西表島採集記

学部4年 真嶋 豪


 2014年4月頃、卒論の為西表島に行くけど誰か他に行きたい人いませんか? と昆研室員を誘ってみたところ、学部3年相良君と学部2年鈴木君が手を上げてくれた。

 というわけで筆者の真嶋(オサムシ)、相良(ハエ)、鈴木(ガ)の3名で西表島へと降り立つことになった。期間は5月25~から6月3日、「うりずん」の季節である。はからずも昆虫採集にはちょうどいい時期だった。以下、その模様をダイジェストでお送りしたいと思う。

 5月25日。羽田空港から那覇空港、那覇空港から新石垣空港、新石垣空港から石垣港、石垣港から西表島の大原港……と長い長い移動時間の末、西表島へ。ここに来るまで3人で交わしていた昆虫談義のせいで気持ちははやり、西表についてすぐ、宿近くの林道へ。

 スジクロカバマダラやタテハモドキ、ヒメヤツボシハンミョウなどの南西諸島らしい昆虫が出迎えてくれた。

 筆者としては初の南西諸島採集ということもあり興奮して採集をしていたのだが、なんと初日にしてビーティングネットが折れてしまうというポカをやらかし、一気にトーンダウン。失意の中、西表島の熱気にあてられ熱中症気味となり、2人が採集を続ける中1人だけ林道から出て車で休むこととなってしまった。泣きっ面にハチである。

          同行者の鈴木君(左)と相良君(右)            宿の周辺で道路を渡っていたヤエヤマセマルハコガメ

 西表島に到着した時刻が16時過ぎということもあって昼の採集はそれほどの成果がなかったが、夜のライトトラップには多くの昆虫が集まり、これからの採集に非常に期待がもてるものとなった。

 2日目からは卒論の作業をこなしながらも、本格的な採集が始まった。

 海岸林で採集しているうちに、頭上の葉の上に何かがとまっているのを見つけた。届かない高さではなかったのでコガネムシか何かだろうと思いながらも長竿ですくってみたところ、なんとそれは密かに憧れていたルリゴキブリであった。
 思いがけない邂逅に
「おおおおお!!」
 と大きな歓声をあげてしまった。それ以降、憧れの昆虫を採集するたびに歓声をあげるのが癖となってしまい、後輩2人からうるさがれることとなる。

    
              ルリゴキブリ                           ミヤモトサシガメ     


海岸で相良君が発見した巨大なヒトデとしばし戯れた

「まだ時間がありますし、島のいろんなとこまわって(採集に)いい場所見つけませんか?」
 3人のうち誰がそう言い出したのか……。そんな意見をもとに島の色々な所をまわって採集することになり、3日目はひたすら県道215号沿いに車を走らせた。

 ついでに海岸林と林道にFITを、宿の方の許可を戴いて宿の空き地と林道にマレーゼトラップをかけたが、結果として移動とトラップ設置にかなりの時間を割くこととなった。
 そのため採集した数だけでいえばかなり少ないものの、集落周辺でツマグロスズメバチやキオビエダシャクなどを、夜のライトトラップでは数多くの微小昆虫が採集できたため満足度は比較的高かった。


 4日目。

 パンッ!

 破裂音がして、先を歩いていた2人が振り返る。2人が目にしたのは、きっと長竿をへし折ってしまい立ち尽くす筆者の姿だっただろう。

 場所は初日に行った林道である。アヤムネスジタマムシ、ヤエヤマモモブトコバネカミキリ、ヤエヤマクビナガハンミョウを採集して調子が出始めたタイミングでアダンの木に網を引っかけてしまい、外そうとやみくもに振り回した結果の悲惨な結末だった。

 長竿は2段目から折れたため1段目のみを柄とし、破れた網も予備の口径の小さなものに変えざるを得なくなった。それでもそういう時にこそチャンスというのは巡ってくるもので、車に予備の網をとりに行く途中コゲチャフタモンヒゲナガカミキリを採集し、予備の網と取り換えて先を行く2人に追いつこうと林道を進む中、目の高さの位置にムモンチャイロホソバネカミキリがとまっているのを発見、水たまりからリュウキュウオオイチモンジシマゲンゴロウを採集するなどの幸運もあった。

