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スーパー農学の知恵

森林からの天然物を利用した製品の開発(2)

エノキ氷

脂質代謝異常症や動脈硬化予防に効果

地域環境科学部 森林総合科学科 教授 江口 文陽

 エノキタケは、日本で最も生産されているきのこです。しかしながらエノキタケの消費は、通年で一定ではなく冬場の鍋物需要が中心であり、通年での需要拡大が販売における課題です。このような状況の解決策として、食物繊維が豊富な自然食品としてのイメージが強いエノキタケを原材料とした食品を開発して消費者に提供すれば、多くの消費者に通年でエノキタケを利用してもらえるはずです。
 JA中野市(長野県)では、エノキタケをペースト状にして冷凍した商品である"エノキ氷"の開発を阿藤博文組合長の発想で試みました。"エノキ氷"は、食べることで「ダイエット」、「花粉症の改善」などの体験談は報告されてきたものの科学的根拠が乏しかったため、"エノキ氷"を摂食した医療科学的な解析が研究室に依頼されました。脂質代謝異常症の予防と改善に対する解析から開始し、高血圧症や糖尿病などの予防や改善に関する臨床試験を実施しました。
 "エノキ氷"は、300gの生のエノキタケ子実体を400mlの水と混合し、ミキサーでペーストにしたのち、約60分間弱火で煮込み製氷皿に注ぎ込んで冷凍庫内で氷にしたものです。エノキ氷3個分には、生のエノキタケが約50g入っている計算になります。一人あたり3個分の"エノキ氷"をその日に食す料理の中に調味料感覚で活用するのです。エノキタケをそのまま食べるよりも"エノキ氷"で健康効果が高まるのは、きのこのからだの細胞壁は頑丈でありその中に含まれる有効成分を余すことなく利用するのは大変だからです。"エノキ氷"は、(1)細胞壁を破砕、(2)成分を熱水で抽出、(3)細胞内へとどまっている有効成分を凍らせ細胞を膨張させて細胞外に有効成分を出して活用するのです。有効成分は、キノコキトサン、β─グルカンおよびエノキタケリノール酸などと考えています。
 ヒト試験による解析の結果、"エノキ氷"を料理に利用して毎日3個摂食した試験群では、「便秘の改善」、「むくみの解消」、「冷え症の改善」などの感想が多く寄せられました。血液検査項目における摂食群への効果は、2カ月目の検査から顕著に観察され、中性脂肪、総コレステロール、総脂質、LDLコレステロールの値が低下しました。
 一方、HDLコレステロール値は上昇しました。これらの結果から"エノキ氷"の日常的な摂食は脂質代謝異常症や動脈硬化の予防に効果を発揮すると考えます。さらに、境界領域の高血圧症の方や血糖値の高めの方が摂食することにより血圧値や血糖値などが、健常なヒトの基準値に近づく改善も確認されました。
 なお、健常な方が摂食しても基準値を変化させるような害作用はありませんでした。"エノキ氷"は、健康なからだづくりに役立つための生体調節に働くとともに、きのこの持つうまみ成分であるグアニル酸や細胞壁を構成する粘性多糖体を含むことから料理をおいしくして"とろみ"を引き出す効果もあります。健康が気になる方、高齢者の誤嚥下が気になる方などに対する機能性加工食品であると考えます。
 日常生活での料理に"エノキ氷"3個を利用してみてはいかがですか……。

 

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