東京農業大学

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教員コラム

資源循環型社会創造への挑戦

2010年10月18日

応用生物科学部醸造科学科 教授 鈴木 昌治

食品廃棄物のエタノール固体発酵法の開発

「京都議定書」が本年2月16日に発効した。1997年の地球温暖化防止京都会議で採択された温暖化防止への具体的取り組みである。先進国には二酸化炭素(CO2)などの温室効果ガスの排出削減が義務つけられ、日本は1990年度比で6%の削減、2003年度の実績からは14%の削減が求められる。3月開幕した愛知万博のテーマも「環境」である。

こうした情勢のなかで、酒の醸造技術を使って、廃棄物系バイオマスである食品廃棄物から環境負荷が小さい燃料用エタノールを製造する技術が開発された。地球環境保全に向けた注目される技術として紹介する。

 

生ごみから固体発酵法でエタノールをつくる

東京農大応用生物科学部の後藤逸男教授が開発した「みどりくん」を発酵原料とした燃料用エタノール製造技術を開発した。「みどりくん」は、世田谷区の学校給食センターと農大生協の食堂から出た生ごみ(食品廃棄物)を乾燥させてつくったペレット状の有機質肥料であり、東京農大の「リサイクル研究センター」で、毎日、製造されている。食品廃棄物を原料とする「みどりくん」には、調理くずや残飯などに由来する糖質が含まれている。この糖質を固体発酵により、エタノールに変換する新技術である。

今回、開発したエタノール発酵の一つの大きな特徴は、「みどりくん」を固体のまま発酵させるということである。固体のまま発酵させた発酵物からは、蒸留廃液が出ないという利点がある。

同じ燃料用エタノールの製造でも、ブラジルで行われているサトウキビから砂糖を精製した後の廃糖蜜を使った発酵では、液体発酵のために、エタノールを蒸留した後には高濃度の廃液が出る。この廃液は、以前は海洋投棄などにより処分されていたが、ロンドン条約以降はできなくなった。廃液には、水環境に影響を与える有機物が大量に含まれているからだ。

廃液を出さない固体エタノール発酵法の開発は画期的といえる。固体発酵によるエタノール生成は、新しい技法であり、アメリカでも、トウモロコシから燃料用エタノールを製造しているが、これも液体発酵法である。

固体のまま発酵させて蒸留すると、残も固形物で残る。残は、微生物由来のたんぱく質が高濃度に蓄積した良質の発酵肥料となる。

現在、日本の法律では、ガソリンに混合してよいエタノールの量は3%までであるが、ブラジルでは、エタノールを最高25%まで混合してもよいことになっている。日本でも、5、6年後には10%程度の混合が予定されている。

 

酒の醸造技術が生きる

固体のまま発酵させるということは、どういうことか。

中国には、白酒(ばいちゅう)といって、固体発酵でつくった蒸留酒がある。食品廃棄物の固体発酵という発想も、17、18年前に醸造の研究で訪れた中国の酒造りにヒントを得たものであり、手順的にはまさに白酒造りである。

固体発酵は、液体発酵に比べて難しい。それに、食品廃棄物中の米や小麦などのでんぷん質は、そのままでは発酵しない。エタノールをつくる酵母菌が働けるように、でんぷん質をぶどう糖に換えてやらなければならない。そこで、ある程度水分を加えた「みどりくん」に麹菌を加えて麹をつくり、さらに酵母を加えるという手順が必要になる。

麹菌と酵母は、焼酎をつくるときの麹菌と酵母を使う。一度乾燥処理してあるとはいえ、食品廃棄物には雑菌がたくさん含まれている。焼酎用の麹菌はクエン酸を多くつくり、これが雑菌による腐敗を防ぐと思われる。麹造りに焼酎用麹菌をつかうので、酵母もクエン酸に耐性のある焼酎用酵母を使用する。焼酎酵母もいろいろな種類があって、70種くらいを試して、そのうち4種類が固体の状態でも働いてくれることがわかったので、もっとも高いエタノール生成量を示した酵母を採用した。

「みどりくん」10㎏から1のエタノールが製造できる。ということは、「約40㎏の食品廃棄物からおよそ1のエタノールが得られることになる。日本で1年間に出る食品廃棄物の量は約2千万t、東京ドーム16杯分といわれている。これが現在は、化石燃料を使って90%を焼却処分している。『みどりくん』に含まれる糖質は約18%ですから、より多くの糖質を含むパン工場や製麺工場などの廃棄物なら、さらに効率よくエタノール化ができる。工場内を走る運搬用の作業車を食品廃棄物からつくったエタノールでまかなうことも夢ではない。固体発酵法は、液体発酵法に比べて発酵槽や蒸留装置の規模も小さくてすむ。廃棄物の処理に悩む食品関連会社やエコタウン構想を持つ自治体からの問い合わせが多い。

平成14年、日本政府は「バイオマス・ニッポン総合戦略」を策定し、バイオマス利用は国の施策となった。エコ・ビジネスは40兆円規模の産業に成長するだろうといわれている。バイオマスをエネルギーに変換する技術は、環境に優しいだけでなく、大きなビジネスチャンスを秘めている。

 

急がれるバイオマスのエネルギー化

2月16日、「京都議定書」が発効し、二酸化炭素など地球温暖化の原因とみられる温室効果ガスを地球規模で減らそうと、先進国における排出量の削減目標を定めたもの。これにより日本は、08年〜12年の5年間で、1990年時点での温室効果ガス排出量の6%を削減しなければならなくなった。

また一方で、化石燃料の資源枯渇問題も深刻だ。特に世界の埋蔵原油は、このままのペースで採掘をつづければ、あと40年ほどで底をつくといわれている。石油の供給を99%輸入に頼っている日本にとって、石油に替わる新エネルギーの開発は、まさに急を要する問題なのである。

こうした問題を背景に、注目を集めるようになったのが、バイオマス(生物資源)エネルギーである。

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