真夏日続く晩夏、狙うものはただ一つ。モミ林に棲む大虎。
父もカミキリ欲が疼いてきたらしく、
「アレ見たいねー・・・今週末行くか」
と私に向かって何度も言う。言われなくとも、初めからそのつもりである。
カミキリ屋となってから、約二年。ようやく挑む機会を得た。週末が訪れ、準備をして出かける。朝早く起きるつもりが八時を回ってしまい、慌てて車に乗り込む。
十一時過ぎ、関東某所に着いた。普段ならヤツの時期でなくとも、虫屋を目にするところだが運よく遭遇することはなく目をつけていたポイントを独占することが出来た。
写真のような渦巻模様があるモミが、ヤツの生息を裏付けている。
意気揚々と林内へ。炎天下、斜面をひたすらに歩き回りひたすらにモミを見回るだけ。これが中々に辛い。
ポイントに無数にあるモミを、渦巻模様を頼りに巡る。一通り徘徊した後、疲れ切って荷物を置いたモミの大木へと戻る。休憩がてら煙草でも吸おうか、と火をつけたその瞬間。
夢見た光景は唐突に現実になった。
オオトラカミキリ
Xylotrechus villioni (Villard, 1892)
周辺視野に移った黄色いソレを反射的に掴む。
手のひらにはオオトラ。絶叫。
「親父、ヤバイ!!ヤバイ、q2w3え4r56t7y8う9い!?」
と、言葉にならない声を上げた。駆けつけた父は、慌ててカメラを取り出しパシャリ。私は全身が震えるのを抑えるのに必死。
親子で騒ぐ、喜ぶ。小学生の夏休み、父と昆虫採集をしていた時の気持ちが蘇る。オオトラが採れたことも、一緒に採集を通じて喜べることもどちらも嬉しくてたまらない。
喜びを噛みしめて、二人はまた斜面徘徊に。そう簡単に追加は狙えなくても、一匹採れたことによる根拠のない何かに突き動かされ、何度も同じコースを行き来する。
午後二時過ぎ、斜面を下りきって何も採れずに上を見ると、ギャップに父が立っているのが見えた。どうやらオオトラを待っているようだ。何となしに、父の方へ向かう。
・・・?
父の横に生える細いモミに、大きいオレンジ色の物体が見える。これはもう間違えようがない。爆走してキャッチ。
(このモミに居た)
(室内で撮影)
追加個体が採れてしまった。どうやら、30mm越え。これぞオオトラにふさわしい。
「そんな所に居たのかよ!全然見えねぇーよ・・・」
と悔しそうに呟く父。ニヤつく私。
何かの間違いじゃないよな、と何度も自問自答しつつ大事にタッパーへ。
結果、初挑戦で二個体という快挙を成し遂げた。まだまだオオトラシーズンは続く。週末の親子の採集行はまだまだ続く。
学部4年
川村 玄季