東京農業大学

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教員コラム

豊かな海の恵み

2015年12月1日

名誉教授 美土路 知之

オホーツクの地域資源 Foods Who(1)

 生物産業学部の立地するオホーツク地域を舞台にした地域活性化への取り組みを「食材」と「地域ビジネス」の視点からシリーズで紹介する。

流氷がもたらす自然と資源

 北海道を囲む三つの海のうち唯一「凍る」のがオホーツク海。冬場の漁の妨げとなる流氷は、漁業者たちにとって厄介な存在とされてきた。流氷が接岸する海域は、オホーツク沿岸が最南端で、大変に稀な地域とされ、北半球の大気や海洋、生物資源研究の価値は高い。食物連鎖の最底辺の広がりは類例をみないほどに大きく豊かで、そこを起点に海洋ほ乳類であるクジラやイルカ、陸地のヒグマ(もちろん人間も)、そして大空を舞うオオワシなど頂点に至るまでの「連鎖」系列は広く、深い。
 その流氷がオホーツク海に「豊かさ」をもたらす。ロシアを流れる大河アムール川から植物やミネラル類を含んだ栄養分が海に流れ出し、それを採食した植物プランクトンが流氷に閉じ込められてわれわれのオホーツク地域まで運搬されてくる。加えて、海面と海中とで生ずる氷と水との温度差で対流が促され、海底からも栄養分が供給される。その恵みが解明されて以来、流氷を厄介者扱いする漁業者、農業生産者はいなくなった。むしろ、近年の海水温の上昇傾向と地球温暖化による気候激変などを懸念し、流氷の量的減少や接岸期間の短縮傾向に危機感をもつ向きも増えている。 また、農業や畜産酪農にとって欠くことのできない「水」もオホーツク海域からの水分が、降水や降雪となって大地を循環していることを考えれば、「すべての一次産品の起点はオホーツク海にあり」も納得してもらえるだろう。

年間を通して楽しめる「海の幸」と旬

 オホーツク地域の豊かな資源の成り立ち、それらのもつ特別で質の高い食材は多くの人をうならせている。サケ、マスはいうに及ばず、カニ、エビ、ホタテをはじめ、オホーツクの海産物は絶品である。30年近くにわたるオホーツク暮らしで実感した海産物の「旬」カレンダーを示すと、別図のようになる。
 このカレンダー図を見ると、流氷が視界から立ち去る「海明け」の4月から、切れ目なく美食の素材がテーブルをにぎわすことが分かる。すでに示唆したとおり、流氷によって供給された栄養をたっぷりと取り込んだ海明けのカニは、ニシンとともに春を告げる幸せの逸品である。また、海底の栄養を取り込んだ昆布をエサに生息するウニも春から初夏にかけてもっとも食味が優れる。
 出荷できないハネ品のカニを、漁師小屋のストーブで焼いた「焼きガニ」は今でこそ居酒屋の定番メニューとなりつつあるが、知る人のみが知る「賄い飯」に過ぎなかった。ウニも同様で、鮮度は抜群だが型崩れしたようなものは昆布出汁たっぷりの鍋に放り込み、溶き卵とニラで食するウニ鍋はまだあまり知られていない(もっとも、それほど獲れなくなったこともあるのだが)。クジラ、マス、キンキ、シラウオ、ワカサギ、スケトウダラ、シジミは地元で「活き活き七珍」といわれ、観光客誘致の宣伝が活発だ。旬の時季に鮮度と品質の高い魚介類を、ここならではの食べ方で楽しむのが一番。地産「来消」──ぜひ、現地に来て体験してもらいたい。



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