東京農業大学

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教員コラム

生態系を探る 〜昆虫と植物のあくなき攻防〜

2009年7月17日

短期大学部環境緑地学科 教授 竹内 将俊

植物を食べる昆虫は害虫と見られがちですが、植物と昆虫の間には、まだ知られていない様々な関係が存在します。生態系全体にとって大切な役割を果たしてることも。

そこで、東京農業大学短期大学部環境緑地学科の竹内将俊講師が、生態系における植物と昆虫の関係について語ってくれます。

 

昆虫の『ジェネラリスト』と『スペシャリスト』

ひと口に昆虫といっても、水の中で生活するもの、地中に暮らすもの、植物上に生息するものなど、多種多様です。食生活も、個性豊かでバリエーションに富んでいます。捕食や、雑食の場合もありますが、多くの昆虫が植物を食べています。

植物を食べる昆虫は、生態学的にみて『ジェネラリスト』と『スペシャリスト』に分けることができます。前者は幅広い種類の植物を食べるタイプでバッタなどがあてはまり、ときには100種以上の植物を食べることもあります。いわば何でも屋ですが、必要な栄養をバランスよく取るとともに、植物に含まれる体に悪い物質をたくさん取り込まないよう餌を選ぶ必要があります。

これに対して後者は、決まった植物だけを食べるタイプで、キャベツなどアブラナ科だけを好む「モンシロチョウ」などがあります。なぜその植物を選ぶのか、具体的な餌選択の理由は謎につつまれている部分が多かったのですが、少しずつ解明されてきました。

 

相手の裏をかく!!

昆虫が食べる植物を選ぶ理由は、まずにおいや味などのおいしさ、次に自分の発育にとってプラスとなる栄養を持っているか、食べやすいかどうか、だと考えられています。

植物側としても、食べられてばかりもいられません。様々な方法で防御策をとり、簡単に食べられないようにしていることが分かっています。バラにあるトゲや植物の葉に密集した毛なども、物理的な防御策のひとつです。

『スペシャリスト』であるテントウムシの一種「トホシテントウ」は「カラスウリ」の葉を好みますが、食べるときに必ず葉に傷をつけます。なぜなら、「カラスウリ」は葉脈がかじられるとネバネバする物質を出して、簡単に食べられてしまわないように防御しているのです。それに対して「トホシテントウ」は、一度葉に切り込みを入れてネバネバ物質を外に出し、出なくなった部分を食べるという方法を取るようになったのです。ただ、幼虫のうちはこの方法をとれないため「トホシテントウ」は別のウリ科の植物に卵を産み成虫になるまではそこで暮らさなくてはいけません。

いまスーパーでキャベツを買ったら虫が付いていたなんてことは、まずありません。あらゆる方法で農作物の害虫は駆除されていますが、わたしたちの健康や生態系への影響を考えて、なるべく化学農薬の使用を減らす方法が研究されています。天敵を使って植物についた害虫を駆除する方法など総合的に害虫を管理することが可能になってきました。その中の「天敵利用」という方法を自ら実践している植物もあります。

「ライマメ」というマメ科の植物がその一種。「ライマメ」を好む「ハダニ」が寄ってきて食べ始めると、「ライマメ」はある特殊な化学物質を放出します。これは「ハダニ」の天敵である「カブリダニ」を誘引し、「カブリダニ」が寄ってきて「ハダニ」を食べてくれる。そして、「ライマメ」は守られるというわけです。植物と昆虫には、このような攻防の繰り返しが存在し、複雑なバランスの上に生態系が成立しています。

 

生態系の仕組み

たった1本の木をめぐっても、生態系があります。文献ならびにいくつかの地点で桜の木をサンプルにして調査したところ、桜の葉や幹を食べる昆虫、それらを食べる天敵類、受粉を手伝うパートナー的存在の昆虫や鳥など実に900種類もの生物が桜を利用していることが分かりました。むやみに農薬散布をすれば、駆除されるのは害虫だけではないのです。

同様に、絶滅の可能性がある生物を保全するにも、その生物だけでなく、周りの生態系について調べる必要があります。生態系のバランスがくずれると、ほかの生物に多大な影響が出ることもあるからです。

生き物同士の相互関係を知り、生態を解明し、共存の道を探っていくのも農学のおもしろさです。

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