東京農業大学

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教員コラム

オホーツクのホタテはなぜウマイ〜稚貝養殖の確立と地撒きの輪栽式が決め手〜

2016年3月1日

名誉教授 美土路 知之

オホーツクの地域資源 Foods Who(3)

 北海道の2大ホタテ産地は、噴火湾(太平洋側)とオホーツクである。オホーツクのホタテ漁の特徴は、稚貝生産から食用(おもに貝柱)生産までの「一貫」生産となっていることだろう。稚貝生産はサロマ湖、能取湖ふたつの汽水湖で行われ、東北や北海道内のホタテ養殖業向けに供給されている。こうした一連の養殖技術はおもに、昭和30年代から40年代にかけて開発されてきた。
 オホーツク海域でのホタテ養殖は、前浜を「A〜D」までの4ブロックに分けて、毎年1区ずつに稚貝が放流される。「輪栽式」生産のローテーション手法が採られ、3〜4年が養殖のサイクルとなる。ホタテ貝は砂地の海底で豊かな栄養を摂って生育する。これがオホーツクならではの優れた品質と特性をもたらしている。
 あまり知られていないことかもしれないが、ホタテ貝はヒトデなどの天敵が接近すると2枚の貝を開閉させたジェット噴射で1〜2㍍を勢いよく移動することがある。この開閉に使われるのが筋肉に相当する貝柱部分で、カゴの中でジッと育てられて運動量の少ない貝に比較すると、だいぶ違うようである。すなわち、冷たく豊かな栄養分を含んだ海で、運動量も豊富となることから、旨味成分が多く貝柱も太く肉質組織のキメも細かく食感の滑らかさにもつながっているというのが、地域の生産者たちの自慢となっている。こうしたことから他の産地とは異なるメリットを多く持っている。
 一般に、ホタテ貝の「旬」は秋口とされているが、オホーツク海のホタテは6月から夏場にかけて品質が高くなる。というのは、ホタテ貝が越冬する際には体内に蓄積したグリーコーゲンを栄養分として自家消費して暮らすが、春先からは海中のプランクトンなどを補食して栄養摂取が著しく進む。ただし、動物性プランクトンを多く摂取すると貝毒発生の要因となるとも言われるが、ここでの発生頻度は高くない。
 貝柱に含まれる旨味成分のタンパク質は2割以上と、アワビより多く、サザエと同じくらい。これを煮て乾燥させると6割以上にもなることから、乾燥ホタテの貝柱はかめばかむほど旨味の出る食材として幅広く利用されている。外套膜(いわゆるミミまたはヒモ)にも旨味が乗っており、塩でもむなどしてヌルメを除去してから電子レンジなどで10分ほど加熱脱水してやるとパリパリの煎餅状になって磯の香ばしさとともに、その旨味は貝柱をもしのぐものがある(筆者の常食珍味でもある)。
 生物産業学部の学生たちは、「ホタテバイト」と称して、稚貝撒きの作業や水揚げしたホタテ貝の選別、網の掃除などに従事する者も多い。帰り際には、撒ききれなかった稚貝をスーパーのレジ袋に2杯も3杯も持ち帰り、みそ汁や炊き込みメシの具にして楽むなど、オホーツクならではのキャンパスライフを満喫している。特に、7月後半の定期試験を終えた打ち上げを兼ねたバーベキューパーティーなどには殻付きホタテを網で焼き上げ豪快に平らげるさまは他では味わうことのできない「ホンモノ」を知る機会ともなっている。



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