東京農業大学

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教員コラム

雑草は環境のバロメーター

2009年7月17日

国際食料情報学部国際バイオビジネス学科  助教 宮浦 理恵

「雑草」は、ガーデニングでも農作業でも、庭の美観をそこない、植物の生長をさまたげるじゃま者と思われています。

しかし雑草と人との関わりは、私たちの想像以上に深いものがあります。そんな雑草の話について、東京農業大学国際食料情報学部国際バイオビジネス学科の宮浦理恵講師が、現地調査をもとに語ってくれます。

 

たかが「雑草」、されど「雑草」

まず始めに、雑草とは一体なんなのかを考えてみましょう。狭い意味では、「農耕地における目的作物以外の植物」、広い意味では「土地に撹乱(何らかの作用)が加えられる時に真っ先に生えてくる植物」と説明することができます。みなさんはどんなイメージをもっていましたか。

身近なところに生えているため、雑草は人の営みにさまざまな関わりがあります。たとえば、「ドクダミ」、「ハコベ」などは古くからその薬用効果が利用されてきました。ほかにも家畜のエサとして役に立ちますし、ある地域では儀式や魔よけに雑草が使われています。

雑草が生存するためには、温度・光などの影響が大きいのはもちろんですが、実はそれだけでありません。人の活動の影響をとても強く受けるのです。どういう雑草が生えていて、どのように管理しているかによって、その地域でどんな生活が営まれているのか、どのような農業が行われているか、その一端を知ることができます。いわば、雑草がその地域や環境のバロメーターといえるでしょう。

 

善玉草「ダムダム」

近代農業が進んでいる現在の日本では、農作業のなかでも除草は人手もお金もかかるやっかいな仕事で、雑草を作物の生長に役立てるという考えはほとんど見られません。

しかし熱帯アジア地域では、土地に生える雑草を農耕に生かし、人と雑草が共存している事例があります。たとえばインドネシア共和国・バリ島のチャンディクニン村は、キャベツ、リーク(ねぎの仲間)など、高原野菜の栽培が盛んな農村です。そこの人たちは雑草を「よい草」、「わるい草」と識別し、「よい草」を残しておくことがあります。

「よい草」の代表は「ダムダム」(※1)。現地の言葉で「水」を意味するこの草は、葉からたくさんはえている毛が夜露をふくみ、乾季には作物の生育を助けてくれます。また、生えてもすぐに腐るので、すきこんだあとの土を良い状態にしてくれ、作物の肥料になると考えられています。

反対に「わるい草」とされるのは「パダンカンコン」(※2)。地中にすきこんでも茎からすぐに再生してくるので嫌われています。しかし、畑の外に生えていれば牛のえさとして利用されます。ここでは除草も人の手で行うので作業効率は悪いかもしれません。しかし「よい草」、「わるい草」という農民の知恵による識別は、植物をよく観察し、その機能を見出していることの表れです。地域の環境をふまえ、人々の知恵を生かす農業の方法を探ることが大切です。

 

「環境にやさしい」の本当の意味

近年、発展途上国における地域の活性化が叫ばれていますが、現地の社会・自然環境をよく理解し、地域資源を活用していくことと経済を発展させることとの調和を、よく考えることが大切です。

みなさんの生活と、熱帯アジアの人々の営みは密接に関係しています。

生活中で何気なく使っているものの材料や原産地を確かめてみて、環境との関連を考えてみると違った発見があるかもしれません。

例えば、チャンディクニン村で作られる野菜は、バリ島のホテルやレストランの食材となって観光客用の食卓に上ります。また、皆さんが普段使っている洗剤やゴム、チョコレートの原料の中には、熱帯アジアで作られるものが多くあります。

最近よく見かけるようになった「環境に優しい素材」が、現地の環境を破壊した上で作られているとしたらどうでしょうか。本当の意味で「環境にやさしい」のかどうか、それが作られているのか見極めなければなりません。

農業や人間の営みと生物と環境との関係を科学的に考えていくのも農学のおもしろさです。

 

※ 1Drymariavillosa
※ 2Alternantheraphiloxeroides

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