東京農業大学

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教員コラム

林産製造学を復興に生かす

2015年3月1日

地域環境科学部 森林総合科学科 教授 江口 文陽

森林からの天然物を利用した製品の開発(10)

きのこの廃菌床堆肥や微細藻類を応用した土壌改良剤の開発

 林産製造学の基礎を駆使して「森林からの天然物を利用した製品開発」を目的とした実学・応用研究を続ける中で、貝化石やカキ殻粉末を培地に添加することで、カルシウムや鉄が多く含まれるきのこの栽培が可能となりました。
 2011年3月11日に発生した東日本大震災に伴って東京電力福島第一原子力発電所からの放射性物質が漏れ拡散しました。きのこ生産資材も大きな被害を受けています。培地資材からきのこへの汚染の移行を軽減させるための栽培技術開発も実施しています。そして、貝化石などの天然物を菌床培地に5〜10%程度添加すると培地からきのこへの放射性セシウムの移行を大幅に軽減させることが可能になることも明らかにしました。
 林産製造に関する応用技術は、きのこなどの栽培にとどまらず、ワサビや山菜、木炭、竹の子、木材の材質改良、紙やパルプの製造にも関連しています。また、きのこの抽出成分や樹木の材部、根部などから抽出した成分を利用した入浴剤の新規開発の可能性などについても研究を行っています。
 また、東日本大震災に伴う大津波により東北地方と関東地方の太平洋沿岸部の農地は塩害被害を受けました。2011年秋に仙台市の塩分1%を超える塩害水田に紙残渣及び微細藻類を用いた開発資材を投入し、4週間の実証試験を行って土壌塩分濃度が作付け可能な0.1%以下に改善させることに成功しました。すなわち、紙の製造工程で発生するミネラル緩衝作用を有する紙残渣と塩分吸収能の高い藍藻類であるフォルミジウムを用いた開発資材が除塩に効果的であることが見いだされました。
 塩害の改善のみならず農作物の収量を増やし、味や機能性などの品質向上を目的として、きのこの廃菌床堆肥や微細藻類を応用した土壌改良剤の研究開発を行っています。開発資材は、熊本、福岡、宮城、群馬、茨城、千葉、埼玉、新潟の各地で生産される米、小麦、ニンジン、ナス、イチゴ、ジャガイモ、タマネギなどの農産物と観賞用のランや林木肥培で効果が確認されました。その効果は、中国の塩害・アルカリ性土壌の改良試験にも使用され、多くの成果が得られています。
 きのこの廃菌床や微細藻類の応用研究では、有機物を活用した作物栽培の新規高付加価値生産技術の確立を目指しています。これらの研究は日本の農林水産業の更なる振興とともに日本の経済波及効果や生産者の栽培意欲向上のための一助になればと考え、今後も精力的に実施していきたいと思います。

写真1 培地栄養源を変えて栽培されるマンネンタケ
写真2 フォルミジウム紙残渣

 

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