 それだけで済むかと思いきや、キョウチクトウスズメやシタベニセスジスズメが採集したい鈴木君の要望により寄主植物のある海岸近くでライトトラップをやることになり、ちょうどいいと海岸林のFITの様子を見る為に海岸林に1人で入った結果迷子になった。昼間見つけていたタカサゴシロアリの巣の向きで自分の位置を知ることが出来、なんとか道に出られたものの、月明かりもなく街灯もない暗闇の恐怖を味わうはめとなった。なお、道に出る頃には筆者の手にはヘッドライトへ飛んできたサキシマヒラタクワガタが握られていた。人間万事塞翁が馬である。


リュウキュウオオイチモンジシマゲンゴロウ

 5日目はOBの方から相良君が教わった情報をもとに、川沿いの林道へ。

 ここでは相良君が採集するのを皮切りに、各自ヒメシュモクバエを採集することが出来た。非常にかわいらしいハエで、日本最大のムシヒキアブであるメスアカオオムシヒキも事前に採集していたので、より一層そのかわいらしさが際立った。他にはサキシマチビコガネやツマムラサキマダラなども採集された。

林内は鬱蒼としている


「せっかく西表島来たんだから、一度は行ってみたら? (観光という意味で)」
 とは宿の方。
「あそこは行ってみても面白いと思う(採集という意味で)」
 とはM1の半田先輩。

 そんな感じで何人かの方たちから勧められていたこともあり、観光と採集両方の意味で6日目は島中心部へ。

 原生林内ということもあり採集できたのはモンキヒラタサシガメくらいでそれほどかんばしくなかったが、西表島の大自然に圧倒され感動した上、何の幸運か、ベニボシカミキリの死骸――それも死骸にも関わらず脚や触角が少しも欠けていない個体――がスイープで入り、私の中でこの採集記のハイライトとなった。しかしここまでで運を使い果たしたのか、この日以降は採集が思うようにいかなくなる。

モンキヒラタサシガメ                           ベニボシカミキリ  


チョウを追いかける鈴木君


 元々採集したい昆虫が目レベルで違う筆者ら3人は、段々とそれぞれの採集したい昆虫の環境が分かってきたことで行きたい場所がハッキリとしてきた。そのため、7日目は3人バラバラで採集を行った。筆者が29日に行った林道、相良君が牧場周辺の草地、鈴木君が宿周辺である。

 相良君はイエバエがそれなりに採れたようだったが、筆者が採集できたのはミヤコキンカメムシくらいであり、鈴木君もあまり芳しくなかったようである。ライトトラップでもヤエヤマカスリドウボソカミキリくらいしか採集されなかった。

島西部の白浜では海神祭(ハーリー)が行われていた


 8日目は更に芳しくなく、林道にしかけたFITにオオツヤエンマコガネが落ちていた以外に特筆することがない。前日から風が強くなったためライトトラップもほとんど効果はなく、ライトトラップをそうそうに切り上げて筆者は卒論のため出かけ、2人は宿でそれぞれハエと小型蛾の標本作りをするのがお決まりの流れとなる。


 9日目も3人バラバラに採集。サキシマチビコガネの追加を狙って川沿いの林道で奮闘したが、1個体しか採集できず、その他の昆虫もあまり採集できなかった。更になんと鈴木君から借りた網を壊してしまうというこの西表採集で3度目のポカをやらかした。6月3日は宿で片付けをして帰るため、ゴミとなるものが残らないようこの日のうちにFITとマレーゼトラップを回収した。のちのちソーティングをしたところ、マレーゼトラップにはハイイロハナムグリが入っていた。

 サキシマチビコガネ                           ハイイロハナムグリ


 10日目。最終日であるが、採集日は前日で終わってしまっているため荷物をまとめてお土産を買い、西表島をあとにした。島を出る頃にはこれまでに蓄積した疲れのせいで2人はぐっすりと眠っていた。


 物を破壊したり迷子になったりとトラブルも多いこの採集記ではあったが、初の南西諸島採集としてはこれ以上ないくらい満足のいく採集だったと思う。なにより美しい海、満点の星空、ダイナミックな滝と、どこをとっても美しい西表島の大自然や親切な島民の方々と触れ合えたのは非常に有意義な時間であった。

 そうして西表島に魅せられた私は、8月下旬、再び西表の地を踏むこととなる。


 その2