東京農業大学

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教員コラム

食品に含まれるビタミンB12の特性と調理損失

2016年9月2日

応用生物科学部栄養科学科 助教 谷岡 由梨

はじめに

日本は、ビタミン欠乏などによる栄養失調等の問題から飽食による生活習慣病の問題、さらに2000万人超の70歳以上の人口を抱えた少子高齢社会へと変わり健康寿命の延伸が重要な課題となっている。食品では、それらに対応した機能性成分を有した種々の特定保健用食品(トクホ)や機能性表示食品が商品化・販売されている。

現代社会では十分量の食事を摂取していればビタミン欠乏症を発症することはまれである。ところが中高齢者になると、個々人の食事内容は大きく異なると思うが、健康志向や食嗜好の変化から菜食中心の食事内容となり動物性食品の摂取不足となりやすい。水溶性ビタミンのひとつであるビタミンB12(B12)が多い動物性食品の不足はB12の摂取不足を招く。なお、この傾向は菜食主義者ならびにそれに準じたマクロビオティック(穀類や菜食中心で動物性食品を積極的に摂取しない)食事法を長期間行うことでも引き起こされる。B12は構造の中心にコバルトを有する非常に複雑な構造をしている(図1)。日本人の食事摂取基準(2015年版)では推奨量2.4µg/日であり、平成26年国民健康栄養調査結果によると食事から多くのB12(6.0µg)を摂取しているが、B12は“量”だけでなく、その“質(遊離型B12)”も重要となってくる。中高年者にみられる“食品たんぱく質結合性ビタミンB12吸収不良症”は、食品たんぱく質と結合しているB12が、胃酸分泌の減少により食品たんぱく質が分解されず、遊離型B12に変換されないために生じる。

私たちは、我が国の食文化を考慮しB12低栄養を未然に防ぐことを目的とし、食品・栄養学的観点から日本人になじみ深い食品(特に魚介類と藻類)に含まれるB12化合物の特性を明らかにしてきた。本稿では、魚介類と藻類のB12の特性と調理加工におけるB12の調理損失について紹介する。

食品に含まれるB12化合物の特性

日本人の中高年者は、魚介類(7784%)からB12の大半を摂取している。また、平成25年12月、和食がユネスコ無形文化遺産に登録され、世界的にも魚介類や藻類を使用する日本食の注目度は高まりつつある。

日本人にとって主要なB12供給源である魚介類のB12に関する知見が少なかったのでB12含量やその特性を検討した。B12は一部の微生物によって合成され、食物連鎖を通じて高等動物の体内に吸収・蓄積される。そこで、食物連鎖の上位に位置するカツオ魚肉のB12化合物の特性を検討した。可食部100gあたりのB12含量は、日本食品標準成分表2015のカツオ(春獲り、生)と(秋獲り、生)のB12含量(8.4µgと8.6µg)とよく一致しており、特にカツオ血合肉は、他の魚種(ブリ、48.3µg/100g;ゴマサバ、47.2µg/100g)に比べても高濃度に含まれていた(表1)。また、魚肉全体のB12含量の約74%が血合肉に含まれており、一般に血合肉は生臭く好まれないが調理法を工夫することで良いB12供給源になると考える。また、サケ腎臓塩辛めふんには、多量の遊離型B12(B12結合タンパク質と結合していない)が含まれており、胃酸分泌が低下し胃内で食品たんぱく質を消化できなくても吸収されやすいため、上述したB12結合たんぱく質型吸収不全症に有効な食品であると考える。

日本人になじみ深いアサリのB12化合物はB12であったが、シジミにおいて微量の擬似B12が検出された。大型の二枚貝と巻き貝において、その可食部100gあたりのB12含量は、日本食品標準成分表2015と同程度であったが、一部の貝にB12とともに擬似B12類が検出された(図1、表1)。これら擬似B12類(シュードB12等)には生理活性がないためB12供給源にはならず、微生物が合成した擬似B12類を貝が食すことで蓄積されたと考えられた。一般的に食す機会の少ない貝もあるが、地域特産品の中には内臓を使用した発酵食品が珍味として流通しており、例えば閉鎖型にした養殖場でエサをコントロール出来れば、擬似B12類を減らせるかもしれない。赤貝、ホタテ、ツブ貝は、B12のみであり、B12の良い供給源であることを明らかにした。

一方、植物はB12を生合成せず利用もしないため、一般的に植物性食品にB12は含まれない。しかしながら、食用藻類(微細藻類や藍藻類を含む)の中には多量のB12を含むものもあり、その生体利用性や栄養価に関する研究は以前から行われてきたが、否定的な報告も多数あり栄養評価は定まっていなかった。真核藻類のアオノリやアマノリ、クロレラには多量のB12が含有されており、生理的に有効なB12であった(表1)。ところが、スイゼンジノリやスピルリナなどの原核藻類(食用ラン藻)に含まれるB12化合物を単離し同定したところ、真核藻類はすべてB12のみであったのに対し、食用ラン藻はシュードB12のみが検出された(表1)。これまで藻類の栄養評価が定まらなかった理由は、ラン藻類にシュードB12が含まれており、日本食品標準成分表で採用されている微生物定量法ではこれらを分別定量できないことによるものであった。ラン藻におけるシュードB12の生理機能を検討したところ、ラン藻類は外界からコバルトを取り込み、自らシュードB12を生合成し、細胞内で酵素の補酵素として利用していることが分かった。

加熱調理によるビタミンB12の調理損失

ヒトは、火を使い食品を調理加工することでおいしく、安全に食べる術を学んできた。一般的に、水溶性ビタミンは茹でる調理法で、脂溶性ビタミンは油を使う調理法で溶出しやすく、電子レンジ加熱は栄養素の損失が少ないと言われている。なお、日本食品標準成分表には食品自体のビタミン含量は記載されているが調理損失についてはほとんど考慮されていないのが現状である。そこで、日本人の主要な供給源である魚肉に含まれるB12の調理損失について検討した。

カツオ魚肉の各種加熱調理(茹でる、蒸す、焼く、揚げる、電子レンジ加熱)によるB12残存率を調べたところ、焼く・蒸す・揚げるでは94.5〜97.7%と調理損失はほとんどなく、茹でるにおいても煮汁中への溶出は3.4%であった。ところが、電子レンジ加熱によるB12残存率は85.2%と最も少なかった。畜肉や牛乳の加熱調理によるB12残存率は、条件等が異なるので単純に比較できないが、牛肉各部位で61〜88%、豚肉各部位で76〜90%と報告されている[1]。牛乳中のB12は加熱調理により顕著に減少し、電子レンジ3分加熱および直火30分の加熱で約50%のB12が消失することが報告されている[2]。これらのことより、B12の調理損失は加熱温度と時間に依存し、また混在する食品成分の影響を受けると考えられた。

今後、日本は深刻な少子高齢社会を迎え、健康寿命の延伸においてもより正確に栄養摂取状態を把握することが重要になると考えられる。そのために食品の成分特性や調理加工による成分変化等について明らかにし、社会に発信していきたいと考えている。

​引用文献

[1] 財団法人 日本食肉消費総合センター編(1992)
  「食肉成分表:食肉の栄養成分と調理による変化」日本食肉消費総合センター、
   東京、4-26

[2] Watanabe F, Abe K, Fujita T, Goto M, Hiemori M, Nakano Y (1998)
   Effects of microwave heating on the loss of vitamin B12 in foods.
   J Agric Food Chem 46, 206-210


実学ジャーナル2016年7+8月号

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