうと思う。

 620日、成田から新千歳へ1時間半の空の旅を終えて、北海道の大地に足を下ろすと、そこはまだ気温が20度前後の春の陽気といった感じであった。

すでに昼頃であったが、一刻も早く採集に行きたい我々は昼飯も食わずにレンタカーを借りて出発した。

北海道の道はひたすらまっすぐで長く、幅広い。

そして車窓から見える森はどこを見ても良さげで、北海道に着く以前から私が感じていた“どこから手をつけて良いかわからない”というイメージは間違ってはいなかった。

 千歳周辺の道沿いの側溝でオサムシ・ゴミムシ採集をした後、宿のある札幌へ行く道中に林道があったのでここでも採集。

時刻はすでに15時頃で2時間ばかりの採集時間であったが、目標の一つであったアイヌノヒメテントウが採れた。

国内では北海道でしか採れないテントウムシ5種のうちの一つである。

芥子粒のようにしか見えない虫ではあるがとても嬉しい。

採集もほどほどに札幌の宿に着くと、駅前で渡辺さんからラーメンとお寿司を御馳走してもらい、遠征とは思えない満足感のある食事であった。

千歳周辺の道沿いにて側溝の採集中。

コヨツボシゴミムシやセアカオサムシが採れた。

コヨツボシゴミムシ

セアカオサムシ

アイヌノヒメテントウ

北海道固有のヒメテントウ

 

 2日目。

夕張山地を右手に北上し、江部乙町の宿に着くまでの道にある公園と林道で採集。

天気は快晴とは行かなかったが虫はそこそこに採ることができた。

公園はポプラがたくさん植えられており、ドロノキハムシが採れた。

エゾアザミテントウ

北海道にのみ産するテントウムシその2

上翅の盛り上がり具合がセクシー♡

 

3日目。

江部乙から新得へ。

130kmあまりある道を道中おりて採集しながら進んだ。

あいにく天気は良くなく雨天であったので、午前中は水昆狙いに切り替えた。

道中で良さそうな溜池を見つけては降りて採集すると、コオイムシやマルゲンゴロウ、ミズスマシといった都市部ではあまり見られない水生昆虫が得られた。

寄った溜池の一つ。

このような溜池が農地の周囲に多数あった。

卵を背負うコオイムシ

ナミゲンゴロウの幼虫?

成虫を採るには少し時期が早かったらしい

午後は少し天気が回復したのでポプラが多数植えられていた公園によって採集したあと、宿まで直行。

新得の町の夜は早く、8時ごろに定食屋によるとすでに閉店間際であった。

 

 4日目。

今回の遠征のメインディッシュであるトムラウシである。

標高は700m前後だというのに春の虫が飛び交い、多くの虫を取ることができた。

トムラウシの林道の様子。

針葉樹と広葉樹が混ざり合い豊かな植生を形成していた。

コカメノコテントウ

ヒメカメノコテントウと違い山地性のテントウ

ヒメカメノコより丸みが強い。

初採集だったので嬉しい

ウズマキハムシ

国内では北海道にのみ産するハムシ。

写真では分かりづらいが黒地の部分はメタリックブルーに鈍く輝き大変美しい。

コンボウハバチ

大型のハバチで林道をブンブン飛び回っていた。

 

 5日目。

この日は帯広市内の宿から出発したあと、北海道在住の昆研OBの伴さんと都合があったので、伴さんの案内のもと採集に行くことなった。

天候は雨で採集は厳しそうであったが、案内先の帯広岳では降られずに済み、一日中採集することができた。

昨年の台風以外で戸蔦別川周辺は大荒れしていた。

林道は植生が豊かでキタキツネも見られたが、マダニも大量であった…

産卵中のオトシブミ

エゾシロチョウの成る木

キャベツに湧くモンシロチョウの如く大量にいた。

少しきもい

6日目。

午前中は帯広市内の公園と十勝川周辺の公園で少々採集。午後は帯広から南東方面へゆき十勝川周辺の沼と用水路で水昆採集となった。

私個人としては十勝周辺であのカサイテントウ(国内では北海道限定のテントウムシ。

国産テントウムシで1、2を争う美麗種)が採れたという情報を聞いていたので、何としても採りたいところであったが…現実は非情である。

こんな公園で虫が取れるのか…?と思いきや思いほか虫が採れた。

アカツメクサとツツハムシ

分かりづらいが用水路で水昆採集。

水は黒く濁り、底からメタンガスがゴボゴボと湧き出てくるので、初めは「本当にこんなところに居るのか…?」と疑問であったが、ゲンゴロウモドキやオオシマゲンゴロウを採ることができた!

ゲンゴロウモドキ

こちらの池でも採集を試みたが草薮が濃く茂っており水にたどり着くときには虫が逃げてしまった。

翌日は帰還する日であったので、午後の採集は早めに切り上げ、帯広から千歳まで一気に移動した。

雨の中、夕暮れの高速道路は中央分離帯が狭いのと相まってなかなかスリリングであった。

 7日目。

最終日は千歳周辺で側溝巡りをした後、水辺のある公園で少し水昆採集することになった。

北海道美麗オサムシの一角を占めるオオルリオサムシを求めひたすら側溝から土を掻き出すが、セアカオサムシやクロカタビロオサムシは出るものの、中々あのブルーメタリックの装甲は目に映らない。

そうしているうちに飛行機の出発時間は迫り、泣く泣く引き上げることに…それでもダイミョウアトキリゴミムシやコブスジアカガネオサムシは採ることはできた。

ひとまずは満足…である。最後に水辺のある公園に寄り、北海道の“採り納め”とした。

エゾトミヨやミズスマシがいる非常に綺麗な池であったのでゲンゴロウモドキを追加したいところであったが、ヒメゲンゴロウすら入らなかった。

ままならないものである。


公園内にあった池。非常に澄んでいて綺麗であった。

赤いアメンボ⁉と思いきや大量のタカラダニがついているだけであった。

少し不憫である。

 一週間、合計移動距離は900km近い旅であった。

これだけ移動しても、北海道の自然の氷山の一角にも触れられていないのだろう。

初の北海道遠征としては満足のいく採集であったが、もう一度、いや、何度でも行きたいと思わせる場所であった。

 そんなことを思いながら、飛行機の窓を覗くと下北半島のはるか向こうに夕日が沈んでいた。